冒険者登録と砂糖1
「……あまくない」
ミヒメは寝る前のホットミルクを一口飲んだ後、しょんぼりと肩を落とした。
「ごめんな。砂糖もハチミツも、昨日で使い切ったんだよ」
申し訳なさそうに返すフウタも、ミヒメと同じくしょんぼりしている。
甘いモノの取り過ぎも良くないからと、使う量を減らしてきたけれど、とうとう在庫は空になってしまた。
それが事実だということはミヒメも重々理解していたので我儘も言えず、黙って二口目のホットミルクを飲む。
「最近、砂糖もハチミツも手に入りづらくなってるんだって。値段も高くなって、今じゃ、5倍もするらしいよ」
森を出てから3カ所の村を通り、ヒナタが交渉したが、「砂糖もハチミツも、こっちが欲しいわ」と終いには怒鳴られることもあり、交渉は決裂した。
「どうなってるんだ?」
「それがよく分からないんだよね。まだ、この辺までは情報は届いていないみたい」
「そっか~。どうするかね~」
ヒナタとフウタは、眉間に皺を寄せながら、ホットミルクをチビチビ飲むミヒメを見て、更に頭を悩ませる。
実は、交渉したのは砂糖やハチミツだけではなかった。他の食材に関しても、軒並み断られてしまった。食糧難に近い状態でもあったようで、最後の村では、門前払いだった。それで、野宿するしかなくなった。
その理由は――白狼だ。
「ミミ……ぼうけんしゃになる」
ミヒメのその声は小さいけれども、キッパリと言った。表情もキリっとしていて、その決意は揺らぎそうもない。
「あぁ~。そうだな。その方がいいよな~」
目的地に着くまでは、できるだけ目立ちたくなかった。しかし、そうも言っていられない。何しろ、くぅちゃんが家族になってしまったのだから。
従魔として登録しなければならない――それが門前払いの最大の理由だったのだから、フウタも渋々納得するしかなかった。
それに、冒険者登録は、7歳になれば登録できる。最初は見習いで、12歳になると、正規の冒険者となる仕組みとなっていた。当然、ミヒメの従魔として登録するのが、最適だろう。
「この近くで、冒険者ギルドがあるところで、神聖教会がない、町じゃなくて、できれば大きな村がいいけど……あるか?」
丁度、ヒナタが地図を広げて見ているところだった。
「う~ん……あっ、此処は?」
「ワスレナグサ村か。ダンジョンもないし、教会もない。よし、決まりだ!」
「うん。ミミ、ぼうけんしゃになる!!」
ミヒメは、両方の手で拳を作って、元気いっぱいにガッツポーズを決めている。
「ミヒメ、お口の周りにミルクの髭がついてるぞ」
フウタははにかみながら、ズボンのポケットからハンカチを出して、ミヒメの口を丁寧に拭っていく。
「じゃあ、ヒメちゃん、お金稼がなくっちゃね」
「おかね!? いるの?? ミミ、もってない……」
ミヒメに上目遣いで見られて、思わずお小遣いをあげたくなる気持ちを封印して、ヒナタは少しだけ心を鬼にした。
「ボクもフウタも、お兄ちゃんたちは、自分でお金を稼いで、冒険者なったんだよ。だから、ヒメちゃんも自分でお金を稼ごうね」
「ほんとうなの……?」
同じように、今度はフウタを伺いみる。
「ああ、本当だ。オレたちのように親がいる子供たちは、登録するのに、お金がいるんだ」
「ふ~ん、そうなんだ」
孤児院の子供たちは、無料とはなっている。しかし、大きな街では、後払いだったり、報酬が少なかったりとするらしい。そのことはミヒメには今は必要のない情報だろうと、フウタは伏せることにした。
「おかね、どうやってかせぐの? ミミにもできる?」
不安そうなミヒメの顔をみていたら、とっても大事なことを、大変なことを思い出してしまった。
冒険者登録費用くらいは、何とかなっても、5倍の料金にもなった砂糖を買うお金がなかったことに気がついてしまった。
ヒナタとフウタは、ミヒメに悟られないように、顔を見合わせ、『自分たちもお金稼がないと』とお互いに頷いた。
「ヒメちゃんもできるよ。明日は、ボクたちと一緒に薬草採取しようね」
「やくそうさいしゅ、ミミ、とくいだよ」
「オレも一緒に、薬草採取するぞ!」
幸いにも、次のワスレナグサ村への行く先に、貴重な薬草が群生している場所があった。
どらちゃんもいるから、どうにかなるだろう。
任せとけ! とでもいうかのように、どらちゃんが寝床のポケットからひょいっと顔を出していた。




