せんとう5
「いや~、傷が身に染みる~」
「そして、これがクセになる~」
「やっぱり、戦闘のあとは、銭湯に限る」
おっちゃん冒険者に連れられて、ヒナタとフウタは男湯に、ミヒメはおっちゃん冒険者の奥さんたちと一緒に女湯に入っていった。どらちゃんも一緒だから、大丈夫だろうと男湯の扉を開けると、先頭で活躍していた男性冒険者たちが先にお風呂に入り、まったりしていた。
女性冒険者たちも、女性専用のお風呂で同じような状態になっているだろう。
今頃、くぅちゃんは従魔専用のお風呂に入っているはずだ。もふもふ好きの女性たちに連れていかれれた。
「お前たちも入んな。うお~しみるぜ」
「――っ!」
「くぅっ――!」
洗い場で身体を洗い、おっちゃん冒険者に促されて、ヒナタとフウタも湯舟に足を入れ、一気に肩までお湯に浸かった。
傷に染みたのは一瞬で、その後はじんわりと身体が温まり、傷や筋肉の痛みも次第に消えていった。腕の浅い傷はもう治っていた。枯渇しかけていた魔力もゆっくりとだが、回復していた。
「えっ、どらちゃん!?」
「つーか、いっぱい、いないか!?」
湯舟の中に、たくさんの大根がプカプカ浮いている。
「これがうちの名物、柚大根だ!」
そう言って、おっちゃん冒険者は浮いていた柚大根を掌に載せ、ヒナタとフウタの目の前に持ってきた。
「昔は柚を浮かべた、柚湯だったんだが、いつの間にか黄色い柚が白くなっていたんだよ。形と匂いが柚にも似ているから、銭湯の看板娘が『柚大根』と名付けたら、マンドラゴラ化した……というわけだ」
「いい匂いがする~」
ヒナタもいつの間にか、柚大根を手に載せて顔を近づけていた。
フウタも同じように顔を近づけ匂いを嗅いだ後、少し離して形や葉、重さなどをしつこいくらいに観察していた。
「おっちゃんさ~、「オーシャン」という名前なんだよ、ほんとはな。ちっちゃな子たちが、倅も娘ちゃんも、お父ちゃんもオーシャンもうまく言えなくて、「おっちゃん」と言われるうちに、自分でもおっちゃんというようになったんだよ~」
おっちゃん冒険者――オーシャンは、哀愁漂う顔で、持っていた柚大根に額を合わせていた。
「おっちゃん、これでも商業ギルド長なんだよ、村長の息子だから、遠くない未来、村長になるだろう。何事もなければ、だが……この柚大根、神聖教会に目をつけられたみたいでな。依頼されたのか、つい最近、怪しい冒険者が盗もうとしてな……」
オーシャンの厳しい青金石の瞳がヒナタとフウタを捕らえた。
「お前たちが使っていた収納袋――生き物は入るのか?」
鋭さを増した青金石の瞳が問うてくる。
周りの冒険者たちも狩人のように、ヒナタとフウタを視線で捕えていた。
ヒナタとフウタの咽喉がゴクリと音が鳴った。
製作者である自分が話すべきと覚悟を決めて、フウタは閉じていた口をゆっくりと開いた。
「――生きたものは入れない。倉庫1棟分の容量はあるが、一回限りの使い切りになっている。悪用できないように陣も施している。その陣は、悪意を持つ者を撥ね退ける。後で、じっくりと確認してもらってもいい」
フウタが話し終えると、ヒナタはフウタを守るように、半身前に出た。
暑さもあり、全身から、滝のような汗が流れていく。
「……ふ~。脅すような真似をして悪いな。疑っているわけではないんだ。商業ギルド長として、興味があってな。ただ、未来の村長としても、確認させてもらう。逃げないだろ? 悪い事してるわけじゃないんだしよ」
「逃げません」
「堂々としてやる」
「袋の確認のためにも、お前たち兄妹は、おっちゃん家に泊まりな」
ヒナタとフウタは同時に即座に肯いた。
「んじゃ、決まりな! お前たちも、今日はゆっくり家や宿で休め。明日、ギルドに来い。総出で魔獣を解体する!!」
「うへぇ~」
「だよな~」
「へいへい」
「りょーかいー」
冒険者たちが苦笑しながら、次々と湯舟から上がっていった。
「十分すぎるくらいにあったまったし、このままじゃ、湯あたりしちまうぜ。あがるぞ!」
銭湯の看板娘が『本日の営業終了』の看板を立てると、柚大根たちは、役目が終わったと、村のあちこちに散らばり、どこかの土の中で眠りに就くのだった――。




