せんとう7
商業ギルドの隣の倉庫では、冒険者や解体師など総勢20数名が討った何千頭もの魔物を解体している中、先頭を切るように自分たちが討った魔物を収納袋から出して、解体していく少年ともいえる若い双子の兄弟の姿があった。
「ほぇ~」
「俺たち、要る?」
「いや、負けちゃいられねぇ~」
「つーか、何だ、あの解体器具は!?」
双子の兄弟――ヒナタとフウタの腰には、大小様々な解体道具が入った鞄が下げられていた。用途に合わせて道具を出し入れし、細かい作業には剪刀を用いて、チョキチョキと剪んで切って皮を剥いでいく。切り口も綺麗すぎるくらいで、巧みな技だ。
「お前ら、口だけじゃなくて、手も動かせ! オレだって、色々訊きてえのを我慢してるんだよ!! 坊主たち、後から詳しく、話を訊かせてくれな、頼む。オレの解体スキル魂が久しぶりに昂るぜ~うおぉぉおお――!!」
ベテラン解体師――カイツールの解体速度が限界突破し、目にも見えぬ速さで、次々と魔物が双子たちのよりも鮮やかに解体されていく。
「ふぅ~、ボクたちの分は終わったかな」
「これで、最後みたいだな。一先ず、お疲れさん」
使い切りの収納袋が役目を終えたのか、縫い目が解けてバラバラになっていた。一瞬光ったのは、隠していた陣があった場所だった。こちらも役目を終え、刺繍ごと消えたと思われる。
「ん、お疲れ~」
ヒナタとフウタは揃って、こめかみから鎖骨へと落ちていく汗を手の甲で拭っていく。
「少年の汗って、爽やかだな」
「おれっち、なんか、ドキッとしたよ~」
「おまっ、思ってても言うな! やばいぞ!!」
「やばいのはお前もだ!! いいか、近寄るなよっ」
「お前だって、言わないだけで、同じじゃね~か」
「いんや、違うね~」
「俺らもまだ若いけど、少しばかり、油混ざってるよな……」
「おまえらは、少しなんだからいいじゃねぇか。俺たちなんて……」
「――お前たち、手だけは動かせ!! 今の終わったら、一旦、休憩する。いいから、さっさと終わらせろ!!」
カイツールの激が飛ぶ中、身の危険を感じたヒナタとフウタは、倉庫の隅で隠れるように自作の補給水を飲んで休憩していた。
「君たち、何飲んでるの? 美味しそうだね?? もしかして、昨日配ってくれた、回復薬だったりする?」
ヒナタとフウタが休憩していた倉庫の隅っこで黙々と解体していた、珊瑚のような赤い髪のやや細身の青年が二人の傍に立っていた。翠玉のような瞳は、補給水に釘付けになっていた。
気配はなかった。気づいたら傍にいた。腕の冒険者証には金剛石が嵌められており、最上級の冒険者だと確認できた。
記憶を探ると、真っ先に最前列に向かい、先頭を斬ったのは、赤い髪のこの青年だった。双剣を巧みに操り、剣を盾のようにして、防御と攻撃を上手く使い分けてもいたのを思い出す。
「これは、昨日のとは違くて、疲れに効く補水液? 魔力はあんまり回復しないけど……」
「僕にもひとつ、売ってくれないかな?」
「あ、え~と……ヒナタ、檸檬持ってる?」
「ん~と……ないみたい……どうしよう!? ヒメちゃんの分も飲んじゃったよ、ボクたちっ」
「あちゃ~、まずいな。この村って檸檬あるのか?? 檸檬の産地って――反対側じゃねぇか~!?」
既に飲み干してしまった手元のコップを見下ろして、オロオロしだすヒナタとフウタ。
「……檸檬? それなら、僕、沢山持ってるよ。何だったら、全部あげるよ」
赤髪の青年は、魔導鞄から檸檬がたくさん入っている収納袋を取り出して、その中から檸檬をひとつ取ってヒナタとフウタに差し出したが、檸檬よりも見覚えのある収納袋に目が向かってしまった。
「それで、コレ――君のだよね?」
そう言って、フウタの目の前で収納袋を揺り動かした。
フウタは黙って肯き、ヒナタは赤髪の青年を見定めるように目だけを上下左右に動かしていた。
