旧都叙情
付属ep「a few pieces in the same current」ep13
八月、徳大寺実定は福原での暮らしが数ヶ月して落ち着いた頃、京を訪れようと思い立った。福原↔京はおよそ75km、高倉上皇が強行軍で1日で行けた距離だ。東国での源頼朝の蜂起があったが畿内ならばそこまで気にすることはないだろう。山陽道をゆく。海沿いに進み、大阪平野に出たら淀川沿いに上がってゆく。
「ああ、やはり住み慣れたところは良いものだ。」
山に囲まれた盆地に川が開けた口から入ってゆく。京がどうなっていようと宿には困らない。京の姉、藤原多子の所へ行けばよいのだ。とりあえず泊まるところがあるのは、気が休まる。
遷都したとは言え、まだ今上は京に居る。十一月に移る予定だがどうなるか。誰にも分からない。まだ作っているところが多すぎるのだ。それに比べて、この数百年の都。ここから遷都することを決めたのは、失敗したが三井寺の六波羅への夜襲があの清盛の心胆を寒からしめたのだろうか?道をゆきながら思った。福原に清盛以下平家、京に今上。政権が割れている感がある。都の中に入った。
「?思ったよりも収まっているな。平家が福原に行った割には。」
相変わらず人は多いし、騒がしい。
「ほうねんは今日も同じところに居るぞ!」
側を犬神人達が走り抜けてゆく。そうしている内に屋敷に着いた。瓦が剥がされているところがある。こういうところは治安の変化を感じる。従者が門をたたくと裏門から中に通された。そこに元近衛天皇皇后、多子が座っていた。
「お久しぶりです。お変わりは?」
「数か月ですからね。今上様もまだおられるので、これといっては。」
町の様子からもその通りなのだろう。しかし、移った後はどうなるのだろうか?京の都が山に囲まれた小野に戻るとは思わないが、、、
「福原では月見はできたのですか?伏見・広沢のような名所があるとは思えませんが、、」
「それが色々と有るのですよ。源氏物語の石の浦を伝ったり、海峡を渡って絵島が磯の月を見に行ったり、足を延ばして白良浜、吹上、和歌の浦、住吉、難波、高砂や尾上というところもある。思い思いの所に行っていますよ。」
「月はどこでも眺めれるものですね。」
話しているうちにここに仕える旧知の待宵の小侍従も出てきて話が弾んだ。興にのって今様を歌った
ふるき都をきてむれば あさじが原とぞあれにける
月の光はくまなくて 秋風のみぞ身にはしむ
3回繰り返し歌うと多子、女房達は涙を流していた。そして自分も。しんみりして、また語る。
「僧兵と神人との小競り合いが増えているのです。平家がにらみを利かせている時は少なかったのですが、、。」
「東国も頼朝がまたぞろ動き出しているので、騒ぎがまた起きそうですね。」
「三井寺も奈良の寺院の僧兵も不穏です。乱に関与した彼らを平家が放っておくか。こればかりは我々は蚊帳の外で何もわかりません。」
「近衛の帝の頃が懐かしい限りです。」
話は尽きなかった。あっという間に夜が明ける。
「急ぐこともないでしょうに。ゆっくりしていってはどうですか。」
そうも思ったが、思った以上に行き来に支障はなかったので行こうと思えばいつでも京に行けると感じたので、また行きたくなったら、、、ということで福原に戻ることにした。あちらをあまり空けると諸事滞るかもしれないしな。
「一日の予定だったので、とりあえず戻ります。また土産話を持って帰ってきますよ。」
大通りを下ってゆく。改めてみるとかつての大邸宅も瓦をはがされたり、はや塀が何かに当たって壊されたりしている。これからどんどんこうなってゆくのか。辻説法の僧に犬神人が突っかかっている。
「あれが噂の法然、、、、?」
淀川に沿って下ってゆく。気づけば何度も振り返っている。海風が吹きつけ後ろが山の福原、山に抱かれた静かな別天地、京。二つの風景が頭に浮かぶ。
「海沿いに着くまでは、後ろ髪が引かれるな。」
旧都旅行から福原京に戻ると大変な混乱が起きていた。大規模造営ばかりのせいではない。
9月、東国出兵
である。関東で追跡を振り切り、勢力を得た源頼朝に清盛の号令一下、福原から出陣する。大将は平維盛。
「藤原忠清をつけるから安心しろ。忠度もだ。逆徒を平らげて来い。」
年末の予定の前に関東への出兵を組み込んだのは清盛の嗅覚による。政権として真っ先に手をつけるべきは、今やあの源氏の嫡流だ。それから京周りの勢力に当たれば良い。奴らは福原ー京ー関東に大軍勢が通過するだけで肝を冷やしてこちらが動き出すまで縮こまっているだけだろう。そう清盛は見る。
「近衛の昔が懐かしい。」
思わず声が出た。
「月見」




