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この度、妹にペットされまして……双子の兄弟は先輩の大根と妹を愛育しながら旅をする!  作者: 三田黒兎素
第2章 まおう

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まおう3

 結果的に、野宿になった。

 白狼を『ぺっと』してすぐに、ミヒメは倒れた。


「ひーたん、ふうちゃ、かぞくがふえたよ。くぅちゃんだよ」


 今にも涙が零れ落ちそうになりながらも笑い顔を見せた途端、電池が切れたように、受け身を取ることなく倒れていった。


「ヒメちゃん!!」

「ミヒメっ!!」


 震えていたことも忘れた4本の両手が、寸でのところでミヒメの身体を受け止めた。その身体は、火傷しそうなくらい熱かった。顔も次第に真っ赤になっていく。胸が大きく上下し、見ている方も苦しくなってくる。

 このまま放っておけばいずれ瘴気化してしまうだろう汚れた地面に横たわらせるわけにもいかず、一先ずヒナタがミヒメを背負い、おんぶ紐で二人の身体を固定した。

 ヒナタとフウタ、どらちゃんも協力しながら、聖水を蒔いて、広場の浄化作業を行った。瘴気化する前であれば聖水で十分対処できた。

 フウタは屠った魔物を解体し、処理していく。魔物になったばかりだったのか、魔石は出てこなかった。

 黒い小さな物体を処理しようと近寄ると、白狼がう唸り声を上げて威嚇した。

 フウタが怪我の治療をしようとするも、触らせまいと警戒しながら後ずさる。

 困り果てていると、どらちゃんが『ぺっと』の先輩として話をつけたらしく、白狼はおとなしくなった。どらちゃんは身振り手振りで、白狼は唸る元気もなくなったのか、頷いて返事をしていた。

 どらちゃんが身振り手振りでいうには、白狼は魔狼らしかった。そして、小さな黒い物体は、耳の短い兎で、宝石獣だった。

 此処は宝石獣たちの住処で、密猟者が侵入して、ほとんどの宝石獣は捕獲されてしまった。

 兎の宝石獣は、額には抉り取られた跡があった。それが致命傷になったのだろう。

 このまま放っておくと、生ける屍(ゾンビ)になってしまうことから、万能薬を使うことにした。

 万能薬を身体全体にかけると、黒ずんだ毛は白くなり、蒸発するように消えていった。残ったのは、小さな紅い魔石だった。その魔石は、フウタが即席で灰色のリボンに縫い付けた首輪を作り、白狼改め、くぅちゃんの首に飾られた。

 家族だと認識したようで、くぅちゃんは協力的になり、怪我の治療も無事に終えた。

 野営の準備を終え、ミヒメを毛布で包み、焚き火の近くにそっと寝かせた。その隣には、番犬の如く、くぅちゃんがミヒメを守るように寄り添っていた。

 少しだけ離れて暖をとるヒナタとフウタの元に、どらちゃんが金銀に光る枝を持ってきた。


「……これって、聖霊樹か!?」

「この前、冒険者ギルドの図書館で見た文献と同じだから、間違いなさそうだよ」

「聖霊樹は、結界の役割を持ってるんだっけ?」

「うん。だから、何らかの原因で枯れてしまって、結界が消えて、それで密猟者に見つかってしまったんだろうね。その密猟者も怪しいよね。何せ、結界石は神聖教会の管轄だしさ」

「神聖教会か……はぁ~」


 フウタは大きくため息を吐き出した。

 ヒナタは、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

 今朝から神聖教会と聞くだけで、何もかもが怪しく聞こえてくる。怒りがこみ上げてくる。今後は更に警戒を強めていかなけばならない。

 宝石獣の額の宝石は、結界石の原石になるらしく、宝石獣を見つけたら傷つけないように捕まえて、神聖教会で保護することになっているが、実際は違うのかもしれない。密猟者と繋がっているのも、神聖教会だろう。

 とにかく、神聖教会のある街や領都には訪れる予定はない。神聖教会がない、小さな村や町の宿で休んでの旅になるだろう。場合によっては、野宿が多くなるかもしれない。

 それよりも、今の自分たちには、神聖教会よりも重要なことがあった。


「なぁ……オレたち、ミヒメを『魔王』にならないように導けるのか?」

「導けるのか、じゃなくて、導かなきゃ、だよ」

「わかってる。わかってるけど……手が震えるんだ」

「……」


 ヒナタは何も答えられなかった。フウタと同じように手が震えている。


 『寝物語の魔王は――聖女だ。勇者は……聖騎士だ』


 父のナイトが別れ間際にヒナタとフウタに言った言葉が不意に蘇った。


「お願いされても、抵抗できると思ってた。でも、違った。ミヒメが本気になったら、抵抗なんて無意味だった」

「ボクも抵抗できなかった……というより、勝手に身体が動いていた。怖かった」

「怖かった。自分の意志とは関係なく動く身体が怖かった」

「うん、すっごく怖かった」


 お互いに、何度も怖いと言い合った。

 魔王の片鱗を垣間見せたミヒメが恐ろしかった。本当の『魔王』になってしまったのではないかと、ただただ怖かった。

 もしかしたら、自分たちも魔王になってしまうのではないかと、恐慌していた。手が震えすぎて、全身にまで拡がっているような気さえした。

 何度も何度も、恐怖と向き合っているうちに、気がつくと、ヒナタとフウタの手の震えは治まっていた。

 胸がほんのりと温かくなるのを感じた。手を当てると、トクトクと心臓の鼓動が伝わってくる。

 ミヒメに『ぺっと』されてから、ずっと続いていた違和感が消えている。異物のように感じていた、ミヒメの魔力が完全に受け入れたのを理解した。


「大丈夫だよ、きっと」

「そうだな。大丈夫だ、きっとな」

「恐ろしくても怖くても、いいんだよね。無い方がよくない気がしてきた」

「怖くなくなったら、それこそお終いのような気がしてきた」


 視界の端でミヒメに寄り添うくぅちゃんが、地面に落ちていた石に額を押し付けていた。

 それを見て、とフウタの強張っていた身体の緊張が解けていった。


「父さん、言ってたよね」

「あぁ。魔王と呼ばれてしまった聖女は、瘴気を自身の内側に入れて浄化していく身も心も自己犠牲型で」

「成果を自分のものにしようとした聖騎士(クズ)が献身的な聖女を騙して、聖女を闇落ちさせた――のが、始まりだなんて」


 諦めずに何度も何度も額を石に押し付けて、くっついては離れるを繰り返しては、ミヒメを見ながら「くぅ~ん」と切なそうな声で鳴く。

 再熱した怒りが、一瞬にして鎮火していく。


「くぅちゃんも家族だね」

「だな。ああして、おでこ禿げちゃったんだな」

「ボク、くぅちゃんの額飾り(サークル)作るから、早番してもいい?」

「いいよ。んじゃ、先に寝るけど、後できちんと交代しろよ」


 立ち上がったフウタは、ミヒメの隣へと移動し、ミヒメを抱きしめるように眠った。

 ヒナタは入れ替わるように傍にきたくぅちゃんのサイズを測り、サークル作りを始めた。



『お前たちは、妹を闇落ちさせるような(クズ)にはなるなよ』


 ヒナタとフウタはナイトの言葉(おどし)をもう一度胸に刻み、『ミヒメを闇落ちさせない。笑顔を守ってみせる』と心の中で誓った。

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