「そういえば僕、名乗っていなかったね。レインだ、よろしくね。見ての通り、金剛級の冒険者で、昨年、昇級したばかりなんだ。ナイトさん――君たちのお父さんとは何回か臨時でパーティーを組んだこともあって、昇級のお祝いに、この収納袋を貰ったんだよ。この収納袋には、助けられたよ。詐欺師に騙されそうになったんだけど、そいつ、この袋に弾かれちゃって、ちょうど街中だったもんで、街の警備員に連行されていっちゃった。あいつ、何人も騙してたみたいで、そのうちの一人からお礼だってたくさん檸檬もらっちゃったんだ。ありがとうね。だから、この檸檬は君たちのお礼でもあるから、遠慮なく受け取って。ね、はい!!」
ナイトと知り合いだというのは間違いなさそうだった。フウタ手製の収納袋を問題なく扱えているということは、悪意がないと証明もしている。
ヒナタとフウタは、張り詰めていた緊張の糸を緩める。それぞれ、目尻と眉間にできていた皺が消えていく。差し出された、檸檬と檸檬が入った収納袋を受け取った。
「ナイトさん、息子自慢ばかりでさ~、いっつも褒めて褒めて褒めまくっててね。物凄くたくさん解体して、魔物の急所とか調べて何度も試して、どのように刃を通したら最小限の力で斬れるのかとか、研究したんだってね。だから、僕もできるだけ解体に参加するようにしたら、憶えた身体が勝手に動くのか、少しの力で斬り落とせるし、その分、体力も温存できるようになったから、討伐数も増えて、昇級が早かったのも、解体のお蔭でもあるんだ。特に今回の魔獣大量討伐は、自分至上最高の力が発揮できたよ。君たち……えっと――」
「ヒナタです」
「フウタ」
「ヒナタくんとフウタくん、二人が後ろでたくさんの魔獣を討ってくれたから、村もほとんど被害なかった。君たちのお蔭だよ。ナイトさんの言った通り、凄かったよ」
レインはヒナタとフウタに向かって、ニコッと笑い、ウインクした。
「解体に慣れた魔獣ばかりだったから……」
「初めての魔獣は手こずった……」
新種の魔獣もいくつか対峙し、怪我の原因が新種だったこともあり、ヒナタとフウタは悔しそうな顔をしていた。
「得物だって、普通の剣じゃないよね?」
見慣れない武器にレインは興味津々で、唇が触れそうなくらい、二人に近づく。
「鉈をアレンジした剣です」
「……解体包丁をアレンジした刀」
「へ~、凄い、凄いよ~。ほんと、凄い~。胸張れよ、君たち。ナイトさんの自慢話を目の当たりにしたけど、それを超えるくらいに凄かったよ~」
ナイトに褒められて照れるヒナタとフウタは、赤くなって顔を隠すように後ろを向いて、魔導鞄から、食卓机を取り出した。いくつかの材料もだし、二人仲良く、檸檬を切り始めていく。
「あ~、とりあえず終わった~」
「何か、いい匂いがする~」
切れのいいところで解体作業を一時中断した、解体師と冒険者が補給水目当てに近寄ってきていた。
「お前ら、休憩終わったら、引き続き解体していけよ!」
「わ~ってるよ。もんのすごい、いいお話聞けたんじゃ、解体サボるわけにはいかんわな」
「ちがいね~」
レインたちの解体話を盗み聞きしていた冒険者たちは、戦闘スキル持ちでも、そうでなくとも戦闘の幅が拡がると、大いに盛り上がる。
「師匠、ぼくも解体、たくさんがんばります!! 今度は、ぼくもお兄ちゃんたちみたいに村を守るんだ」
戦闘スキルがなくとも、充分戦える。それが、ヒナタとフウタの活躍によって、昨日、証明された。
その証明は、解体スキルを持つ少年――セナの未来を明るく照らした。
解体に身が入らなかった弟子でもある息子の目が輝くのを見る師匠――カイツールの頭も眩しかった。
俯いた父親の目から、ポタポタと涙が零れ落ちていくも、皆が補水液に興味津々で誰にも見られることもなかった。
数年後――セナも魔獣討伐に加わり、解体師父子の活躍が世間を賑わせ、人気職となった。




