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戦場にかかる橋

「南都に脱出しようとしているだと!?なら今度は寺院に逃げ込むだけでは済まないぞ。十津川・吉野の兵が出てくる!」

集まった2万数千騎が気を張り詰めた。

「疾く追撃!」

一斉に以仁王一行の後を追って南下が始まった。

南都に行こう、もう戻ることは出来ない、後悔はないが慎重さは足らなかった、、、、。頭の中をぐるぐると同じことばかりが廻っている。視界が暗くなりドサッという衝撃が伝わる、何度目だ。

気づくと床の上に横たわっている。見慣れた顔が心配そうに見ている。あまりの疲労に宇治の平等院で休んでいる。まだ道は遠い、と思った途端、矢合わせの音、そして

「「「「おおおおおおおおおっ!!」」」」

鬨の声が聞こえてきた。とんでもない大勢での3度に及ぶ叫び。

「あっあっ、、、。」

もう追いついてきたのか。さすが天下の平家。

「今、橋は頼政殿や僧兵が固めています。五月雨で増水していて川を泳ぐことは不可能。落ち着いて出発したら大丈夫です。」

そうは言うが気は焦る。ワタワタと準備をした。


「橋板が外されている!押すな、止まれ!あっ、、、!」

後ろから押された武者が何人も落ちた。向こうへゆくには橋の骨組みをそろそろと渡るしかない。向こうで源頼政・仲綱親子らがが矢を撃っている。親子は今日死ぬ気だ。かぶとをつけていない。そこを通り僧兵、五智院の但馬が大長刀おおなぎなたを抜いて際に来た。

「奴から血祭りに上げろ!」

ヒュンヒュン、ヒュン弓矢が湿気に満ちた空を切り飛んでゆく。当たってやるものかよ、高めの矢は潜り、低めに飛ぶのは飛び越え、正面の矢は長刀で叩き落した。絶技に敵味方ともに目を見張る。「矢切の但馬」これ以降の但馬のあだ名である。また同じく堂衆、浄妙房の明秀はまず用意した矢を散々に射て12人を倒し、打ち終わるや走って細い橋の骨組みを渡り、縦横無尽に斬りまくった。と、その時、

「上を失礼!」

の声と共に肩に手を置き飛び越える者が、乗円房の一来法師!武者の集団の真中に躍り込み暴れまわり、ついにそのまま討ち死にしてしまった。この激突に煽られた僧兵、信徒が次々に骨組みを渡り火が出るような大乱戦となった。バシャン!ザブン!傷ついた、力尽きたものが次々に橋から水面に落ちてゆく。その中を手傷を負った明秀が這うように戻ってくると素早く手当てをすると奈良の方に走っていった。

「南無阿弥陀仏、まだまだこれからが本番さ。」


橋の向こう側から大将平知盛が乱戦を見ている。狭い戦闘面で大軍が足止めを食らっている、死を決した無勢を攻めあぐねるとは、、、。そこに藤原忠清が進み出てきた。

「このまま時を費やすことはありません。雨で増水した宇治川が渡河できず、橋が渡れないなら淀・一口いもあらいに回るか、河内路を行くべきで、、」

天竺インド震旦ちゅうごくから武士を招くおつもりか?」

下野しもつけ国よりの合力、足利又太郎忠綱であった。

「そんなに迂回したら以仁王は南都にたどり着き、十津川・吉野の兵を召集し、平家の天下の向こうを張るでしょう。川を渡ればよろしい。利根川沿いでの戦で水戦に慣れているのが関東武士!逆巻く水も利根川以上ということもありますまい。それでは各々方、お先に!」

言うや、早々と川に馬を乗り入れる。関東合力300騎が後に続く。宇治川の中から忠綱、振り返るや

「強い馬を上手かみて、弱いのは下手へ!馬が歩けるうちはゆるりと乗り、驚いて躍り上がったら手綱をひいて落ち着かせろ。流されて列から流されそうな者は弓につかまらせて引いてやれ。手を組み肩を並べる馬筏で渡り切る!落ち着いて座り、鐙を強く踏め。水で馬の頭が沈んだら、手で引き上げろ、間違えてもその時に手綱を引くな。もっと深くなるなら尻の方に乗り、泳ぎを邪魔するな。強く当たるのは水、馬には優しく。向こう岸から矢を打ってきても川の中で弓は引くな。兜のを側面に傾けて、防ぎに徹しろ、てっぺんを射られたらどうにもならん。一直線に渡りたいだろうが、どれだけ流されても、とにかく向こう岸にたどり着けばよい。さあさあ渡れ!」

大音声に応じて300騎があっという間に荒れの宇治川を渡り切る。

源平合戦の火ぶたが切って落とされたこの「初戦」の渡河に治承4年の5月は相変わらずの曇天であった。

・平家の軍勢の指揮は平知盛。他に平重衡、藤原景清が参加。

・「天竺、震旦より~」は「迂回するくらいなら、(まだ)天竺、震旦から武士を招く方が早いですよ(笑)」という意味。

「橋合戦」

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