初幕
――どうして自分だけ違うのだろう。
親も兄弟も全身が真っ黒で覆われているのに、自分だけ真っ白だった。
紅い瞳も似ることはなく、自分だけ黒い。
皆は、口から火や水、風を出せるのに、自分だけは何も出せない。
魔力は他の兄弟よりは多かったのに、魔力を放出できない自分は出来損ないだと、火を噴かれ、水をかけられ、風の刃で斬られて、終いには齧られた。
身体が傷ついても、誰も舐めて治してはくれなかった。
威嚇されて、追いかけられて、捕まって、ダンジョンの外に放り出された。
入ることができなくて外をウロウロしていたら、自分よりも大きな生き物に食べられそうになって、逃げた。
逃げて逃げて逃げて、どのくらい走ったのかは分からない。
落ちていた木の実を食べて、水たまりの水を啜って、また走った。
一度、人間に捕まってしまったけど、「何だ、ただの犬っころか」と捨てられた。
それからまた走って、食べ物が豊富で美味しい水もいっぱいある森に辿り着いた。
そこには、自分と同じ白い生き物たちがいた。
けれども、同じ仲間にはなれなかった。
瞳を紅くはできなくとも仲間になりたくて、転がっている石を何度も何度も額に押し付けた。
傷ついて額から紅い血が流れても、目は紅くならない。自慢のフワフワの毛が生えてこなくなってしまっても、額には石はくっつくこともなく、石が生えてくることもなかった。
同じにはなれなかったけど、白いモノたちが集まって、傷を舐めて治してくれた。夜は冷えた身体を暖めてくれた。
一緒に眠る毎日が幸せだったのに――。
日に日に、白いモノたちの額の石の輝きが増し、大きくなっていった頃、寝床に人間たちが武器や捕獲道具を持って侵入してきた。
「捕まえろ!」
「あっちに逃げた!」
「逃がすな、追え!!」
白いモノたちが、あちらこちらにバラバラに散っていく。
逃げ遅れた白いモノが捕獲され、白いモノを袋に入れようとしている人間に嚙みついた。
「っぐ……ただの犬っころが、失せろ!」
「――キャイン」
呆気なく払われ、黒い鉱石の壁に激突した。
尖っていた鉱石の先端が額を切り裂き、その激痛で意識が途切れた。
「キュ~、キュ~」
額に温かく湿った感触がして、目を覚ますと、黒いモノがペロペロと舐めていた。
鳴き声から、身体の大きさから、血の香る魔力の匂いからも、いつも隣で寄り添って眠る白いモノだと気づいた。
沢山の血が流れたのか、酸化した血が白いモノの毛を黒に変えていた。
元は白いモノの額にあった石がなくなっていて、無理やり抉られたのか、歪にへこんだ部分から、血がじわじわと滲んでいた。
白だったモノは、傷を舐めながら、今は自分と同じになったよ、とでも言うかのように濁った紅が黒ずんでしまった瞳で白狼を見上げた。
「キュ~」
――ごめんね。全部、治せなかった。
「キュ、キュ~」
――心地よい魔力を分けてくれてありがとう。さようなら。
仄かに宿る紅い灯が消え、白だったモノの目はゆっくりと閉じていった。
白狼に寄り添う白だったモノは安らかな顔をしていた。
まるで眠っているような。でも、息はしていなかった。
「ウォ~ン、ウォ~ン」
切ない白狼の遠吠えが、森の中に響いた――。




