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ニセモノ

「齋藤くん、まずは来てくれてありがとうございます。そして突然の事で申し訳ありません。」

話を切り出したのは先生だった。

先生は深々と頭を下げている。

続けて会長も言葉を口にする。

「昨日は突然の訪問大変申し訳ありませんでした。しかし、どうしても君と話がしたくて先生から君に声を掛けて貰った次第です。」

昨日の強い口調とは打って変わって丁寧な話し方だ。

まるで同じ人物ではないみたいに。


このままなにも聞かずに断ってしまえばいい、そう脳裏によぎったが鍵をかけられてしまった以上逃げ場がない。

唾を飲み込み何とか落ち着こうと試みる。

「一体なんの御用でしたか?」


その一言で少し俯いていた会長の目に光が指す。

(今のひとことはまずかっただろうか。)


「私の話をきいてくれるのか!」

どうやら荒っぽい口調の方が素の彼女らしい。

「桜井さん口調、荒くなってますよ。彼が萎縮してしまいます。」

どうやら先生も彼女の口調が変わることを知っているらしい。

「あぁ、すまない……いや、申し訳ありません。興奮すると荒っぽくなってしまって。気をつけてはいるのですが。」

彼女は小さく深呼吸して続ける。

「君はこの学校の生徒及教師に偽物が混じっていると言ったら信じますか?」

「偽物……裏口入学とか成り代わりとかそういう話ですか?」

入学式が終わったばかりで成り代わった生徒でもいたのだろうか?

「成り代わりと言ったらそうなのですが……。姿かたちは本人そのもの、なのですが、中身が別人……いや、人ですら無いのかも。」

なんとも説明しづらそうに会長は話し、時折助けを求めるように先生に視線を向ける。

「齋藤くんは、ドッペルゲンガーは信じますか?先日、私と櫻井さんは櫻井さんのドッペルゲンガーに遭遇しましてね。どうやらドッペルゲンガーの櫻井さんは人の形をしているだけの入れ物の様な存在だったみたいで、思考もなく感情もない。そう言った存在でした。私たちはそれに【ニセモノ】と仮称を付け呼んでいます。私たちは櫻井さんの他にこのニセモノが存在しないか探しているのです。」

ドッペルゲンガー…正直信じるタイプではない。

迷信といった類の話が嫌いな訳では無い。

噂話や悪ふざけの一環としてそう言った話をしたことはある。

しかし現実にするには馬鹿げている。

仮に似た人物と出会うことがあったとしてもそれは唯の他人の空似である。

2人に何を試されているのか、いや嫌がらせをされているのか。

突拍子のない話に頭の中がぐるぐるまわる。

「えーっと、昨日の会長の話と今の話を含めるとつまり僕にそのドッペルゲンガーとやら探す手伝いをして欲しい、ということですか?」

「……話が早くて助かる。着いてきて欲しい。」

入口付近に立っていた会長が反対側にある扉の鍵を開ける。

上部に【ビデオ室】と書かれている。

「この部屋は以前は膨大な量のビデオ、VHSが保存されていましたが、今はディスク化及データ化されて殆ど使われていないのですよ。」

部屋には壁側にいくつかの棚が置いてある。

どうやらスライドさせて前後の収納スペースを活用出来るものらしい。

先生は手前のスライドを端によせ、奥の棚の下方より引き出しを引き出す。

引き出しの足にはキャスターが付いているらしい。

「よいしょ」と掛け声こそ挙げたものスムーズに引き出しが出てきた。

「見てくれたまえ。」

会長に促され引き出しを覗き込む。

覗き込んだ先には会長と同じ顔をした「何か」が入っている。

「触っても大丈夫ですよ。今は動いていません。」

そっと俺は「何か」に触れる。

冷たい。体温など存在しない。これが今生きていない事は理解できた。

「先日、櫻井さんは今ここにいるニセモノに襲われました。私はたまたま近くに居たので櫻井さんの悲鳴を聞いて駆けつけた所、彼女(にせもの)と対峙することになりました。その時は彼女は動いていてまるで体温が有るように温かかったですが、今はこうして人形のように眠っています。」

人形……先生が言ったその言葉が妙にしっくりくる感じがする。

しかしこれが人形だとしたら、動いていないのが不思議なくらい巧妙な作品である。

「数日間ここに安置しているがコレは腐ることがない。人形という表現は間違っていないのだと思う。が、コレが動いていた時は私はニセモノに襲われ殺されそうになった。私は他の生徒に同じ思いをして欲しくないと思っているのだが、実際のところ既に手遅れなのかもしれない。」


会長の表情は少し強ばっている。

先生は会長の肩に軽く手を置いた。

「私達もまだまだ分からないことばかりで詳しい説明ができないのですが、信じて頂けましたか?突然の事なので、直ぐに応えて欲しいとは言いません。ですが、2人で解決していくには余りにも力不足で。協力を考えてくれるととても助かります。」


俺は少し考える。

協力してほしい、と言う2人の言葉が真意なのか。

そもそも何が起こっているのか、2人の言っていることが本当なのか。

黙っている俺の方を2人が見つめる。


その時会長の携帯がなった。

「うわぁ」

1番びっくりしているのは会長その人だ。

時刻は16時50分を指していた。

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