せんとう3
「――来る」
赤い珊瑚色の髪の冒険者は立ち上がるとすぐに、魔獣が来るであろう方向に向かって一気に駆けて行った。
「俺らも行くぞ――」
魔獣到来を察知した冒険者たちも立ち上がり、身体を解しながら駆けていく。
「もうちょっと、休ませろや~」
「あいつら、もうちょっと気を利かせろ」
後方を守る冒険者たちも魔獣を迎える準備万端に、ミヒメたちの前、先の先へと陣を取っていく。
「ちょ、ちょ、せめてあと1分待って~」
「1分じゃ足りな――って、多すぎない!?」
ドドドドドドドドドッと大群の足音と共に、たくさんの黒い影の軍団が肉眼でも捉えた。
大小様々な四足歩行型の魔獣を確認した。
「みんな、耳をりょう手でふさいで~!!
魔獣の群れが後数秒で到達する時――ミヒメのお願いが発動した。
強制するほどの力はないが、誰も彼もが逆らくことなく従順に、ミヒメのお願いが今の状況を優勢の一手となるのが感覚で理解したのか、一斉に皆が自分の耳を両手で塞いだ。
「ワォ~~~~~~ン」
くぅちゃんの大きな遠吠えが振動の波となって魔獣たちに向かっていく。
手で塞いでいるというのに、くぅちゃんの遠吠えは耳に響いた。塞いでいる手も痺れるように震えた。
それはくぅちゃんが目覚めた必殺技――超音波口撃だった。
味方にとっては魂をも揺さぶる感覚があり、まるで鼓舞しているかのようであり、腹の底から力が這い上がってきているような気さえした。
敵にとっては、脳震盪を起こす衝撃となった。超音波口撃を喰らった魔獣たちは、聴覚が鋭敏すぎる故に効果抜群で、その場で倒れるモノが半数、悶えて立ちつくすモノがその半数、残りは一度は立ち止まるも耐えきった魔獣たちが一拍を置いて、冒険者たちへと襲い掛かっていった。
「ボクが数を減らすから、フウタ――後をお願い! ヒメちゃんを守って!!」
ヒナタはフウタにミヒメを託して、颯爽と駆け出しフウタたちの数十メートル程前に陣取った。本領発揮と両手に得物を顕現させ、ベテランの冒険者たちが討ち損ねた魔獣を屠っていく。
それでも魔獣の数は多く、くぅちゃんの超音波口撃から立ち直った小物といってもミヒメ程の大きさがあり、頭に角や口の端からは大きな牙を生やしたウサギやネズミといった魔獣が次々に襲い掛かり、フウタのところにも魔獣がどんどん押し寄せてきた。
フウタも両手に得物を顕現させ、魔獣を葬っていく。
ミヒメは影魔法を操りながら、魔獣を足止めしたり、使い切りの収納袋を拡げて、討ち倒した魔獣を回収していった。
くぅちゃんも、器用に魔獣一匹一匹に超音波口撃を発射し、冒険者たちを助けていった。
どらちゃんも、植物を操って地面から蔦を生やして、魔獣を捕獲したり、足止めしたりと、毒や痺れ効果のある植物の棘で巻き付けて致命傷も与えていった。
ヒナタもフウタも、駆け出しとは思えない程に鮮やかに魔獣をほぼ一撃で斬っていく。
「ヒナタ――!?」
魔獣の血で足を滑らせたヒナタの体制が崩れ、その隙を衝いて豹の魔獣がヒナタに襲い掛かっていく。
「おっと……フウタ、ありあとー」
寸でのところで、フウタが腰のベルトから取り出して投げた針が、ヒナタを襲う魔獣へと突き刺さった。針に仕込んでいた毒で、魔獣が泡を吹いて倒れた。
ヒナタは新たに襲ってくる魔獣をバク転して回避して、魔獣から魔獣へと舞うように移動して、討ち取っていく。
ベテランの冒険者たちが大物の魔獣を相手にしているとはいえ、ヒナタもフウタも小物ばかりでもなく、ベテランの冒険者たちの合間を縫うように移動してくる大型の猪の魔獣が一匹、ミヒメにも襲い掛かってくることもあったが、ヒナタもフウタも一対一であれば難なく、数度の斬撃で屠っていった。二人とも、とにかく、急所を狙うのが巧かった。
最小限の動きで二本の得物を巧みに操り、魔獣を斬っていく。どの場所に刃を入れたらスムーズに斬れるのか、その刃が欠けるのが減らせるのか、職人技を思わせる動きだった。時には、鋭い針や釘のようなものを投げて隙を作り、魔獣を討ち減らしていった。
ただ、ミヒメを守りながら魔獣と相対する分、ヒナタよりもフウタの負傷は多かった。
フウタの奮闘により、ミヒメが傷つかなかったことに関しては、フウタの誇りとなった。
「ふぅ~終わった~」
「終わったな」
「うん、おわった」
「ウォン」
日が暮れる前に、最後の魔獣到来は終わりを告げた。
ミヒメたちは、大地の上に大の字になって大きく四肢を伸ばしていた。
くぅちゃんも地面にベタっと臥せって伸びていた。
「ミミ、役にたった?」
「メチャクチャ、役に立った。すごく助かった。ミヒメ、ありがとうな」
「ヒメちゃん、ありがとう。サイレントギルド長のおかげだね」
ワスレナグサ村の冒険者兼商業ギルド長のサイレントは、ミヒメと同じ闇属性で、サイレントの家に滞在中、ミヒメはサイレントに指導を受けていた。道中での戦いで、影魔法を器用に扱えるようになっていたが、ぶっつけ本番のようなものだった。
くぅちゃんは、大根たちにスキルの使い方を習っていたらしい。
「……フウタは凄いね。ヒメちゃんを傷ひとつ負わせないで、守り切ったんだから」
「あほうが。だったら、隣で一緒に戦えば良かっただろ?」
お互い、顔を見合わせることなく、ヒナタもフウタも空だけを見上げている。
「ボク……守るのが苦手というか……フウタってさ、自分がどれだけ傷つこうが、守ろうとするでしょ? だから、ヒメちゃんを任せられるし、ボクが数を減らせば、フウタも少しは楽になるかな~って。ボクが倒れたら、フウタも守るどころではなくなるから、ボクはヒメちゃんを守るフウタも守るためにも、絶対に倒れないよ! ……なんて言っときながら、フウタに助けてもらってるし。フウタ、助けてくれてありがとう。ボクよりも、傷だらけだし。守りながら戦う方が大変なんだよね。ホント……ごめん」
「謝るなって。分かったから。けど、守るのが苦手だろうが、オレだって、別に守るのが得意でもないんだし、練習しようぜ」
「うん、そうだね。もっと、強くならないと、守るものも守れないよね」
合図したわけでもないのに、ヒナタとフウタ、二人同時に、上半身を起こした。
「ミミも、つよくなる!!」
少しだけ遅れて、ミヒメも起き上がった。
「えい!」
「えい!!」
「お~!!」
「ウォン!」
「……ぉー」
兄が二人、お姫様がお一人、狼が一匹、最後に大根一本が空に向かって、拳を突き上げた。




