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ヒールレディ・スノウドロップ  作者: 銀星石
第3部 悪役令嬢の復活
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第55話 魂の同化

「話って?」

「もうすぐ十騎衆がここを襲撃しにくるわ」

「私に戦えというの?」


 スノウドロップは自分の口から出てきた言葉に、少しだけ驚いた。

 以前なら、何も言わずに人々を守るために立ち上がったはずだ。


「別に無理して戦う必要はないわ。こっちにはルーシーにランディール、元十騎衆のセシリアがいるし、活性心肺法を覚えた住民もいる。でも十騎衆は、死に物狂いでここの人達を皆殺しにするでしょうから、勝てたとしてもかなりの犠牲者を出すわ」


 アカシックはスノウドロップをじっと見る。


「犠牲者を出さずに勝つには、あなたの隠された能力を引き出す必要がある。それは……」

「嫌!」


 スノウドロップは拒絶するように叫んだ。


「そんな話、聞きたくないわ! 新しい力なんかに目覚めたら、ますます命を狙われるじゃない!」


 自分はいったいどうしてしまったのだろうかと、スノウドロップは戸惑う。

 心が前と別人のように変わっている。

 思えば、アークエネミー……未来のルーシーがローナンを殺してから、自分の変化が始まったような気がする。

 以前なら決して持つはずがなかった怒りや憎しみ。

 そして今は、どうして自分がこんな思いをしなければならないのだと言う、憤りがあった。

 

「自分の感情の変化に戸惑っているようね」

「何か、知っているの?」

「結論から言えば、あなたの体には魂が二つあって、それの同化が進んでいる」

「二つ……私とロベリアの魂という事?」


 アカシックは「ええ、そうよ」と認めた。


「魂というのは、生物が生まれた後に自然発生するわ。でも、異世界転生によって、胎児の時点で魂が入っていた場合、肉体本来の魂は発生しなくなる」

「では、なぜこの体にロベリアの魂が? 今の話が事実なら、私がこの体に転生した時点で、肉体本来の魂が発生する余地はなくなるはずよ」

「あなたの前世は人造人間だったから、天然の人間と違って魂が欠けているの。その隙間を埋めるように、肉体本来の魂……つまりロベリアの魂が芽生えたの」


 アカシックの言葉に、スノウドロップは自分の胸に手を当てる。

 これまでの自分ならまず持たなかった感情は、魂の欠損によって生じた空白に生まれた、ロベリアの魂が発していたのだろう。


「魂の同化を止められる方法はあるの?」

「無いわ。ロベリアの魂を受け入れなさい、スノウドロップ。そうすればあなたの能力は……」


 アカシックが言い終わる前に、スノウドロップは窓から外へ飛び出した。


「私が悪役令嬢になってしまう前に行かないと……どこか遠く、誰もいない場所に!」


 スノウドロップは自分の精神が変わりつつあるのを感じていた。それは自分の人格がロベリアに変わりつつあるに違いない。

 このまま魂の同化が進み、人格が完全に悪役令嬢ロベリアに変わってしまったら、きっと小説と同じように大勢の人々を苦しめるだろう。

 

 そうなってしまえば、ルーシーとスティーブンは正義のために自分を殺す。

 たとえ、意識が消え、人格が別人になってたとしても、あの二人に敵意を向けられるのは耐えられなかった。

 無我夢中で走り続けると、〈ヘイヴン〉の出入り口に辿り着く。


「あ! スノウドロップさん」


 オリハルコンの鎧と剣を装備した男が声をかけてきた。確か、〈ヘイヴン〉を訪れた時、入り口の見張りに立っていた。


「戦えないってスティーブンさんが言ってましたけど、大丈夫なんですか?」

「え、ええ……心配させたわね」

「あなたも戦いに行くんでしょう? ちょっと待ってください。今、入り口を開けます」


 戦うのではない。逃げようとしているだけだ。でも、スノウドロップはそれを正直に言えなかった。

 やがて扉が開く。


「頑張ってください。俺はまだ弱くて、入り口の見張りしかできませんけど、無属性魔力をもっと使いこなせるようになって、あなたみたいに人を守れるようになって見せます」

「……あなたも頑張ってね」


 そう言って、スノウドロップは〈ヘイヴン〉の外に出た。

 生まれて初めて、他人を利用した。その罪悪感は針のようにスノウドロップの心を突き刺す。

 スノウドロップは森の中へと消える。



 いつでも離陸できるよう、アイドリング状態にした並行世界航行機の機内にスティーブンはいた。


「アイアンホークの飛行速度を考えれば、そろそろ十騎衆が現れてもおかしくないわ」


 ルーシーが副操縦席で、モニターを睨みながら呟く。

 すでにドローンを多数飛ばして〈ヘイヴン〉周辺を警戒させている。

 円卓王国からすれば、無属性の人々は少しでも早く皆殺しにしたいはずだ。時間をかければかけるほど、彼らの練度が上がりスノウドロップと互角かそれ以上の戦士が現れるかもしれない。


