学園の屋上から真実を暴露する
王立魔法学園。
一定以上の魔力を持つ者が、例外なく通う学園である。
学園は王都の郊外に位置し、その広さは王城の敷地と同じくらいの規模である。
そんな学園の1番高い校舎の屋上は、秘密の扉からしか行けないようになっている。
理由はただ、高いから危ないからである。
だが秘密の扉を利用できる一部の人からは、王都が一望できる絶好のスポットだと密かに人気になっている。
私もそのうちの1人だ。
だが、今日ここに来たのは、絶景を満喫するためではない。
罪を告白するために来た。
あ、私の罪ではありませんよ?
私は潔白ですから。
誰に探られても、痛くありません。
私が告白したいのは、私の家族と婚約者のこと。
罪とは言っても、法律的に大きな犯罪と言うわけではない。
ただ、私の我慢が限界に来ただけ。
そして私の思っていることを、知ってもらいたいだけ。
その後のことは、告白を聞いたみんなに判断してもらいたい。
今の時間は、お昼休憩が始まった時間。
この時間なら、多くの人の興味を惹きつけることができる。
水と土の魔法を使って出入り口を塞げば、誰もここに入ってこない。
外からは高すぎて、ここまで飛んでこれないはず。
そして風の魔法を使って、より遠くまで声を届ける。
どこまで届くかわからないけど、できるだけ遠くに届けたい。
3属性魔法の同時行使はかなり難易度が高いが、吹っ切れた私にできないことはない。
震える手を握り締め、お腹に力を入れた。
「2年Aクラス、バラクロフ伯爵家長女コーネリアです。私を蔑ろにするバラクロフ伯爵家と、婚約者であるアイロス・ベルマー侯爵令息に言いたいことがございます!」
私は学園中に声が届いたのを確認した。
「バラクロフ伯爵夫妻は、自分たちが甘やかした結果なのに、私が厳しくしないから妹が我儘になったと、責任を押し付けてきます!厳しくしたら、私に暴力を振るって叱責していたことを忘れて!」
いつもそう。
姉だから優しくしなさい、我慢しなさいと言われ続けた。
甘やかしてばかりだと将来困ったことになると進言した私を、暴力を持って制止した。
だから私は、何も言えなくなった。
「妹にお金をかけるのに、私には最低限の衣食住しか保証されなかった!だからアルバイトをしてお金を稼ぐしかありませんでした!その上、散々私を放置していたのに、自分たちの都合が良いように、婚約を決められました!」
一度口に出せば、過去の苦い記憶が走馬灯のように蘇ってくる。
「妹は、私以上にたくさんもらっているのに、私の持つもの全て欲しがって、持っていきました!そして数日後には、それらをゴミの中から見つけました!私にとって大切な物だったのに!私がアルバイトをして買った物まで、取り上げられました!」
誕生日のプレゼントさえ、妹に取り上げられた。
ゴミの中で見つけた時は、涙が溢れた。
私の大切な思い出を、汚された気分だった。
背後の扉からドンドンと音が聞こえてきた。
早く肝心の婚約者のことを言わなければ。
「婚約者のアロイス・ベルマー様は、私よりも下の成績なのに、私に向かって馬鹿や愚かと暴言を吐きます!何様でしょうか!」
アロイス様は学園で総合順位が56位。
対して私は、総合順位3位です。
どちらが馬鹿なのか。
「アロイス様は、3年のエリーゼ・ホルン嬢、カタリナ・ハンス嬢、2年アイリーン・カサブランカ嬢、1年マーニャ・クエン嬢と愛人関係を結んでいます!最近は王都の花屋のリンさんと宿屋のナタリーさんとも関係がおありだとか!」
『『いやぁぁぁぁぁ!!』』
『『どう言うことですの!?』』
『ち、違うんだ!誤解だ!』
……どこからか、聞いたことのある声がしましたが、気のせいでしょう。
「アロイス様は、女子更衣室に監視魔法を設置し、女性の更衣を覗いています!親切と称して、女性にいやらしく触れています!婚約者だからそう言うのを求められましたが、拒否したら悪態をつかれました!」
『『『はあぁぁぁぁぁぁぁ!?』』』
『や、やめてくれーー!!』
アロイス様は、まだまだ思春期のお子様です。
……女性に、刺されればいいと思います。
そろそろ、時間がありません。
ラストスパートといきましょう。
「ベルマー侯爵家は、バラクロフ伯爵家に多額の融資を受けている身でありながら、アロイス様はバラクロフ伯爵家のお金で、愛人にお金を貢いでいます!そして、金遣いとお酒癖がものすごく悪いです!酒を飲んだら暴力的になります!」
『ごめんなさい、もう許して……』
私は怒っていませんよ?
ただ疲れただけです。
そして許すかどうか決めるのは、私ではありません。
この話を聞いた人がどんな行動を起こすか、それによって決まるのです。
どうか私の告白が、辛い思いをしている人の、背中を押せますように。
私の一世一代の勇気ある告白は、学園のみならず、国中に響いていた。
多数の貴族からの支持で、学園の在り方や国の法律まで変えてしまう結果となった。
余談ではあるが、新しくなった法律で、女性の地位が上がったとか。
肝心の私の婚約は、ベルマー侯爵家有責で破棄となった。
アロイスは今後、婚約者を見つけることが困難になるだろう。
私は晴れて独り身となって、学園生活を謳歌している。
図らずとも、私を応援してくれる友人が増えて、楽しく学園生活を送ることができた。
一方で、私が名を挙げた人は、肩身の狭い思いをしているらしい。
私は学園を卒業したら、家を出て魔法研究所に勤める予定だ。
私が告白時に使った魔法が、研究所の人の目に留まったことで、スカウトがきたのだ。
私の大好きな魔法をもっと研究できるので、そのスカウトに飛びついたのだ。
私の大好きな魔法が、誰かの役に立てるように頑張ろうと思う。
そして、学園の非公式行事として、暴露大会が開催されたとか、されなかったとか。