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倶利伽羅落とし

AC1000頃に北アメリカに到達しグリーンランドに入植したバイキング達は正反対のドナウ河より東のヨーロッパへの進出にも熱心だった。アメリカに向かった同胞たちと同じ神々を信仰して東に進む「ルーシ」と呼ばれた彼等は、数人で持ち運べる大型のカヌーを移動手段として大陸の奥地へと進んでいった。「奴隷狩り」の為に。まだ開拓が進んでおらず、少人数があそこ、そここに分かれて住んでいるスラブ人の地は奴隷の供給源として申し分ない地であった。アッバース朝におけるアフリカ・中央アジア、唐宋における江南以南の山地民、それらに並ぶ供給地であったスラブ。ここからの奴隷供給があまりに多かったため、やがて売られてくる労働力はスラブの地名から「奴隷スレイブ」と呼ばれるようになった。

未開の河川を流れ下り、セバストポリに彼らが到達したのが1000年頃。この頃が毛皮や奴隷を求めて移動し、略奪の代わりにみかじめ料を徴収していた戦士集団のルーシが現地の女性と結婚し、定住して税を取って統治を行う国家となった時代だった。

代表的な人物はイゴーリ大公。これより国家としての系譜が現ロシアに向かって引かれてゆくこととなる。イゴーリは略奪に発ったビザンチン帝国内でキエフ付近居住のドレヴリャーネ族との戦い(課税拒否)で死亡。妻のオリガはかたきを討つために夫の軍を指揮して敵軍を蹴散らして彼らの都を破壊した。ここでも女性が戦に関わることが必ずしも排除されていなかった一例が見える。

「寄せてきたな、、、、。」

軍勢が猿の馬場で足を止めていたので英気は十分だ。戦いの中で相手を押し始めて勢いを付け平地になだれ込むことを大将に決意させる。軍勢の先頭の武者、侍大将の戦意がそれを成す!

狭い山道で鏑矢が鳴る。500メートルも離れていない木曽勢から高笑いが起こると15騎ほどの武者が騎馬で前に出て矢を撃ってくる。こちらも応戦して矢を射ていると徐々に数が増えさらに撃ち合う。

「狭い場所なら無勢でも押し合えると勘違いしている木曽の連中に思い知らせてやれ!」

前で気を吐く足利又太郎忠綱。そうやって平家勢が前に出だすと騎馬は引っ込み退き始めた。こんなものなのか?と思いつつ実盛は勝ちを模索する。日が暮れる前に先頭は山道を抜ける、勝機はそこから訪れる。

「伝令!足を止めてください!他の道々から木曽勢が来ます。」

本陣から前進停止、分かれて寄せてくる相手をせよという。

真ん中を突き通し後続で防げば良いことを何故前に命じるのか。数を活かす事が出来ていない。道々からそれぞれ上がってくる相手に足を取られているときではない。

「大将維盛殿に伝えよ。隘路の小勢は本陣回りで十分。勝機は前にありと。斎藤実盛、前より申し上げる!」

「は!?はい!直ちに。」

良くはないが、退く相手を追って本陣の前進を引き出す。勝ちに至る道を進むのだ。しかしこんな時ばかり念を入れて再度、脇より進んで来る小勢の相手を命じられる。

「こうも相手に振り回されては、戦ってる気がしないな!」

忠綱の声が苛立つ。正面の大手は退き、脇の搦手勢へ。しかしこちらが力を向けると案の定、矢を撃ち合うと早々に退いてゆく。そうして無駄に動く内に日が傾き日没となった。大手も搦手も夕暮れの中を退いてゆく。結局、平地に持ち込めなかった。

「楯を巡らし敵襲に備えよ。夜襲は必ずあるぞ。」

とにかく日が上がるまでを耐え忍ぶ。来る道は分かっている分、大軍で防ぎ切る。


夕日の朱に狼煙が上がる。

「不可解な軍勢分け、不用意な進軍、そして我が軍略への怯えたような動き。間違いない平家は弱兵よ。そしてこの夜、弱兵は屠られるのみ。」

本陣の木曽義仲は巨獣の鼻を取って動きを制している気分だ。今宵、各隘路から寄せる五手、そして秘した最後の一手が勝負を決める。闇の訪れを待つ義仲、側で近衛する巴の耳に唸るような獣声が聞こえる。


暗黒が加賀国と越中国の間を覆う。闇の中に松明が灯り動き回っている。

「各山道から昼のように来るだけだ。落ち着いて向かい討て。」

軍中を周る実盛に

「「「「あっはっはっはっはっはっはっは!」」」」」

まるで山全体が笑っているような高笑いが降ってきた。鬨の声が上がると同時に鏑矢が鳴る。木曽勢が湧くように押してきた。昼間のさすり合うような衝突とは比べものにならぬ、そしてこの夜の中で自在に動いている、どうしても我が方は動きが鈍いなと実盛は思った。

