あく2
3日後――。
拡大した薬草畑で、沢山の甜菜が土から頭を出していた。
「これが緑の手の力か……凄いな……」
そう言いながら、フウタは甜菜を次々と引っこ抜いて行く。
「でも、そう何度も使うのはやめたほうがいいかな。加減しないと土の栄養分が足りなくなっちゃうよ」
ヒナタが甜菜を抜いた後の土を触り、「パサパサしてて、元気もなさそうだ」と呟いていると、目の前を小さな足をちょこちょこと動かしながら歩く甜菜が通りすぎていく。
「テンテン~、何処にいるの~」
遠くの方から、アヤメの声が聞こえてきた。
「こっちにいるよ~」
ミヒメはピョンピョン跳ねながらアヤメに向かって、大きく手を振っていた。足元には、大根と甜菜が向き合っていた。
甜菜はアヤメの従魔となり、「テンテン」と名付けられた。
翌日の朝、アヤメが起きると、テンテンが枕元で寝そべっているのを発見した。
「キャ~~~~~~~~っ!?」
というアヤメの叫び声が、家屋に響いた。
ヒナタとフウタは飛び起きて、それぞれカフスに触れる。
ミヒメがゆっくりと起きて、目を擦りながら、枕元で寝ていたどらちゃんを見ている。
「てんてん? おともだちのおなまえが、てんてんなの?」
ミヒメとどらちゃんの会話を要約すると、甜菜が生まれ、アヤメと従魔契約を結んだとのことだった。
そして、今――丸っこい大根とまん丸な甜菜が身振り手振りで会話している。
同じ造りの葉っぱをお互いに揺らし、一緒に花を咲かせて、種を生み出していく姿を見ると、どらちゃんがテンテンに、力の使い方を教えているようだった。
生み出された甜菜の種は、追いついたアヤメの巾着袋の中へと収まった。
「あ、コレ、使って……下さい。肥料、です」
いつの間にか収穫を終えたフウタが、チトセに肥料の入った袋を渡していた。
受け取ったチトセは、袋から肥料を取り出し、指先で確かめつつ、鑑定していた。
「コレは良い肥料だね。作り方は商業ギルドに登録しているのかい?」
「最近、完成したばかりだから……ヒナタ~、この肥料の作り方、登録とかどうなってたっけ~?」
「まだだけど、な~に~」
担当分をようやく終わらせたヒナタが、フウタたちの居る場所へと歩いていく。
「このままだと良すぎて、教会に目をつけられるかもしれないから、ランクを少し落とした方がいいかもしれないね」
「それなら、ひとつ前の肥料を登録するか!」
「そうしよっか。あと、甜菜糖の件も相談したいのですが……」
甜菜の種や育て方、甜菜糖の作り方など、どのように広めていくか、冒険者兼商業ギルド長のサイレントも加わり、話し合いを始めていく。
細々と広めていき、神聖教会が気づいた時には、手出しができないように画策しながら、砂糖を独占栽培・販売する教会の力を削いでいく計画を詰めていった。
砂糖は、良くも悪くも中毒性がある。得られる快感が強ければ強いほど、体内の糖濃度が低くなると、イライラや怒りが増すこともある。
「神聖教会の砂糖は特に中毒性が強いみたいでね。手に入らなくなってから、イライラしている村人も増えているんだよね。砂糖を買い占めていた村なんかは、些細なことで喧嘩したり、大変になってるみたいだね」
チトセが問題視している村というのは、ワスレナグサ村の前に立ち寄った村だろう。門番の横暴さを思い出して、ヒナタは歯ぎしりしていた。
「どんな砂糖だろうが、砂糖の取りすぎはよくない。バランスが大事なんだよ。苦いからといって、甘味で誤魔化そうとかするんじゃないよ。酸いも甘いも苦みも辛みも全部、必要な栄養があるんだから、砂糖の与えすぎには注意しなさいな」
「……はい」
主に料理を担当するフウタを見るチトセの視線は鋭かった。朝食作りの苦味野菜の隠し味にと砂糖の使いすぎを見られていた。
糖分の取りすぎによる肥満や様々な病気を引き起こすなど、身体への弊害もあるから、素材の本来の甘味を活かしたり、砂糖以外で苦みを減らして工夫していくしかないかと、フウタは頭の中で調理方法を組み合わせていた。
料理のことはフウタに任せ、ヒナタは資料で見聞きした過去の砂糖を巡る人間同士の戦いについての記憶を引き出していた。
ただの資金集めなのか、砂糖を争いの種にしようとしているのか。
いずれにしても、神聖教会を避け続けながら旅をするのは難しくとも、砂糖に関しては、自給自足の目途もたった。しばらくは、教会との接触は避けていけると、ヒナタは今後の予定を立てていく。
天満草という新しい甘味茶もチトセから譲り受けることもできた。
旅はまだ始まったばかり――とはいえ。
「甜菜糖つくるのは、結構大変なんだな……」
「……だね」
甜菜糖作りは、思うほど簡単ではなかった。
甜菜を洗って綺麗にして、切って、乾燥させれば『甜菜糖』の出来上がり! にはならなかった。
小さく刻んで、煮だして、こして、煮詰めたら……灰汁が出てきた。
残りカスも肥料になりそうだと、チトセは喜んでいた。これから、新たな品質の良い肥料が完成すれば、神聖教会が販売している肥料ともいい勝負ができるかもしれない。喜ぶ人も増えるだろう。
資料通りに作っていくも、温度や湿度の管理が難しくて、なかなか結晶化せずに、シロップが量産された。
粉よりはシロップの方が、ハチミツ代わりのとしてホットミルクに入れて飲めると、ミヒメが喜び、ヒナタとフウタの苦労は報われた。
「ひーたん、ふうちゃ、顔晴って!」
ミヒメは覚えたての言葉で、険しい顔をしている兄たちにエールを送った。
ミヒメのお願いが効いたのが、ヒナタとフウタは一転して天晴れな笑顔を取り戻した。
ミヒメは甜菜ができるまでの3日間、ヒナタとフウタから、ダンジョンコアの真実や神聖教会のことを教えられた。チトセたち家族とも、冒険者の心得を一緒に読んだりと、楽しい時間を過ごした。
難しい言葉がいっぱいで、ミヒメは正直、ほとんど理解できなかった。
それでも、しっかりと覚えた言葉がある。
「しんせいきょうかいは悪なんだね! だから、灰汁とりはミミがする!!」
「まだ熱いから、火傷しないように、一緒にやろうな……あ、ちょ、まっ――」
「ミヒメ専用のザルも作るかな……でも、危なさそうだし……お玉を工夫して……えっ、あっ――」
ハラハラドキドキしながらヒナタとフウタが見守る中、ミヒメは目を顰めて灰汁取りに参戦していた。
――灰汁もえぐみや苦みを減らせるし、必ずしも悪でもない。
フウタはミヒメが灰汁取りしている横で、灰汁を鍋に集めていた。
台所の隅には、夕食の材料の苦味野菜がゴロゴロ置いてあった。




