初幕
「一匹、取り逃がした――フウタ!」
角を生やした兎の魔物が一匹、ミヒメを守るフウタに襲い掛かっていく。
「任せろっ!」
フウタは顕現させていた得物で、角兎を難なく屠った。
倒された角兎は、二本の刃で瞬く間に解体され、家事スキルの収納魔法に収められた。
家事スキルで重宝しているのは、この収納魔法だ。生活魔法でも収納魔法は使えるが、約畳2枚分――1.5~2㎡――が限界とされるのに対し、家事スキルの能力が上がれば上がるだけ、収納するスペースは畳だと100枚くらい拡大できると公表されていて、フウタは、その半分の畳50枚分まで収納できるようになっていた。
フウタは畳100枚分の収納を目指して、日々、家事スキル能力を上げている――といっても、家事は嫌いではないが、別に好きでもない。ただ、得意なだけで、経験値を上げれば上げるほどに既存の魔法の質は上がり、様々な魔法も使えるようになるから、必要にも迫られて家事をしているにすぎない。
――鍛冶が良かった。
戦闘の度に、フウタは心の中で呟く。
家事はフウタの得意とするところではあるけれど、戦闘面に於いては、ヒナタの鍛冶スキルの方が適していた。
父のナイトが使うような大剣は創れなくても、日常生活で使う刃物しか創れなくても、刃物を扱い方はヒナタの方が断然得意だった。得意故に得物も違うし、殺陣の腕も、フウタよりヒナタが上だった。
ヒナタはサイレントたちが住まうワスレナグサ村を出てからは、魔物を見つけたら、一目散に駆けていく。最近は特に殺気立たせながら、魔物へと向かっていく。
出遅れるフウタはいつもミヒメを守るように傍を離れずに、ヒナタが逃がした魔物を屠っていく。
「ごめんね、一匹、逃がしちゃって。フウタが倒してくれて助かったよ。ありがとう」
ヒナタがお日様のような笑顔を向けながら、フウタたちの元に戻ってくる。
「いや、いいよ。オレの腕が鈍らない程度に、逃がしてくれて構わない」
ヒナタを真っすぐに見れなくて、フウタは少し俯いた。
「だったら、次は交代しよっか。ボクがヒメちゃんの傍にいるよ」
「そうしてくれ……」
「あのね、ミミもいっしょにたたかう!」
「ウォン!」
多分――次もヒナタはフウタを置いていく。そんな気がして、フウタは恨めしい気持ちを誰にも見せなたくなくて、俯いたまま顔を上げれなかった。




