てんさい2
「てんさい?」
「天才?」
「天災?」
ミヒメ、ヒナタ、フウタがそれぞれが思い浮かべているモノは違えど、首を傾げるタイミングは一緒だった。
「甜菜はね……ちょっと待ってな。資料持ってくるから」
チトセは、隣の部屋に入っていく。調剤室なのだろうか、薬草の匂いが漂ってきた。ガザゴソと音を立てて暫くすると、「あった、あった」と声が聞こえた直ぐ後、資料らしき紙の束を腕に抱えて居間に戻ってきた。
丁度、全員が夕食も食べ終わり、後片付けが終わったところで、チトセは卓袱台の上に資料を拡げていく。
そこには、『甜菜』と書かれ、形や味、甜菜糖の作り方の詳細が載っていた。
「甜菜は数百年の昔にあったそうだが、今では、伝説の大根と呼ばれている」
「甜菜なんて、聞いたこともないし、資料でも見たことがないです。それがどうして、知ってるんですか? どこにその資料はあるんですか?」
数々の文献や資料を隈なく読んでいたヒナタは、鼻息を荒くさせて身を乗り出していた。
ミヒメを挟んで隣に座るフウタも、ヒナタに文献探しに散々付き合わされていたので、それを思い出しながら、「そうだそうだ」と肯いている。
「それは――神聖教会の地下図書室だよ。あたしが書き写して、持ってるというわけさ」
チトセの口から神聖教会と飛びでてくるのを聞いて、ヒナタとフウタは背にミヒメを庇いながら、居間の出口まで一気に後ずさった。くぅちゃんも立ち上がり、いつでも飛び掛かれるように警戒態勢をとっていた。
「あっ」
フウタは、どらちゃんが卓袱台の上にいることに気づき、警戒しながら手を伸ばした。掴もうとするフウタの手を躱し、卓袱台の上の資料を隅々まで読み込むかのように、土色の瞳が時々柘榴に点滅させ、興味深々といった様子で、資料に目が釘付けになっていた。
「警戒しなさんな……といっても、無理か。すぐには信用できないかもしれないが、旦那も娘もだが、あたしも敵じゃない。寧ろ――神聖教会はあたしらの敵だ」
「どういうことだ」
フウタはどらちゃんの姿を視界に入れながら、チトセ達に向かって殺気を込めた。
「あたしは、元聖女だ――あんたたちの母親も、元聖女だろ? 違うかい?」
チトセは3人の兄妹を改めて見ながら、確信している様子だった。特に、ミヒメを見る顔は懐かしそうだった。
「似てるよ、3人とも。桃色の瞳の元聖女にね」
チトセに見つめられているミヒメは、チトセとフウタの間で交わされる内容が理解できなくて、ヒナタとフウタの間で右往左往していた。両手で、それぞれ兄たちの背中にしがみ付いた。上着のシャツに皺が残るくらいにしっかりと握った。
「父親は、空色の瞳の元聖騎士だね。少しだけだが、面影がある」
フウタの咽喉から、「ひゅっ」という音が鳴った。
ヒナタは、サイレントだけを見て、警戒していた。ヒナタとフウタ、二人がかりでも倒すのは厳しいだろう、冒険者として培ってきた経験が、自身の肌を通してそう語ってくる。
どうやって逃げるか、果たして逃げられるのか、どう戦えばいいのか、何度頭でシュミレーションしても、結果は最悪にしかならない。カフスに触れるヒナタの手が汗ばむ。こめかみからも流れてきた汗が伝ってきた。
「益々、警戒させちゃったねぇ。アンタ、どうしたらいい?」
「俺に聞かれてもな~。元々、ただの冒険者だからな~」
チトセは眉を寄せて、張っていた肩を落とし、サイレントは、手のひらをミヒメたちに向けて、両手を上げて降参のポーズをとった。
「お父さんとお母さんは、わたしがダンジョンコアにさせられないように守ってくれてるの。多分、神聖教会に行ったら、聖女として歓迎されると思うの……行かないけどね。お母さんだって、神聖教会に見つかったら、今度こそ、強制的にダンジョンコアにさせられちゃうだろうから、神聖教会はわたしたちの敵なの」
今まで沈黙を守っていたアヤメの碧色の瞳の奥にメラメラと燃える炎が垣間見えた。
その炎の矛先は、自分たちではなく、神聖教会だけに向かっているように感じられた。
ヒナタは一旦警戒心を解き、カフスから手を離した。殺気だったフウタも敵対することはなさそうだと、一先ず、ほっと息を吐き、胸を撫でおろした。
「あたしもそうだけど、あんたたちの両親ともに、神聖教会に見つかったら拙いのは一緒だね。色々説明する前に、あたしがどうして、聖女から元聖女になったのか、そこから話そうかね。あれは――」
そう言って、チトセは昔話をゆっくりと語り始めた。




