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ヒールレディ・スノウドロップ  作者: 銀星石
第2部 アークエネミーの逆襲
30/73

第29話 海底都市アトランティス

〈光の継承者〉設定資料集 128Pより抜粋


 世界各地で発見されるダンジョンは、もとは古代文明の地下都市である。

 当時の地球はまだ氷河期であり、厳しい気候から逃れるために、古代人は優れた魔法技術を使って地下に過ごしやすい環境を構築した。

 古代人が作り上げた地下世界には彼らの夢が込められていた。いつか氷河期が終わり、地上に現れるであろう暖かな楽園。その想像力を形にしたのが彼らの地下都市だった。


 各地の地下都市は精霊と呼ばれる人工知性体によって管理されている。

 古代人は様々な機械や装置に精霊を憑依させることで、地下都市の保守を自動化していた。

 

 ある日、古代人はより高度な思考と判断が可能な精霊の開発に着手した。 

 この新型精霊が古代文明滅亡の原因となる。

 新型精霊は高度な知性を実現するために、人間の魂を加工するのだ。

 材料となる魂は死刑囚のものが使われた。


 人間を精霊化させる際、人格と記憶を消去し、思考力のみを残そうとしたが、ここで致命的な不具合が生じる。

 魂の漂白が不十分だったために、死刑囚の邪悪な精神性が残ってしまったのだ。

 人格と記憶を失い、悪心と思考力のみを持つ精霊は悪事を自動的に行うシステムと化す。

 後に〈悪の精霊〉と呼ばれるそれは、地下都市を管理する精霊を暴走させ、情報操作で人々の猜疑心を煽り、さらには地上から魔物を招き入れた。


 ごく一部の古代人が〈悪の精霊〉に気が付き、それを討伐したが、手遅れだった。

 真実が明らかになっても人々の対立感情はもとに戻らず、また地下都市は魔物の生息地と化す。

 広大とはいえ閉鎖空間に変わりない地下都市での生活はもはや不可能だった。


再び過酷な環境で生きることになった古代人は、魔物の襲撃と決して終わらない人間同士の争いによって、文明は石器時代レベルにまで衰退した。

 そして紀元前3000年頃にようやく、文明の光が再び地球上に現れたのだ。



 円卓王国を飛び立ったスティーブンは本来の職務に戻り、世界各地のダンジョンを調査した。

 かつて古代人たちの生活が営まれていた地下都市は、恐るべき危険地帯と化していた。

 それらを超科学で作られた装備と自らの実力を持って次々とダンジョンを踏破していく。

 

 彼はこの冒険によっていくつかの成果を得た。

 ダンジョンで手に入れた古代アーティファクトのいくつかは、故郷の科学水準から見ても注目すべき物があった。

 

 他にも、地下都市の建設や運営に関する資料も入手した。

 その中には古代文明の首都の場所について記されているものがあった。

 その首都の名はアトランティスと言う。

 

 アトランティスと言えば、一夜にして水没した幻の大陸として有名だが、この並行世界では海底都市として存在していた。

 海底都市アトランティスは、この世界の潜水艇技術では到達できない深度にあるが、並行世界間航行機ならば到達可能だ。


(まるでノーチラス号のキャプテン・ネモみたいだな)


 そんなことを考えながら航行機を操縦していると、巨大な海底都市が現れた。

 スティーブンがまず目を引いたのは、都市を覆う透明なドームだ。この深度では相当な水圧がかかっているはずなので、極めて高い強度を持っていると分かる。

 何か特殊な建材を使っているのかと思い航行機のスキャン装置を使う。


(ドームがガラス製? 普通は水圧に耐えられない。何らかの方法で強度を上げているな。あとで調べておこう)

 

 スティーブンはアトランティスの入り口へと操縦桿を傾ける。

 そこは潜水艇用の港になってる。それなりに広かったので、航行機を停めるには問題ない。


 機外に出て、超科学スマートデバイスHi(ハイ)-SAD(サッド)にインストールした構造解析アプリや動体検知アプリを起動する。

 Hi-SADの画面に周囲のマップが表示された。

 マップ上に動く光点が表示されている。これは動く物体を示している。

 ダンジョン内で動く物体というのはおおむね敵だ。

 光学迷彩アプリを起動する。


 通路の曲がり角から金属製の人形が現れた。

 ゴーレムだ。精霊が物理的な労働を行うための依代として利用される。

他のダンジョンで何度も遭遇しているが、目の前のは少し違っていた。首都警備用の特殊モデルかもしれない

 警備ゴーレムは穂先が二股に分かれた短槍を持っていた。

 スティーブンはその場を動かず、通り過ぎるのを待つ。

 だが警備ゴーレムはスティーブンを見た。()()()()


「くそ!」

 

 短槍を向けられた瞬間にスティーブンは横に飛んだ。直後、発射された電撃弾が通り過ぎる。


(光学迷彩を見破るセンサーを持ってるな。他のダンジョンより性能が良い)


