幕間
「――跡形もなく、ものの見事にダンジョン崩壊しているな」
ミヒメたちの父であるナイトが高台から、ハニーダンジョンがあった場所を眺めていた。
「ダンジョンコア自体が消滅したわけではなさそうね。魔獣大量発生を隠れ蓑にして、誰かがダンジョンコアを持ち出していった――これは勘だけど、ダンジョンコアを持ち出したのは、神聖教会関係者ではないと思うわ」
ナイトの隣では、桃色の瞳を光らせた、母のリゼットが鑑定眼スキルで痕跡を視ていた。
「ダンジョンコアを保護したかったんだけどな……」
「そうね。ミヒメにお願いして、ダンジョンコアに封印された魂を解放させてあげられたんだけど」
ダンジョンは、この世界にとっては、なくてはならないものになっているから、そう簡単にダンジョンを崩壊させることもできない。
ダンジョンコアがなくとも、ダンジョンが維持できる方法があれば、ダンジョンコアの犠牲になる者もいなくなり、世界は平和になることだろう。
それが最適ではあるが、その方法を考えるのはナイトとリゼットではない。二人に託されたのは、『始まりの地』に封印されている『魔王と名付けられた始まりの聖女』が自らの身に溜め込んだ瘴気の浄化だ。
「この新生種の大根たちのおかげで、浄化も治癒も何でもできる『万能薬』をまた作れるようになったんだもの、ミヒメだけには負担はかけさせないわよ」
リゼットに頭を撫でられる大根は、喜んでいるのか、真っ白の身体がほんのりと赤く染まっている。
リゼットは、聖女でなくなると同時に、神聖力もなくなった。回復魔法を使うことはできても、浄化する力を失った。
瘴気の浄化を託されたのに、浄化する能力がなくなったリゼットの落ち込みようは凄まじかった。
ナイトとリゼットは冒険者をしながら、神聖力がなくても作ることのできる万能薬の素材探しを続ける中、ヒナタとフウタを授かり、人の少ない村に定住し、夫婦となった。そして、ミヒメが生まれた。
ナイトとリゼットは、ミヒメがリゼットの子宮に宿ったときに、『まおうのちち』『まおうのはは』になった。自身のステータスを確認し、そうであることを確認もした。
ミヒメがマンドラゴラを創り、無意識にスキルで『ぺっと』し、家族の一員となったどらちゃんを詳細鑑定したリゼットは心の中でガッツポーズしていた。
――伝説のマンドラゴラ(新生種)~万能薬の材料となる。新生種には、新しく生まれた力がある。
元聖女として、薬師としての長年の経験により、万能薬は瞬く間に完成した。
それからは、ナイトとリゼットは近場の瘴気に侵されている穢れ地を回り、万能薬の効果を確認していった。
「何してるんだ?」
「ん~、万能薬を流してる」
リゼットが万能薬が入っている瓶を逆さまにして滝つぼに万能液を放っていた。
「それは見れば分かる。それで?」
「あからさまに浄化もできないし、かといって、何もしないのも……ね。だから、滝から川に流れて、川の水が浄水化したら、いつかはあの土地も徐々にでも浄化していくんじゃないかなって。だって、あのダンジョンは――」
ナイトとリゼットはダンジョンに向かって目を閉じ――黙祷した。
「持ち出されたダンジョンコアを見つけて、保護して――親父の魂を解放しないとな」
目を閉じると、父親の姿がすぐに思い浮かんできた。今のナイトと同じ年くらいだろうか。
ナイトの父親もチトセの両親と同じく、あの崩壊したハニーダンジョンのダンジョンコアの生贄にされていた。
ナイトの母は聖女で、巡礼の際に魔物に襲われているところを父に助けられ、愛を育み、ナイトが生まれた。そして、ナイトが3歳の頃、母は突然姿を消した。父の話では、神聖教会に連れ去られたらしい、ということだった。
一匹狼冒険者として活動する父は、ナイトが7歳の時、母の行方を捜すために教会の仕事を引き受けた後、消息を絶った。
ナイトもチトセ同様に、借金を背負い、聖騎士となった。
「……黄金の聖女、だったか。元気だろうか?」
「あの日、一緒に洗礼を受けたから、もしかしたら……えっ!?」
ナイトとリゼットが昔を思い出している最中、もんちゃんが光った。
「――甜菜の種? 砂糖大根とも呼ばれ、砂糖になる!?」
「砂糖になる天才の種か、面白いな」
「多分、その天才じゃない……」
「甜菜か~。どっちかの息子は俺と同じこと考えるだろうな、ハハハ」
「そろそろ行こうか。砂糖、作れる場所、探そ?」
「了解」
ナイトとリゼットは、もんちゃんに誘導されて、甜菜を育てるにふさわしい場所に移動した。
どらちゃんへ~甜菜の種、ありがとう。こっちはハニーダンジョンにいるなり。もんちゃんより。
新しく生まれた力=神聖力。
言葉にはどんな意味でもこめられるのではないかと。
ファンタジーだから、不思議な力が発揮されました。




