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prologue

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり

沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す

驕れる人も久しからず、唯春の夜の夢ごとし

たけき者もついには滅びぬ、ひとえに風の前の塵に同じ


雨の降る中を数人が歩いている。平安京も夜ともなると他の人通りはない。治安の悪さが目立つ昨今では余計だろう。ただひたすらに進んでゆく、最近話題に挙がった化け物を捕まえにゆくのだ。

 地方から召し出され都の警備を担う北面の武士の溜まり場での雑談が元だった。暇な時に

「それでな、信濃国国司の任を終えた陳忠が帰る途中に桟道から落ちたらば、、、、」

とか

「市場のなれ寿司は魚の切り身ではなく蛇の切り身が入っている時も、、、」

とか

「いや、その中に気分が悪くなったのか蓋を開けるや、、、、」

といった都の噂やちょっとした情報を話し合う。その時にある侍が

「雨夜の都の通りに化け物が出るそうだ。その姿は体中に針が生えて、暗闇で光っているという恐ろしいことじゃ。」

と語った。若く猛る男同士、そうなると「お前、そんなのが怖いのか?」「ワシならとっ捕まえるものを。」「そのようなものがおるものか!」と話が弾み、「どれ雨夜に行ってみるか」という運びになった。先頭の若侍がそう決めた。パチパチ、、パチン。夜道を照らす松明だけが騒がしい。目的の場所が近くなるにつれ口数が少なくなり、黙々と歩く。しまったな、、、化け物の話をした侍は後悔していた。この雨夜になぜこんなところに来ているのか?しかし男の集団はずんずん進んでゆく。

「やれやれ、味噌をなめて酒を飲みたいのう、、。」

隣の男に言いかけた時、

「「「あっ!」」」

声が響いた。居る。道の向こうに立っている。

 雨の中に針だらけの化け物がテラテラと光っている。男たちの足が止まっ、、、いや先頭の男は進んでゆく。他は呆然とそれを見ている。ついに化け物の近くに立ち止まった。少し化け物が動いたように思えた。

くるっと男は振り返り、戻ってきた。ニヤニヤしている。

「あの化け物、蓑をかぶった人ですよ。用があって出かけていたようです。雨に濡れた蓑が光を受けて光っているように見えていたと、いうところですね。」

一同、ぽかんとしたような、ホッとしたような顔をした。

「なんと知勇に優れた人か。流石、忠盛殿じゃ!」

後に平家の世を築く相国、平清盛の父、平忠盛の都での活躍が始まった頃の逸話である。

付属ep a few pieces in the same current ep1

平家物語「祇園女御」より

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