我が世と思うのなら!
付属ep ,a few pieces in the same current ep6、ep7
グッと力を入れた清盛の手に小長刀が触れた。おお、これがあった神より賜った刀だ。いつも近くに置いているが気には停めていない。気づくと、すっと熱が抜けた。
「それで法皇のもとに兵が集まっているわけか。しかし、我々も出なければな。」
都の治安は誰の手勢かと言うと、平家の手勢で維持されている。あっちはあっちでは済まない話だ。
その騒ぎの中、多田行綱が駆け込んできた。とにかく入道殿に会わせてほしいと言っているらしい。しつこく繰り返しているらしいので通した。来るなり人払いを頼むと
「軍勢が法皇様のところに、、、、」
「知っておるぞ。山門が何をするかわからんからな」
「違います!軍勢が向かう先はここです!」
「!?」
こういうことだ。かねてより法皇周りの大納言藤原成親や俊寛が計画を進め動き回っていた、行綱も同じく。すると、この騒動。
「ここに乗じてということになったのです。しかし成親殿はこの騒ぎが起こってから浮足立ってどうにもなりません。それを見て、かねてからこのようなことがなるだろうかと思っていたので、ここにお知らせしようと、、、」
要は自分だけは助かろうと思ったのだ。一番先に知らせたなら助かる。目ざといことだ。
「宗盛!知盛!重衡も!」
「我らを滅ぼそうとする輩が都に溢れている!集めるだけ集めろ!」
たちまちのうちに数百、数千騎が集まってきた。一切合切知らせた行綱は外に飛び出していった。
グッと小刀を触る。はっとして検非違使安倍資成を呼び
「法皇に取り次がせよ。こういう事があったので周りで捕縛・処罰される人が出ます。お近づきにならないように、とな。」
「あぁ、ああ。」
茫然と法皇。失敗だ。関係者は皆捕まった。
軍勢の中に呼び出されぽかんと夢を見ているような成親。俊寛は清盛に顔を踏まれている。この先待っているのは配流か処刑か。法皇だけは助かるだろう。そんなものだ。
事が終わると嫡男平重盛の存在が大きく注目された。無用な厳罰は思いとどまるように父に説き、走り回った。法皇の移送にこだわっていたがこれも説得により法皇が住居、法住寺殿も安堵されることとなった。ようやく胴巻を着けて昂じていた清盛も気が静まってきたのだ。そうすると清盛の住居を去る重盛の後を多くの武士が続くのが見えた、随分と多い。彼らは自分の命を重んじるのか?それとも重盛か?次代の力を今更ながら感じたのであった。しかし、生き延びた大天狗の暗躍はまた始まる。もはや世の中が変わっているのも気づいていないのではないか。我らが動かす世の責は我らが負うしかない。その思いがない法皇は世を騒がす。重盛達はそんな現世のトンデモなさに立ち向かえるのか?ふと、そのような気持ちになった。
山門、、、、比叡山延暦寺(天台宗)
「西光被斬」〜「烽火之沙汰」