ハニー2
ハニーダンジョンは、蜂の巣ダンジョンとも呼ばれていて、7割が魔蜂で、残り3割が他のダンジョンにも存在してる魔獣がいる。
魔蜂の全体の8割ほどが花蜜蜂で、先端が丸い蜜のような触覚とは違う花びらの触覚が特徴だ。その花びらも色々種類に違いはあるようで、ハナちゃんたちの触覚は、桜の花びらのような形をしていた。
ハニーダンジョンの魔蜂は、野生のミツバチがダンジョン内で魔物化したともいわれているが、定かではないとはいえ、ハニーダンジョンに生息していたはずのハナちゃんたち花蜜蜂が確かに目の前に居る。
「ニールくんはワートル村に住んでいるんだよね?」
内職するフウタの代わりにヒナタが率先してニールに質問していくも、後ろに重心を落としており、いつでも距離を取る準備はしているようだった。
「そうです……ぼく、ニールでいいです。『くん』はいらないです」
「あ、うん……わかった」
ヒナタの声も、まだほんの少しだけ震えているようにも聞こえる。
「それがどうして、ハニーダンジョンに?」
「ぼくのスキルは『養蜂』で、父ちゃんに巣箱を作ってもらって、ミツバチがいる場所に巣箱を設置してたんですけど、誘拐されたみたいで……気づいたら、ハニーダンジョンに居ました」
「はぁ!? 誘拐??」
「ゆうかい?」
丁度、玉止めした糸を切ったフウタが、首を傾げるミヒメに耳打ちして、誘拐について説明しているのを見て、ヒナタはニールへの問いを再開する。
「最近、養蜂家たちが行方不明になっていると聞いたけど、ニール以外にも、『養蜂スキル』の人たちがいたのかい?」
「いました。でも、そのほとんどの人たちは、誘拐されたわけではなくて、騙されてハニーダンジョンに連れてこられたみたいでした」
「騙されたというのは?」
「養蜂している人たちの多くは、村の外で野生のミツバチが蜜を集める花を育てているんですけど、その蜜を集めるミツバチが弱ってしまったり、育てていた花の生育も悪くなって、ハニーダンジョンでの養蜂を勧められたり、ハチミツが取れなくて借金のかたでハニーダンジョンに連れて行かれた人もいたみたいです。神聖教会の肥料が原因なんじゃないかって、言ってた人もいました」
ニールの話では、ハニーダンジョンのハチミツの生成が著しく低下し、効率化を図るために、ハニーダンジョンに籠りながら、養蜂スキル持ちたちがスキルを使ってハチミツを量産していたという。
神聖教会が養蜂家たちに、花の育成に良い肥料を安く売り、最初は花の生育も良好で、ハチミツの量も増えたということだったが、次第にミツバチも弱り、花も枯れるようになった。
その肥料も最初は安く売っていたが、どんどん値段を上げ、借金を作らせ、ハニーダンジョンに行くしかなくなる状況に追い込んだようだった。
「また、神聖教会か……話を聞くに、黒、だろうな――どうだ? きつくないか?」
フウタはヒナタとニールの話に聞き耳を立てながら、出来上がったおくるみ服をハナちゃんに着せていた。触覚や羽の動きを邪魔しない仕様になっており、ハナちゃん希望のフリルもある。期待以上の満足度だったようで、フウタの手のひらに、二つ目の報酬――蜜玉が落とされた。その様子をミヒメは目を逸らさずにじぃ~っと見ていた。
「今日の寝る前のホットミルクに入れるから、なっ」
ミヒメは肯くも、フウタの収納魔法に入れる蜜玉から目を離さない。しばらく、出てこないかと見張っていた。
「ハニーダンジョンが大崩壊したって聞いたけど、よく無事だったね」
ヒナタはフウタとミヒメのやり取りを横目で見ながらも、ニールとの会話に集中していく。
「ハナちゃんのお母さんがぼくたちを外に逃がしてくれました。ぼくが目覚めたところが、ハナちゃんのお母さんの巣実家で、お母さんは大女王蜂でぼくの母ちゃんみたいに大きくて、それで息子みたいに可愛がってくれました」
「そうなんだ……」
目覚めて母親くらいの大きさの蜂が目の前に居たら、発狂しそうだとヒナタは想像して身体をブルブルと震わせた。ハナちゃんもいずれ、そこまで大きくなるのかと思うと、慄く。
フウタもブルっと震わせ、怖がっている様子もなさそうなニールを見て、大物だと感心していた。
ミヒメは、ハナちゃんくらいなら可愛いけど、リゼットの大きさの蜂はちょっと怖いなと、フウタの上着を無意識に掴んでいた。




