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火打城への策あり

火打城方には他にも

稲津新介

斎藤太(これらも藤原則光の子孫)

林六郎光明

富樫入道仏誓

土田

武部

宮崎

石黒

入善

佐美

らが詰めていた。

この時代の「城」は天守閣も石垣もなく塗塀もなかった。平地ではなく高所にあり、周りを掘り土をかき上げ柵を巡らせていた。

火打城は岩まみれの高台にある。その前面を水面が覆っている。水の深みを見下ろすように平屋が建っている。近世とは違い城とは行政機能は一切ない純粋な軍事構造物である。木曽方、越前国火打城もその例に漏れない。中世の城の後方から城を挟むように流れて前方で合流する川の深みは攻略の支障となりそうだ。

「これは、攻めがたい、、、。」

大将軍維盛が途方に暮れたように呟いた。

「城は攻めがたいものです。」

大将の弱気は全軍に伝染しうる。そうなると10万の兵も意味がない。斎藤実盛はすかさず返した。

「攻めの配置を急ぎましょう。陣は、、、」

と言いながら、前方の水面を見る。城攻めの妨げになるな、、、、。大軍を以ってもどう攻める?とにかく探索と陣立てを指揮する。


早まった、、、。心からそう思った。もはや平家は天下を保てない、なら早めに離れるべし。越前国に義仲の手が伸びた時、親平家から平家の敵へと成った。しかしどうだ、あっという間に麓の水際に平家の大軍が満ちている。そして陣立てにも隙がない。

「6000で10万をどうしろと、、、。」

火打城に参陣している平泉寺の長吏斎明威儀師はつぶやく。やはり平家に味方すべきだ。連れてきた衆と語らって、働けば平維盛も邪険にはしないだろう。ではどうやって、、、。

麓の平家の陣に矢文が打ち込まれたのはその夜のことだった。「もし火打城から何かのつなぎがあったらまず私に。」実盛の令が行き届いている。すぐに本陣に届いた。

「城攻めの算段がつきました。」

実盛の言葉に維盛はほっと息を吐いた。しかしすぐに顔を引き締める。

はかりごと、ということでは?いきなり裏切ろうとするものでしょうか?」

「書いているのは、麓の水面は川の合流に逆茂木を立てて堰き止めて出来上がっているということ、これは我々も探索でそのうち知ること。そしてもう一つ、攻撃時には平泉寺の僧兵、長吏の縁者が城方の後ろから矢を射かけて助太刀するということ、これはあくまで我々の攻撃あってのこと。どちらもあちらから知らせる重みは低いもの、しかし少しでも早く知らせることで誠意を感じて欲しい、というものです。謀は成り立ちません。」

わざわざ闇に紛れて水面の向こうまで坂を降りて矢を射る斎明の姿を想い実盛は苦笑しつつ矢文の意を解く。

「明日、夜明けと同時に逆茂木での水止めを見てきます。あと引き合わせたい者達もいるので。」


火打城の向かいの山で滞陣していた武者達が色めき出した。どうも攻略の糸口が見つかったらしい。目の前の水面を作り出す水止めが確認された。

「川の中に逆茂木を立てて岩も放り込んでいる。これを抜けば城の斜面までは歩いて行けるな。」

門に登ってゆく一本道と同時に斜面を登ることで城方の守りを分散させたい。舟で対岸を行き来しながら、、だとどうしても城攻めの動きが制限される。しかしこれで妨げは解消される。あと、

