あく3
ミヒメの励ましと、ヒナタとフウタの幾度もの挑戦により、甜菜糖の結晶化にも成功した。
成功率は低いが、シロップはいっぱい蓄えた。これで当面は砂糖の交渉で嫌な思いをすることもなくなる。
1週間お世話になったサイレントたちが住む家屋を出て、再び旅が始まる。
「忘れ物はないか?」
「お父さん、ボウさんのお手紙、きちんと渡した?」
「お、やべっ! 取りに行ってくる!!」
サイレントが慌てて家の中へと戻っていく。
「ごめんね。出発が遅れちゃうね」
「いや、大丈夫だ。急ぐ旅でもないしな」
「うん、大じょうぶ。ミミ、早くあるくから」
「ウォン」
「ちょっと、くぅちゃん、じっとしてて!!」
くぅちゃんの身体が一回り近く大きくなっていた。胴環のサイズが小さくなってしまった。
調整している最中にくぅちゃんが動いてしまい、ヒナタに叱られていた。
「クゥ~ン……」
「くぅちゃんも悪気はなかったんだから、そんなに怒るなって」
「そうはいっても、怪我をするのは、ヒメちゃんなんだよ」
「くぅ~ん」
「そうだな。くぅちゃん、もうちょっと我慢だぞ……って、首飾り、ちょっと食い込んでるじゃないか!! くぅちゃん、動くんじゃないぞ。手直しすっから」
「くぅ~~」
くぅちゃんが、身体を少しでも小さくしようと丸まろうするものだから、首飾りがさらに首に食い込んでいく。あともう少しで胴環も装着完了というところでもあったため、くぅちゃんは身の置き場がなくなったのか、前脚で土を掘ろうとしていた。
「くぅちゃん、そこは耕さなくてもいいからね」
「くぅ~」
「ボウさんに、くぅちゃんにぴったりの魔導具を作ってもらえば、大丈夫だから、ねっ」
落ち込むくぅちゃんにアヤメの慰めが入る。
「旅を続けるなら、メンテナンスも必要になってくるからなぁ……ボウも、ただ作って終わりにはならんと思うが、まぁ、お前たちならなんとかなるだろ――ということで、ボウへの手紙だ。受け取れ!」
「はい!」
手の空いていたミヒメがサイレントに両手を出して、ボウへの手紙を受け取った。
「快晴だ。空も旅の門出を祝ってるねぇ~」
先程まで姿が見えなかったチトセが、両手に小さな革袋を3個持って、玄関から出てきた。
「餞別だ、持っておいき」
「ありがとうございます」
チトセは、ミヒメ、フウタ、ヒナタの順に革袋を渡していく。
「うわ~!!」
「これは!?」
「これって!!」
袋を開けて中を覗いてみると、傷薬と魔力回復薬が入っていた。
「3種類の飴は、分け合って仲良くお食べ。それぞれ、疲労回復効果もある」
ミヒメには、甜菜糖で作った金平糖。
フウタには、甜菜糖で作った天満飴。
ヒナタには、甜菜糖で作った大根飴。
そして、それぞれの作り方を書いた紙も添えられていた。
「万能薬もまた作れるようになったからね、そのお礼さ」
聖女でなくなってから心残りだったのは、万能薬が作れなくなることだった。
神聖力を失ってからは、万能薬は下級でさえも作れなくなったが、元聖女だったリゼットが万能薬を作ったという経緯を元に、チトセもまた万能薬作りに成功した。
「万能薬もひとつずつ奥に入れてある。作り手によって、味も効能も少し違ったりするから、飲み比べて、感想を書いた手紙でも送っておくれ。また遊びにおいで」
「おう、遊びに来い! 待ってるぞ」
「遊びに来てね、テンテンも待ってるよ」
テンテンはアヤメの肩にちょこんと座っていた。アヤメの三つ編みにしたおさげから顔を覗かせていた。
「お世話になりました、甜菜糖、ありがとうございました」
「お世わになりました。こん平とうもありがとうございます」
「肥料の登録も、助かりました。ありがとうございます。後をよろしくお願いいたします」
フウタ、ミヒメ、ヒナタが揃ってお辞儀をする。
どらちゃんもポケットから顔を出して、ぺこりと頭を下げていた。頭が重たくて、危うく落ちそうになったのは余談だ。
「サイレントさん、チトセさん、アヤメお姉ちゃん、行ってきま~す」
「行ってきま~す」
「行ってきます」
「ウォン」
「……」
ミヒメの今日は、ツインテールではなくて、アヤメとお揃いの三つ編みのおさげが、上下左右に弾みながら揺れていた。いつものように金銀のリボンが結ばれている。
そして――今日も兄×2とペット×2は妹に従えられて旅に出た。




