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この度、妹にペットされまして……双子の兄弟は先輩の大根と妹を愛育しながら旅をする!  作者: 三田黒兎素
第5章 ハニー

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ハチミツ2

「……これだけあれば、充分かな。というよりも、有り過ぎだよね」


 気が付いたら、薪の束がいくつも転がっていた。

 ざっと見たところ、湿った枝もなさそうで、ヒナタはほっと一息を吐いた。

 切株を見つけて、一旦そこに腰掛け、休息をとる。

 大して疲れてはいないが、すぐに戻るのも気が引けた。


「あ~あ、カッコ悪い」


 どんな顔をして戻ったらいいのか。どんな仮面を着けて戻るべきか。空に向かって顔を創るも、映る鏡がない。想像しても、どの顔もしっくりこない。


「ハチミツ……そんなに好きでもないんだよね」


 ヒナタはハチミツ独特の味があまり好きではない。それは紛れもなく、本当だった。無ければ無いで、我慢できるし、手に入らなくても問題なかった。甜菜糖蜜で充分満足していた。


「嘘は言ってないけど……はあぁぁ~」


 戦力は申し分ないかもしれいが、装備は心許ない。例え、装備が充分だとしても、今はまだ――できることなら、もう二度と魔蜂とは対面したくない。ヒナタの気持ちは後退する一方だ。

 今この瞬間も、魔蜂に刺された記憶が蘇ってくる。思い出すと、今も現実であるかのようにその時の痛みも苦しみも感じてしまい、すぐに記憶の蓋を閉めてしまった。

 だから、ミヒメの『お願い』よりも心的外傷が凌駕し、弾き返した。


「ハチミツさえ口に出さなければ……」


 自分でも驚くほど冷たい声が出た、とヒナタは自覚していた。

 笑って誤魔化すこともできなかった。


「ん?」


 項垂れるヒナタの上着が軽く引っ張られる感覚があった。


「えっ、どらちゃん!?」


 サイドポケットから這い出てくるどらちゃんと目が合った。

 どらちゃんは、ヒナタの膝の上に移動すると、身振り手振りでヒナタに指示を出す。


「薪拾って、戻る?」


 その通りだと言わんばかりに身を後ろに反って表現すると、今度はヒナタの肩へと這い上がって行った。


「どらちゃんが居るなら、戻らないとならないね」


 戻る理由ができてしまった。どらちゃんの命令に素直に従い、薪の束を拾い、来た道を戻っていく。

 それでも足取りは重く、できるだけゆっくりと歩く。

 どらちゃんが何も反応せず、黙ってヒナタの肩に乗っていた。

 ゆっくりと進む分、周りの景色がよく見えた。


「気持ちいいね」


 深緑の匂いが尖った心を和らげていく。息を吸うたびに、どす黒い感情が洗われて、吐くとへばり付いていたゴミまでもが出ていき、呼吸が楽になっていく。

 植物の活き活きしたエネルギーに、澱んでいた魔力も透き通っていくような気がしていた。


「ただいま~」


 ヒナタは努めて明るく、声を出した。


「薪、いっぱいになっちゃった」

「――ヒナタ。おかえり」


 フウタの不安で強張っていた顔が、ヒナタを目にした途端、見る見るうちに緩み、安堵の表情に変わっていくのが分かりやすい。ヒナタは自分が要らないと思われてなくて良かった、とホッとした。


「ぉかぇりなさぃ……」


 フウタの腰の辺りから、ミヒメは顔をひょっこりと出し、消え入りそうな小さな声で、ヒナタを迎えた。


「うん。ヒメちゃん、ただいま」

「あ、あのね……ミミ、ハチミツ……いらないから。なくても、大丈夫なの。だから……」


 ミヒメは何度も顔を上げてはヒナタの顔を見ようと決心するも、目を合わせるのが怖くて、さっきみたいに無関心な目で見られていたらと思うと、目が合う直前に顔を下げてしまった。


「みんな、いっしょじゃないとやなの~。ひーたんもふうちゃもどらちゃんもくぅちゃんもいっしょじゃなきゃだめなの~」


 ミヒメは俯いたままフウタの一歩前まで出てきて、一大決心したのか思いっきり顔を上げて、ヒナタを真っすぐに見た。


 ――目が真っ赤っかだ。


 今にも零れ落ちそうなくらいに目を大きく見開いて、ミヒメは紫陽花の瞳にヒナタだけを映した。

 それも一瞬で、じわっと潤んできた涙で、ヒナタの姿はぼやけていく。


「ひーたん、いかないで~。ミミをおいていかないでぇ~」


 ミヒメはヒナタ目掛けて走り出した。零れた涙は置き去りにされるように後方へと流れ落ちて行った。


「ぐぇっ」


 一切の手加減のないミヒメの体当たりに、ヒナタは衝撃で腕に抱えていた薪の束をミヒメの頭に落とさないようにするのが精一杯だったから、ミヒメを受け止める余裕もあるはずがなかった。


「うぅぅ~」


 抱きしめ返してくれないヒナタを見上げるミヒメは不満そうだった。


「コレは、オレが持ってやるから……よっと。結構、重いな……じゃなくて、ほら、ヒナタ――」


 フウタが傍に居ても、今はヒナタだけを見つめるミヒメに、喜びの感情しか生まれなかった。

 憎しみはなかった。愛しいという感情に支配されていた。


「ヒメちゃん、ただいま!」


 ヒナタは空いてしまった隙間を埋めるように、両手でミヒメの身体を持ち上げ、ミヒメの額にコツンと自身のを合わせた。

 額同志を合わせる儀式は、三兄妹の仲直りの合図だった。


「ん?」


 フウタは肩に違和感を覚えた。

 ヒナタの肩にいたどらちゃんは、フウタの肩の上に移っていた。

 フウタの肩は濡れていた。どらちゃんが土色から瞳から流す大根の汁で濡れていた……。

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