 スティーブンは反撃でフォースガンを撃つ。魔力(フォースエナジー)の光線は警備ゴーレムに損傷こそ与えたものの、一撃では倒せなかった。

 防御力も改良されている。

 短槍から電撃の魔力刃を生成して警備ゴーレムが斬り掛かってくる。

 敵の動きは常人よりもずっと素早いが、スティーブンは活性心肺法を使える。体内にある複数の属性因子が干渉するせいで、低レベルのまでしか使えないが、それでも十分だ。

 スティーブンは攻撃を回避しつつ武器を持ち替える。


 それはフォースセーバーだ。純粋な殺傷力を付与した魔力(フォースエナジー)刃を生成する。

 スティーブンはセーバーの刃を警備ゴーレムに突き刺す。

 刃は精霊が憑依するためのコア部品を破壊していた。

糸が切れた操り人形のように警備ゴーレムが倒れる。

 

 このようにあっさりと倒したスティーブンだが、おそらくはこの世界の冒険者のほとんどが太刀打ちできないだろう。

 簡単に勝てたのは、ひとえに故郷で作られた強力な装備と活性心肺法、そして不老なエルフゆえの膨大な経験を持つスティーブンだからこそだった。

 

 スティーブンは動体検知アプリで警備ゴーレムの動きを注意しつつ、必要最小限の戦闘で先へ進んだ。

 港を抜けると都市区画に出た。

 規模から見て100万人ほどの古代人たちがここで生活していたのだろうが、今は誰もいないゴーストタウンだ。

 

 その割に小綺麗な様子をしているのは、おそらく精霊が海底都市アトランティスを今までずっと保守点検してきたためだろ。

 都市内にはかなりの数の警備ゴーレムが徘徊している。その全てを倒すのは現実的ではないし、かといって逃げたり隠れたりしながらでは調査にならない。


(ゴーレムの制御システムをハックする必要があるな。あるいは戸籍情報を改竄して俺をここの市民として登録するのもありだ)


 Hi(ハイ)-SAD(サッド)を操作し、航行機の貨物室にあったドローンをこちらに転送する。

 スティーブンはドローンをアトランティス内に放つ。


 程なくして、ドローンの1機が古代文明の言語で「アトランティス警察署」と書かれた施設を見つける。

 後は簡単だった。警察署に侵入し、全ての警備ゴーレムに待機命令コマンドを送信した。


(さてと、次は拠点確保だな。ここの調査はきっと数日はかかるぞ)


 拠点地はもう決めてある。先程ドローンを放った時にちょうどいい場所があったのだ。

 候補地へ向かう途中、公園があった。

 美しい公園だ。色とりどりの花が咲き乱れ、ここが地下空間であると感じさせないように作られている。


「綺麗だな」


 自分が感じたことを言葉にした。

アトランティスだけでなく、これまで探索したダンジョンは例外なくこのような公園や庭園があった。

 古代人たちは貴重な資源を使って、美しい公園の建築と維持に努めていた。

 合理的ではない。だがそれを超える情熱がある。

 寒さに凍える心配のない、温かな世界への憧れだ。

 各地のダンジョンで発見した当時の資料には、しばしば公園美術なる言葉が記載されていた。

 想像力を駆使して、氷河期が終わった世界を創造する。

 美術のジャンルになる程、古代人は氷河期が終わった世界は美しいものであると固く信じていた。

 どのダンジョンの公園美術も美しいと思えた。

 時には製作者の想像力が飛躍して、実際の氷河期後の世界とは見当違いのものもあった。

 けど、スティーブンはそれを間違っているとも、愚かとも思わなかった。

 たとえ奇抜なものでも、美しい世界が現実になってほしいと言う、製作者の誠実な願いが感じとれた。

 逆に居着いた魔物や暴走精霊によって公園美術が無惨に破壊されていたのを目にすると、誰かの夢が踏みにじられたように思えて、悲しかった。


「スノウドロップにも見せてやりたい」


 公園美術に限ったことではない。この世界で何か美しいものを見るたびにそう思った。

 この感情は一過性のもので、彼女と離れていればいずれ自然消滅すると思っていたが、むしろ逆で、日を重ねるごとに強まっていく。


「ああ、俺はあの子が好きなのか」


 ずっと胸の奥にしまい込んでいた気持ちを、とうとう口に出してしまう。

 スノウドロップの幸福を望んでいたのは、長い年月を生きたエルフ特有の博愛精神かと思っていたが違うのだ。

 男として彼女を好いていたのだ。

 しかしそれは望んではならない恋慕だ。

 二人はは文字通り生きる世界が違う。

 

 自分ははこの世界にとっては異物だ。一時の滞在ならともかく、永住してはこの世界にどんな悪影響があるか分かったものではない。

 それで愛する人に何らかの害を与えたら、自分を許せなくなる。

 彼女を故郷に連れて行く? 論外だ。規則や法律の問題以前に家族や友人と引き離してしまうのは、それこそ彼女の不幸になってしまう。

 結局のところ、諦めるしかないのだ。

 自分でなくともローナンがスノウドロップを幸せにしてくれると信じて。

 

 その時、足音が聞こえた。音の感じから警備ゴーレムのものではない。

 音が聞こえた方向を見る。

 黒い鎧を着た女がゆっくりとした足取りで近づいてきている。

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