かくれんぼ
ヒナタとフウタが魔物解体を終えて村長宅に戻ると、甜菜の解体作業が待っていた。
兄たちが解体に勤しんでいる中、ミヒメは村長の孫であり、オーシャンの娘である――ルナリーナと甜菜糖の内緒話をしてしまっていた。どらちゃんとの関係にも羨ましくなったルナリーナは、柚大根たちの中から一本を選び、お友達になろうと語りかけた。それに応えた柚大根は柚甜菜へと進化し、マンドラゴラ化した自分たちを、これからも守ってもらえるようにと柚甜菜となり、ルナリーナと契約した。ルナリーナのスキルが『しゅご』だったから。
柚大根たちは知っていた。この村には、自分たちを守る力が生まれ育っていることを。
ルナリーナに守護された柚甜菜は、お礼にと柚甜菜の種をたくさん生み出し、どらちゃんと競い合い、その結果、たくさんの甜菜と柚甜菜が畑に溢れかえった。
村長一家が総出で甜菜と柚甜菜を収穫し終えた頃、ヒナタとフウタ、オーシャンたちが帰宅となった。
出迎えたミヒメとルナリーナの両腕には、甜菜と柚甜菜を抱えており、ヒナタとフウタは解体作業はまだ終わっていないと悟り、遠い目をしていた。
オーシャンは、柚大根とは違うマンドラゴラがルナリーナの肩に乗っていることに、しかも知らぬ間に契約していることに気づき、これから多大な苦労が待ち受けていることも悟り、大きな口を開けたまま絶句していた。
幸いにもレインも村長に用事があるということで、村長宅に泊まることになり、一緒に甜菜糖作りもすることになった。
即戦力となったレインのお蔭で、作業も半分もかからずに終わった。
ただし、余った時間は、収納袋と魔導鞄作りに費やされた。
「お兄ちゃん、レインっていうんだ~。妹ちゃんのお名前、お兄ちゃんに教えてくれる?」
「え~っとね、ミヒメ……なの」
刺繍しているフウタの背中に隠れているミヒメの身体は僅かに震えているように感じた。顔を少しだけ出して、レインをそっと窺っている。先程まで柚風味の甜菜シロップにホクホク顔をしていたとは思えないくらいに、レインをどこか警戒しているようだった。
「お兄ちゃん、面白いスキル持ってるんだ。それで、ミヒメちゃんを祝福したいな~って。ダメかな?」
「……どんなスキル?」
「かくれんぼできるスキル、かな。ダンジョンに入るのに、便利なスキルなんだけど、どうかな?」
ミヒメはフウタの背中に完全に隠れてしまい、どらちゃんと何かこそこそと内緒話をしていた。
レインは困った顔をしながら、深くため息を吐いた。
「あっ、そうだ。ミヒメちゃんのお兄ちゃんたちも、祝福するよ。それで大丈夫だったら……どうかな?」
レインは、革を鞣して鞄作成中のヒナタと、陣を刺繍するフウタを伺い見る。
作業を邪魔されたからなのか、妹を誑し込めようとする変態に思われているのか、ヒナタもフウタもレインを胡散臭そうに見つめ返していた。
「……君たちの両親のナイトさんとリゼットさんにも同じかくれんぼスキルで祝福したんだよ。本当だよ。それに、リゼットさんにいっぱい前払いしてもらってるから、君たちの分もあると思うんだ」
ミヒメとの内緒話が終わったどらちゃんが、フウタの背中から出てきて、トトトっと小さな音をたてて、レインの前に威風堂々と立った。
「えっ!? これ何??」
どらちゃんが、レインに向かって種をふたつを差し出した。
その種は、窓から差し込んだ夕日に反射しているのか、発光していた。
「向日葵の種と」
「南瓜の種、だな」
「そうなんだ。それで、これ受け取っていいのかな?」
レインは、ヒナタとフウタを何度も交互に見て、最後にどらちゃんを見た。
「どらちゃんも、これで祝ふくして欲しいって。もうひとつはくぅちゃんの分だって。これ食べると、元気になるんだって」
ミヒメがフウタの背中から、ゆっくりと出てきた。その手にはミヒメ専用のおやつ袋があった。
「レインお兄ちゃん、はい、これ! 元気の種、いっぱい入ってるよ。これでみんなにしゅく福してください。お願いします」
ミヒメはどらちゃんの隣でレインに向かって、お辞儀した。
その種は、昼間、ルナリーナと一緒に作ったミヒメのおやつだった。仄かに光っているのは、ルナリーナの守護が付与されているからだった。
「くぅ~ん」
くぅちゃんもミヒメの隣で伏せをして鳴いた。
「元気の種、ありがとう。すっごく嬉しい。僕の手がおでこに触れたら、隠したい称号とかあったら、それを思い浮かべてね。そうしたら、かくれんぼするから。ただし、大きな怪我だけはしないでね。祝福切れちゃうから」
嬉し泣きしながら、レインは『まおう』と『まおうのペット』の称号を隠蔽する祝福を『まおう家族』に贈った。
早速、ヒナタとフウタは、自分たちのステータスを確認した。ステータスは、祝福を受けた後は、自分で確認することができる仕組みになっていた。
――まおうの『ぺっと』が『ペット』に進化している!!
ヒナタとフウタは、そのことに気づいてしまい、心の中で嬉しくも哀しい涙を流していた。
確認すると称号の最後には、『隠蔽』の文字が綴られていた。
身を隠すように旅をしていたが、これからは人の行き来がある道も歩いて行ける。
ダンジョンに入る際、称号やスキルなどが確認されてしまうこともあるから、絶対に避けなければならなかったが、今後はダンジョンに入ることも可能になった。
「ダンジョンってどんなところなんだろう? 入るの楽しみ」
ダンジョンコアの件もあるから、そう易々と入るわけにはいかないが……ミヒメのお願い、抵抗できるか自信がないなと思い悩む兄たちの姿が気の毒そうだった。