「これがお伝えしていた伊賀国衆の“猿子”です。」

大将維盛の前に武者ともも思えぬ者達が平伏している。

「この者達を火打城に使うと?」

「はい。力を尽くすでしょう。」


夜の闇に紛れて伊賀国武士配下の猿子達が動く。水を流れるように渡り、斜面を登ってゆくという。だから「猿」か。

「鎧もなく、厚手に服を巻いているだけ。見つかれば斬られるのみだな。」

「よって、忍んでゆきます。隠形のすべ、軽業を心得ている者たちです。上手くやるでしょう。」

城攻めが始まるや隠れて城内にいる猿子が城に火を付ける等の各種撹乱を行う。そうすれば斎明達の裏切りも効きが大きい。平家勢の攻めも効きやすく、攻撃を受けにくくなる。

「しかし奴らは死ぬのではないか?城に忍び込み、火付けもするなどと、大変だぞ。」

「死にます。それでも相手をいくらか乱せるでしょう。その為だけに使われる者達です。」

「な、、、、、っ。」

「、、、、伊賀国の山手は特に田畠が少なく、強羅な土地です。養える数は限られている。しかし子達は生まれてくる。余りと見なされた者は、、、猿子にされます。」

人の子たらざる子達。よって猿子という。郎党の余り子はそれになることで生きていくことはできる。そして野に伏し山を越える術、相手の目を逃れる術、尋常たらざる軽業を頭目に仕込まれる。そして合戦に於いて後方で撹乱を行う。伊賀国だけでなく方々にその技を以って働きに行く。それが食い扶持となる。

「さすがに実子のそんな姿を見れない。よって、できるだけ遠くの組に遣る。そして代わりにもらって来る。そうすることで遠慮なく駒として使えると、、」

「そんな事が許されるのか!」

実盛は維盛の顔を見た。わなわなと震えている。この世の残酷を初めて見たような顔、、、と思った。そのまま暗闇を見ている。今、決死の思いで斜面を登っている彼らを想っているのか。

「逆茂木を抜いて水が引くと浅瀬を通って攻め行きます。鏑矢が鳴る時がその時と彼らに申し付けています。大将も備えてご滋養を。」


「み、見ろ。水面が退いてゆく。」

「水止めが抜かれたか!」

いつかは来ると思っていたが、いよいよだ。城内に緊張が奔る。そして斎明。別の緊張に包まれている。その日はそれだけで終わった。やがて地を覆っていた闇の向こう、地平線が光で浮き上がった。

「「「あっはっはっー!」」」

10万の高笑いが麓から城を震わした。鏑矢が鳴り、暗闇の中で見えなくとも感じるほどに軍勢が動いている。

「き、来た!」

城に登る一本坂道に兵が連なって進んでくる。高所の利を取って弓で迎撃する。

「楯を掲げろ!首を下げろ!撃ち返しは考えるな!」

平家勢からの声が柵の向こうから響く。


日が昇った頃からは斜面からも小具足姿の武者が登る。登りやすそうな面に縄が申し訳程度ながら渡してある。猿子の工夫か。

「!煙が上がりました。維盛殿、一層のご指示を!」

「伝えよ。門を抜くため、一層奮迅せよ!」

高台を見る維盛の目に火を出し始めた屋根が見えた。


「裏切りじゃあ!」

城内で騒ぎが起こった。まだ先と見ていた斎明一派が火事を見て決意、柵の近くで集まり城方と戦い始めた。

「早く登って来られよ。味方でござる。」

斜面を登る武者に必死に声をかける。いつの間にか沸いて出た軽装の者たちが紐のついた刀も器用に使い登りを助けている。城内でも同じ姿のものが斬られて倒れているが、何者か?

柵を武者が越えた時、門が抜かれて平家勢がなだれ込んできた。

「その腰の赤旗を。掲げまする!」

とにかく味方であるということを示さねば。斜面を次々登ってくる、坂道からもどんどん上がってくる。城方はついに抵抗を諦めた。組打っている者を見捨てて、裏道から逃げ始めた。

「逃げる奴らを射ろ!急げ。」

とにかく平家に帰参するために斎明一派の叫び声が響く。


火打城が落ちる。伝令を待たずとも分かる。

「お見事な、お指図でした。」

勝ち戦にあっても喜色はなく、口だけがことほいでいる。熟達の心意気か。

「実盛!大手で攻めたものも、忍んだ者にも、功に報いよ。」

溢れ出す思いに口を動かされた維盛に、やや驚きつつ

「戦陣であればこれといったものもございませんが、何か見繕っておこうかと。」

斜面を見つめる維盛の目に軽装で武者を助ける者達が映る。一人、矢に当たって転げ落ちた。それから目を離そうとしなかった。





平泉寺、、、、現福井県にあった寺院

威儀師、、、、法会で指揮をする役僧

強羅(甲羅)、、、、石が多く、荒れた地を云う

猿子、、、、勝手な造語。まだ戦場稼ぎの「雑兵」が出現する前に戦力の売り買いは成り立たないと思うが、伊賀国、ということで登場となった。

「火打合戦」

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