「西国の武者の武勇の見せどころぞ!関東合力、又太郎に見せてくだされ。」

忠綱の激励の声が響く。五手に分けて押す木曽勢、楯を巡らし固く守る平家勢。白旗たなびく本陣から大将維盛は山道を越中国に抜ける方向に見ている。源氏の本陣の松明の数が増えてゆく。火の動きは激しい。それが一纏めに固まってゆく。何をしているのか。そして遠く聞こえるこの鳴き声は

「牛、、、、、、?」

そう声が出た時、平家勢正面最前方で叫び声が挙がった。

「ひいっ!」

「ぐはっ。」

「だ、ダメだあ。」

兵達が押し倒され吹き飛んでいる。百頭程の角に松明をつけた牛の一群が平家の軍陣を引き裂き、かき回し進んで来る。暴れ回る牛には武者とてどうにもならぬ。密集して動きが取りにくい中を好きに蹂躙されている。

「平家が乱れているぞ。さぁ、もう一度押すぞ。」

脇道より今井らが指揮する軍勢がそれぞれ駆けてくる。持ちこたえようにも牛の突撃で全軍が浮足立っている。

「牛の後から木曽の大手が寄せてくるぞ。勇を奮え。押し負けるな!」

必死の指揮を執る足利忠綱。その体が巨大なものの体当たりで跳ね上げられ、宙を舞う。すぐ地面に叩きつけられるかと思ったが、いつまでも落ちている。崖に突き落とされたのだ。他にも次々と武者達が牛に、木曽勢に、あるいは味方に押され落ちてゆく。木曽勢の意気はますます盛んだ。そここに崖があると気をつけていたが、慣れぬ地の闇ではどうにもならない、、、、そう思った瞬間、衝撃とともに意識が打ち砕かれた。


何が起きている、、、、。維盛は混乱の極みの中で呆然としている、顔が弛緩して笑っているようだ。およそ戦場で大将がして良い表情ではない。

「大将殿、しっかりなされよ!」

実盛の声でハッと気づく。この混乱の中、本陣まで来れたのか。何を言ってよいのかわからず、口だけが空に動く。

「急いで後ろにお逃げください。無念ですが、もう支えることはできません。」

老将の目が悔しさに曇っている。

「実盛殿はどうされます。」

虚ろにそう言った。

殿しんがりは私が、出来うる限り戦おうかと。」

馬鹿な。これほどの将はこれからの戦いを思うなら一緒に退いてもらわないと困る。それなのに、、、駄目だ、言葉が出ない。心と体がバラバラに分かれている。

「忠度殿、大将軍を連れて、お早く。」

「実盛殿、忝ない。」

もう統制が効かない多勢の中を進む。次々と追われて崖に落ちている。

「我が周りに、力あるものは集まれ!ここで支えるぞ!」

ひたすらな悲鳴と怒号の中に老将の声が響く。


義仲は平家の混乱を闇を透かして眺めている。

「秘手、火牛策が決まった。各手も攻めに攻めている。我々もより進むぞ。」

その姿を暗闇の中から見ている者。ザッと人とは思えぬ軽業で走る。

「せやっ!」

次の瞬間、巴の薙刀で斬られて宙を舞っていた。

「山吹!戦陣で呆然とするとは何事!しっかりなさい!」

義仲の横で魂が消えたような顔をしている

「は、はい。お姐さま。」

義仲が倒れた者に目を向ける。武者とも思えぬ軽装。変わったやつだ。まだ潜んでいるのか?

「もう少しで東が白んでこよう。それまでに勝ちを手に入れる。」

「さぁ、残っている輩を残らず叩き落し、斬り伏せよ。気を緩めるな!」

砺波山中に大音声が響いた。


平家勢は一晩で7万の多くを失い、維盛らは2000の兵をようやくまとめて加賀国に退いていった。討死は大物でも足利忠綱以下飛騨大夫判官藤原景高、河内判官秀国また、備中国より参陣の大力の士、瀬尾太郎兼康は加賀国住人、倉光次郎成澄に生け捕りにされた。

また火打城で裏切った斎明威儀師も捕らえられた。

「この者は斬れ。」

義仲は一瞥して言い放った。



火牛策、、、、平家物語の「倶利伽羅落」では火牛を用いた計は使われていない。しかし伝説や物語で平家に牛を使って攻めるというものもあるので、最後の秘めた一手を火牛の策とした。

足利忠綱、、、、平家物語では「この戦いで上総大夫忠綱は谷に埋まった」とあるが、史実では橋合戦後の恩賞で揉めて関東に帰って行き、幕府成立後の紛争を最後に名前が出なくなる、という物語と史実でズレの大きい登場人物となっている。


「倶利伽羅落」

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