炎(ほむら)立ちて
付属エピソード「a few pieces in the same current」ep14〜ep24
「以仁王の息子で目をつけられたのは、出家だと。」
「討死した以仁王も臣籍降下して、源以仁扱いらしいな。」
「そこまでやるかね。」
以仁王を担いだ頼政の叛乱は鎮圧された。人々は平家の力を思い知ったが、打ち続く争乱に不穏な空気が濃くなってきたと思うようになっていた。その一ヶ月後の1180年6月、
福原への遷都決定
である。清盛はいつかするべきことと思っていた。そしてそれは自分が天下に目を光らすことが出来るうちにだ。なら、もうやらなければ時間がなくなる。非平家公卿達の大追放と似た理屈だ。
「お集まりの衆。作物の不作、動乱、遷都。騒がしい世に生まれた我等は既に救われることが約束されています。あの天に有る日の如き、無量の光、阿弥陀如来がそう誓いを立てたからです。悪人こそ自分が裸足で駆けつけて救うべき存在である、この阿弥陀仏の思いを知り安心立命を!今こそ!」
いつもの僧が集まった老若男女に説く。そこに吉次が通る。
「法然っていうのか。聖、、、、では、なさそうだな。」
と言ううちに、向こうから犬神人達が走ってきた。
「面倒が起きる前に、、、。」
去ってゆく。
「福原に付け足すだけだ。そこまで手はかからん。」
清盛は動じない。
「しかし、貴族連や皇室まで動くとなると、、。」
困り顔の宗盛であった。
「三井寺の件でわかっただろう。1日あったら六波羅が突かれる。奈良の僧兵も木津まで来ていた。今、防御を考えると福原だ!」
ここなら京周辺の反平家勢力に余裕を持って対応できる。そして山陽道を行くとすぐ京だ。不便はない。
「〜。」
言いかけた宗盛が絶句した。
「年末あたりで反乱参加の三井寺を攻める。心しておけ。」
後白河法皇は力無く「是」と言った。物憂い。以仁よ親より先に世を去るとは。今は抗う気も起きない。法皇、上皇、今上共に新都福原へと向かっていった。山に囲まれた平野に築かれた京とは違い、海に面して背後が山の福原は慣れないことが多そうだ。皇室のみならず、貴族、庶民、遷都に従う者の偽らざる心だった。力と金に物を言わせ、大極殿等の造営は進む。活気は間違いなくある。船が入る事に宋銭が落ちてくる。旧都でもない活気だ。しかし、その内に人々の口に奇っ怪な噂が立ち始める。太政入道の寝所から庭を見ると大小のしゃれこうべが庭に満ちていたり、寝ていると巨大なものが帳の中を見ていたという話だ。
「そう言えばあったな、睨み返すと途端に消えてしまったがなぁ。」
天下人の覇気には化け物も敵わないのか。怪異にも動じずに過ごしている。その時、ふと思い出したように言った
「あのいつも側においていた小長刀がどこかにしまったままなのだ。探して出しておいてくれ。」
平家が遷都に忙しい中、各地源氏の蠢動が続いていた。以仁王の叛乱は始まりに過ぎない。そしてまた烽火があがった。場所はかつての平将門蜂起の地、関東。伊豆国流人、源氏の正統源頼朝。八月に立つ。
「東海の路を使えば大軍を一気に関東に、、、」
「その必要はない。関東の方に任せておけ。軍勢も使えば使うほど疲弊するからな。それより探し出して捕まえることを厳命しておけ。」
すぐに清盛の言う通り頼朝敗走の報が大庭景親から届いた。来る時に備えて使う時も考えて動かさなければならない。
ーー知らせに曰く、
伊豆国目代、兼高は山木の舘に居る。頼朝の監視役だ。八月の暑い夜、外から突然の大笑い、続いて鬨の声があがる。あっという間に扉が破られ、抵抗むなしく討たれた。源頼朝・北条の手勢300の奇襲は成功した。
「これから父の仇、平家を討滅する!」
気勢を挙げた数日後、頼朝は敗北していた。相模国住人、大庭景親1000騎に打ち破られたのだ。
奇襲に連動した勢力もあっという間に囲まれてしまった。とにかく遮二無二逃げた。
「文覚め、、、、。」
敗走する源頼朝は呟いた。あの坊主に乗せられた。まだまだ早かったではないか。言っても仕方がない。もう自分は反逆の徒なのだから。なんとか生き延びねばならない、今は関東諸領主の温情にすがらなければ。土地の取り扱い問題を解決する権力体を成す、これを以てとにかく切り抜けてゆくしかない。賽は投げられたのだ。
関東において清和源氏正統、頼朝立つ
近江、木曽、奥州にも報が広がる。
「近江から発すれば京は我らがモノ。」
「傍流とは言え、木曽の精兵をより直ぐって平家を倒せば異論も出まい!」
「ついに関東で烽火が挙がった。幼年より世話になった奥州を出る時が来たわ。」
燎原の火が暗闇を舐めてゆくように反乱の裾野が広がってゆく。乱世。
「都遷」〜「早馬」




