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この度、妹にペットされまして……双子の兄弟は先輩の大根と妹を愛育しながら旅をする!  作者: 三田黒兎素
第1章 ダンジョンコア

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空の聖騎士と桃の聖女1

 森の奥深くとはいえ、小さな獣の気配があるくらいで静かだった。

 周囲の空気も澄み切っていて、そよ風に乗って運ばれてくる草木の匂いからも危険は感じなかったが、どうしてか胸がざわつく。

 そう感じるのは、自分だけではなかったのだろう。

 貴重な薬草採取に夢中になっていたはずの護衛対象である聖女が、両膝を地面に着けてしゃがみこんだままの状態で首だけを後ろに回して、少し目を細めて遠くをじっと見つめている。


「何が視える?」


 鑑定スキルが発動しているのか、聖女のいつもの桃色の瞳は今は赤みを帯び、光っていた。


「何も視えない……というか、空っぽ? 色も無い、かな」


 そう言って、不思議そうに首を傾げているだけ。

 聖女の目線の先を辿って目を凝らすも、何も欠けてはいないし、緑や茶色といった自然の色も見える。

 鑑定眼を持たない身としては、同じような景色が視えなくとも仕方がないとはいえ、明らかに異常ではあるのというのに、何の危機感を抱いてもいなさそうな聖女の雰囲気に呑まれそうになっていることに気づき、警戒心を強めた。


「行かないと……」

「おい、ちょっと待て!!」


 危険がないか気配を探っているすきに、聖女は採取したばかりの薬草を両手に持ったまま立ち上がり、光らせた状態の虚ろな眼で、異常があると思われる場所に向かって歩いて行こうとしていた。

 慌てて、剣を持っていない方の手で聖女の腕を掴み、その歩みを止めた。


「呼んでる……君のことも呼んでる……」

「分かった、分かったから、一旦、落ち着け」


 本当は何も分かってはいない。自分を呼んでいる声は聞こえてはいないのだから。

 ただ、長年の付き合いのある聖女がそう言っているのだから、疑ってはいない。

 それよりも、足元で踏みつぶされそうになっている彼女が大事にしている採取道具が自らの足で破壊してしまわないか気になって仕方がない。

 もし、壊れたとしたら――数年も前だというのに、一瞬閉じた瞼の裏側に彼女の悲しみに暮れた姿が鮮明に浮かんだ。


 ――彼女を守る。


 筆頭聖女選定試験前日のあの日、そう誓った。

 彼女を妬む聖女たちの企みにより、母親の形見であった調薬器具を全て粉々にされてしまった。


「あまりにも古びていたから、ゴミだと思ったの。ごめんなさいね~」


 彼女と同じく筆頭聖女候補生の一人である、梅の聖女が手に持っていたすり鉢をわざと落とした。破壊スキル持ちという噂もあったから、先に落としていた他の調剤器具諸共、修復できないように床に落ちる衝撃を狙って、スキルを発動したのだろう。青の瞳は毒々しいほどの光を放っていた。

 心無い謝罪で去っていく梅の聖女に目を向けることなく、元の形が分からないくらいに粉になったそれらを両手で拾い集めながら、静かに大粒の涙を流す彼女の泣き顔が脳裏に焼き付いた。

 今の己の身分では、公正たる聖なる騎士としても、一人の聖女だけを庇うことも、その他多数の聖女を罪に問うこともできず、ただただ見ていることしかできなかった。

 手を差し伸べることもできずに、握っているのは自身の手で、とても騎士とも呼べない、情けない男が遠くから見つめていた。

 筆頭聖女試験当日の朝に見た彼女の横顔にはもう、涙の一粒すらも名残りはなかった。すれ違う騎士の手のひらには幾つもの爪痕の傷が刻まれていた。

 多分、彼女は母親の形見でなくとも、村一つ分の土地なら軽く浄化できるだけでなく、失った四肢も再生できる最高級の万能薬を作り上げただろう。その技術があることを身近で見ていたから知っていた。支給されていた粗末な器材で創られた数々の万能薬は己の身で試して、その効果も実証済みだ。

 けれども、試験に臨んだ彼女の作った万能薬は下級に近い中級だった。筆頭聖女に選ばれた聖女であっても、上級でしかなかったが。

 筆頭聖女の座を手にした梅の聖女の勝ち誇った顔を見ても、悔しそうではなかった。どちらかというと、ほっとしていたように見えた。

 彼女はわざと手を抜いたのだろう。調子が悪いようには見えなかった。素材となる薬草もランクにも、他の聖女と大差なかったのだから。

 あの時の彼女から、悲しみは一切感じられなかった。あるのは、揺らぎない決意を表す、澄んだ桃色の瞳。

 試験の翌日、彼女は地方への転属を願い出た。それも、誰も訪れたがらない僻地ともいえる土地に。

 人気のある場所ではなかったから、神聖力の低い下級騎士の転属も容易に認められた。寧ろ、喜ばれた。


「……っ」


 思い出した怒りについ手に力が入ってしまった。掴んでいた腕に痛みが走ったのか、彼女の顔が少し歪んだ。同時にスキルは解除され、いつもの桃色の瞳に戻っていた。


「あ、ごめん。っと、動くなよ」


 視線を落とした足元に同じように目に向けた彼女は、顔を強張らせて動きを完全に止めた。

 あと一歩踏み込んだら、唯一の形見になってしまった採取道具ですらも、失ってしまうところだった。


 ――あの時のように、ただ見ているだけの情けない騎士はもういない。

桃~魔除け、お祓い

青梅~毒に注意

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