「カーティス様と剣を交える日がきてしまうとは……」


 アレックスは複雑な心境だった。


「彼に剣を教えたのが父さんだったね。教え子と斬り合うのは辛いだろうから、防衛組に回った方がいいんじゃないか?」

「そうです。アレックス殿。十騎衆の迎撃は我々にお任せください」


 レオンとセシリアが気遣うと、アレックスは不敵な笑みを作った。


「息子と後輩に気遣われるほど、私はまだ衰えてない。大丈夫、やってのける」


 アレックスを見て、年長者が自信ありげに笑うのは良い事だとスティーブンは思った。そう言う細やかな振る舞いが、若者から不安を取り除く。


「十騎衆が来たわ!」


 ルーシーの言葉に場の空気が引き締まる。


「発進する!」


 全員が座席についたのを確認し、スティーブンは操縦桿を握った。

 並行世界航行機はジェットエンジンとはまた違った駆動音を立てながら、ふわりと上昇し、それから弓から放たれた矢のように加速する。

 およそ十数分後、敵機と会敵した。


「扉を開けてくれ! 私が先制攻撃する!」

「わかった!」


 セシリアに返事をしながら、スティーブンは操作パネルに手を伸ばす。


「セシリア、フェイルノートに必殺の魔法を付与するわ」

「かたじけない」


 ルーシーによって必殺の光が魔弓に宿る。


「くらえ!」


 フェイルノートから必殺のホーミングレーザーを放つ。

 真っ白な光を放つレーザーの雨が鉄の鷹に襲いかかる。

 その時、巨大な光の盾が出現した。

 レーザーは盾を貫いたが、そのせいで威力が減衰してしまう。必殺であったはずの攻撃は、アイアンホークに軽微な損傷を与えただけに終わった。


「これが光の……いや必殺の魔法か。あのプリドゥエンの魔力盾を貫通するとは」

「でも敵機を撃墜できなかったわ」


 プリドゥエンはアーサー王が所有していた強力な盾型アーティファクトで、防御の魔法・城壁の型と同等の防御力を持つバリアを展開する。

 アイアンホークは右翼から黒い煙を吐いている。機動力は下がっているが、まだ航行可能な状態にあった。


「もう一度……!」


 セシリアがフェイルノートを構えた時、アイアンホークから男が身を乗り出して、真っ黒い槍をむけてきた。


「いかん! 黒檀の槍だ」


 航行機の周囲に、多数の炎を纏った黒い槍が出現する。

 セシリアが「避けろ!」と叫んだのと、スティーブンが操縦桿を傾けたのは同時だった。

 黒い槍はミサイルのように航行機を追いかけてきた。

 右へ左へと機体を動かすが、向こうの誘導性能が上だった。

 何本か直撃を受ける。

 航行機の計器が鋭い警告音を発する。機体表面に展開した、防御エネルギー膜の強度が限界に達していると伝えていた。

 再び、多数の槍が出現する。


「ルーシー殿!」

「わかってる!」


 セシリアが必殺の魔法を付与したフェイルノートで攻撃する。

 双方の攻撃がほぼ同時に着弾した。


「不時着する! みんなどこかに掴まれ!」


 そこら中から悲鳴のように響く警報にかき消されないよう、スティーブンは叫んだ。

 状況は敵側も似たようなもので、フェイルノートの攻撃を受けたアイアンホークも不時着しようとしていた。

 大地を削るように航行機が不時着する。中のスティーブン達は激しく揺さぶられた。

 やがて振動は収まるが、安堵する暇はない。

 少し離れた場所に不時着したアイアンホークから十騎衆達が出てくるのが見えた。


「地上戦に移る!」


 レオンが叫び、誰よりも先に外へと飛び出した。スティーブン達もすぐに続く。

 ヘイブン防衛チームと十騎衆が睨み合う。


「フェイトブレーカー! やっぱりお前が黒幕か」


 スティーブンが睨みつけると、彼女は嘲るような笑みを浮かべる。


「黒幕だなんて心外ね。私はランディール王の治世を確固たるものとし、この国に揺るぎない平和をもたらそうとしているだけよ」


 その物言いにスティーブンは不愉快な気分になる。

 一方、先頭に立つクリフォードはアレックスを見ていた。


「アレックス先生……」


 アレックスは教え子に対して、何も言葉を贈らず、黙って剣を抜いた。

 クリフォードは何かを言いかけるが、すぐに口をつぐみ、師匠と同じく剣を抜いた。

 スティーブンはクリフォードの剣が変わったのに気づく。

 

「ガラディーンじゃない」

「気をつけて、あれはクラレントよ!」


 ルーシーが警告を発する。

 その直後、クリフォードはアーサー王を殺した武器の能力を解放した。

 強い脱力感が襲う。スティーブンは仲間の様子を見た。どうやら自分達は全員がクラレントが持つ英雄弱体化能力を受けているようだ。

 クリフォードが仲間の状態を確かめる。


「クラレントの影響を受けたものはいるか!?」


 十騎衆で異常を訴える者はいなかった。


「そうか……誰も弱体化は受けていないか……」


 自分達にとって有利な状況を作れたにもかかわらず、カーティスは浮かない顔をしていた。他の十騎衆もある意味で屈辱すら感じているようだった。

 自分達はクラレントの能力の対象となっていない。彼らは、自分達が英雄ではないと事実を突きつけられたのだ。


「どうして! 我々は必死にこの国を守り続けていた。今でもそうです」


 十騎衆の一人が叫ぶ。


「理由はどうあれ、俺達がやろうとしているのは虐殺だ。英雄ではない」


 クリフォードが静かに言う。

 自分達のリーダーが認めた以上、他の十騎衆も納得はできないものの、自分達の感情を飲み込んだ。


「全員、決して油断するな。我々は、アーサー王に匹敵する英雄と戦おうとしている」


 クリフォードがルーシーを見る。

 ルーシーはスペルブラスターを使ってアークエネミーに変身した。

 スティーブンもアカシックからもらったチート能力付与カードを使う。

 パワードスーツもチート能力も、クラレントの影響を受けて性能が低下する。それでも使わないよりはマシだ。 


「ロボット兵器を全部出すわ」

「ああ、ここが正念場だ」


 アークエネミーがスペルブラスターの引き金を引くと、収納空間に収められていたロボット達が出現する。

 多数の通常型はもちろん、疑似活性心肺法機能を持つ大型も数機出ている。

 自分達がクラレントの影響下にある今、ロボット兵器が戦力の要だった。

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