元聖女と冒険者2
「――というわけさ」
昔話を語り終えると、チトセは冷めてしまった天満茶を一気に飲み込んだ。
「そして、ダンジョンコアの破壊を食い止めた、藍髪の冒険者が俺だ――」
そう言って、サイレントは腰に手を当てて、得意げな顔をして胸を前に逸らした。
「へ~。ふ~ん」
フウタは昔話に聞き入っていたが、話が見えずに首を傾げているミヒメに、ヒナタが横で「後でゆっくりきちんと説明するからね」と耳元で囁いていた。
ミヒメも「うん、わかった」と小さく頷いて、隣で丸くなって寄り添っているくぅちゃんを撫で、フワフワの毛が気持ちいいようで、顔をくぅちゃん毛の中に埋めていた。
どらちゃんは、我関せずと、卓袱台の上の甜菜の資料だけを穴が開きそうなくらいに読み込んでいた。器用にギザギザの葉で頁を捲っていた。
「それがどうして、元聖女になったのか……それより、ダンジョンコアはどうなったのですか?」
そう問いかけるヒナタの上半身は、先程の前のめりとは逆に少し後ろに引いていて、いつでも動けるようにと腰を高くして座っていた。
それに気づいたフウタも、どっしりと座りこんでいた姿勢から、腰を立てて、少し浮かした。
「再び、床に落ちていったダンジョンコアを、元々置いてあった台座でキャッチして、元の位置に戻したんだが……」
最初は活きの良い声だったサイレントも後半になるにしたがい、最後は口ごもってしまった。
「それをあたしが、持っていたガラス箱で封印する前に、触ったんだ」
「はぁ~!? 触って、大丈夫だったんかよ!! えっ、大丈夫……なの、か?」
フウタの浮かしていた腰が更に浮き上がり、前のめりになる。
「大丈夫だから、今此処に居るんだから、大丈夫だったんでしょ。それで、どうなったんですか?」
フウタが興奮しているからか、ヒナタは冷静さを取り戻した。浮きかけた腰を元に戻し、いつでも対処できるように神経を研ぎ澄ました。
「結果から言うと、大丈夫なわけだが……聖書者には、「ダンジョンコアに触れてはいけない」という教えがあって、その理由も理解できたわけだが……恐怖よりも、ダンジョンコアから触って欲しいと言われているように思えて、触ったんだよ」
「そうそう、あの時は、ビックリしたよ。ホント、ビックリした。消えていなくなっちゃうんじゃないかって、ハラハラしたよ、もう~」
「心配させて悪かったね」
「まあ~、なんというか……いや、その」
「――それで?」
夫婦のとりとめのない会話に終止符を打つかのように、ヒナタが冷たさを感じる声で続きを促した。
フウタがブルっと、ミヒメもくぅちゃんに顔を埋めたまま、ビクッと身体を震わした。
どらちゃんは、相も変わらず、資料との闘いに夢中だった。
「――コホン。……ダンジョンコアに触れた途端、持ち主の聖女といったらいいか、その記憶を視せられた。数百年前の聖女だったみたいだが、ハチミツが大好物だった……らしいのは置いといて」
チトセはヒナタを見て、猫背気味だった姿勢を正した。
「その聖女は筆頭聖女だったようで、秘術の万能薬を作らされて、それが万能薬でもなんでもなく、ダンジョンコアとなる核だったそうだ。その時の大神官長に騙された恨みが、雲の神官を取り込んだことで恨みも果たせたと、最後はお礼を言って解放してくれた」
「俺はチトセが突然、真っ黒の靄に包まれて、助けようと思っても、結界が張られているのか触れずに、その場で立ち竦んでいただけだったな。後の二人も、似たようなものだった。ただ呆然としていた」
「他に視た記憶も散々だったよ。ダンジョンコアも年月と共に魔力が減るらしく、ダンジョンを維持するために――」
チトセは口を閉じて、大きく息を鼻で吸い込んだ。黄金色の瞳は怒りを滲ませていた。
「――あいつらは魔力の高いものを生贄に捧げていたんだよ!」
チトセの声は、とてもとても大きな声だった。思い出したのか、涙がボロボロと零れていった。
「ダンジョンコアの封印依頼で魔力の高い冒険者を連れて行っては、ダンジョンコアの封印の仕方を説明すると嘯いて、ダンジョンコアの傍に集らせてはダンジョンコアを床に落としてワザと壊して、ダンジョンコアの生贄に捧げていたんだよ。その中には――チトセの両親も含まれていた」
サイレントは涙を零すまいと、目を固く閉じ、顔を上にあげた。
娘のアヤメもチトセと同じように、こぼれる嗚咽を口で押えながら、碧の瞳から留めなく涙が零れて落ちていった。
ヒナタとフウタは、目に涙を浮かべ、唇を噛み締めていた。
ミヒメも静かに泣いていた。くぅちゃんも悲しそうに「くぅ~ん」と小さく鳴いた。
怒りと悲しみに包まれるなか、希望の光を照らすかのように、大根が光った。




