てんさい1
「……おいしい」
「うん、美味しい」
「このほのかな甘みがなんとも美味いな」
サイレントの妻――チトセが品種改良した天満草で煎じたお茶を飲み、ミヒメたち兄妹は皆、同じように、幸せそうな顔をしていた。
天満草は、満月の光を浴びて育つ薬草の一種で、金銀の二つが満月になると、特に甘みが増すらしい。そして、今飲んでいる天満茶が、数日前の金銀の満月をたっぷり浴びた天満草から作られたという、今までの中で最高最適な甘味茶だった。
疲労回復の効果もあるようで、疲れた身体が癒されていくのを感じた。
ミヒメの従魔として登録した大根のどらちゃんは、天満茶で満たされたお茶碗の中に浸かり、白狼のくぅちゃんは、皿に用意された天満茶を一気に飲に終わり、今はミヒメの隣で丸くなっている。
「くぅちゃんは、このままの大きさだと、従魔登録しているとしても、歓迎してくれる村や町は少ないだろうな。大きな街であっても、従魔専用の宿は少ないし、すぐに満室になっちまうしな」
「くぅ~ん」
サイレントの言っていることが分かっているのか、哀愁漂う鳴き声で、丸くなった身体を小さくするように更に丸まる。それでも、ミヒメよりは二回り以上も大きい。
たくさん歩けない、ミヒメの手助けとなるように、兄たちの足手纏いにならないようにと家族になったのに……ミヒメもショックを受けたのか、顔の赤みが消えていた。
「……まあ、そこでだ。身体の大きさを自在にする魔導具を作っているダチを紹介してやるから、落ち込むなって。なっ!」
髪と同じ深海のような藍色の無精ひげをポリポリとかくサイレントに、チラチラっと覗き見るミヒメ。髪色だけを見ると、ミヒメに似ているからか、父と娘のようにも見えた。
「これで、機嫌を直してくれ。頼むよ」
サイレントは胸の隠しポケットに手を入れ、菖蒲の刺繍が刺してある清潔なハンカチを取り出し、広げて見せた。そこには最後の一個らしき金平糖があり、それをミヒメに差し出した。
「ちょっと、お父さん! 隠し持ってたのね。しかも、そのハンカチ、わたしのじゃないの!! もう~。あっ、ミヒメちゃんは、遠慮なく、食べちゃっていいからね」
出迎えてくれた時に最初に挨拶を交わして自己紹介したのが、サイレントの娘――アヤメだったのだが、清楚でおとなしそうに見えたが、サイレントを正座させて説教する姿は、鬼娘だった。
こちらは、同じ髪色で瞳も碧色同志、正真正銘父娘で、娘に叱られてこっそりとにやつく父の姿を、くぅちゃんは丸くなった身体でこっそりと見ていた。
「ウォン」
くぅちゃんが小さく鳴き、ミヒメはヒナタとフウタが二人とも肯いたのを確認して、差し出された金平糖を手に取り、満面の笑みで口に入れた。
「まったく、あんたたちは……お客様たちの前で喧嘩なんかして、みっともないね。喧嘩するなら、あっちへお行き」
夕食を作っていたレインがお盆に夕食を乗せて、居間に入ってきた。
「甘芋も入れた、特製豚汁だよ。たくさんお食べ」
「いただきます」
ミヒメだけでなく、ヒナタもフウタも瞳を輝かせて、特製豚汁を食べ始めた。
「ミミのすきな、じゃがいもはいってる」
「具がたくさんで美味しいね」
「おっ、大根も入ってる。苦みも少ないし、これならミヒメも食べれるな」
「ほんとう?」
ミヒメの元気良い返事に驚いたのか、どらちゃんがビクッと身体を震わせていた。
「これからも砂糖が手に入らないのは、痛い。砂糖が必要な薬もあるからね~」
チトセはそう言って、ため息をついた。
チトセは薬師をしていると紹介を受けたからか、親しみを感じた。どこか懐かしさもあり、母のリゼットを思いだした。年頃はリゼットより少し上くらいに見える。髪は淡い碧色で、瞳は小麦のような黄金色をしていた。
「このだいこん、おいしい。にがくないから、ミミもたべられる」
花が咲き誇ったような笑顔に、誰もがつられて笑顔になる。
「そうか、美味しいかい。嬉しいねぇ。大根を改良したかいがあるってもんだよ。品種改良で砂糖の原料となる甜菜が作れたらいいんだけど……」
チトセの『甜菜』という言葉にどらちゃんの頭の丸い葉っぱがピクピクと反応していた。




