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隣の席の美少女転校生の家がダンジョンだった件~謎の世界ランカーが一家揃って隣に越してきました。美少女に懐かれて気付いたらつよつよアイドル探索者って……何で!?~  作者: 八月 猫
第3章 カレンダーズ本格始動

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第63話 名前を呼んではいけない……

「鏡花ちゃん大丈夫?」


 この先に怖いものがいると言った鏡花ちゃんは、普段天真爛漫な姿が消え、まるでお化けに怯える子供の様だった。

 私は鏡花ちゃんの手をぎゅっと握り、進む道の先をじっと見つめる。

 しかし私には何も感じることが出来ない。振り返って苑子さんと康平さんを見てみるが、2人とも怯える鏡花ちゃんを不安そうな目で見ているだけだった。


「どうもこの先に何かいるみたいですけど……どうしましょう?」


 そう2人に話しかけてみたけど――


「どうすると言われても……」


「俺たちは付いて行くしか出来ないからな……」


 まあ、そりゃそうですよね。

 でも、鏡花ちゃんがこれだけ怯えるということは、多分私がどうこう出来ないようなナニカがいるんだろうなあ……。

 手に持っていたハンマーを見つめる。

 これも相当な武器であることは間違いないけど、普段使っている阿須奈の剣に比べると数段落ちる。せめてあれがあれば少しは自信をもって進んでいけるんだけど……。

 でも無い物ねだりをしても仕方ないし、私たちには進むしか道はないんだ。


「……進みましょう。2人は少し離れた後ろを歩いてきてください。鏡花ちゃん」


「……なあに?」


 握った手から怯える鏡花ちゃんの震えがずっと伝わってきている。


「お姉ちゃんが前を歩いていくから、鏡花ちゃんは苑子さんたちと一緒に付いてきてくれる?苑子さん、すいませんけど鏡花ちゃんの手を――」


「……いや」


「――え?鏡花ちゃん?」


「わたしは鈴おねえちゃんといっしょがいい……」


「でもね、この先に何がいるのか分からないから危な――」


「鈴おねえちゃんといっしょがいいの!」


 ぱっちりとしたお目目に涙を浮かべた鏡花ちゃんは、私の手をぎゅっと握りながらそう訴えてきた。

 当然、私の左手は握りつぶされるんじゃないかってくらいに痛い!


「わかっ、た、から、い、一緒に、行こうね!」


 そう言う以外に私の左手を守る手段は無い!

 鏡花ちゃんのお手々、普段なら離したくないけど、今は大至急離してください!



 結局私と鏡花ちゃんが並んで歩き、少し離れたところを苑子さんと康平さんが後ろに注意を払いながらついてくる。

 そして鏡花ちゃんが怯えだしてから数分。

 私たちはその原因が何だったのか理解することになった。


 通路の先に既視感のある風景が見えてきた。

 その辺りにきて、ようやく私にも感じることが出来た。

 背筋に寒気が走り、全身に鳥肌が立つ感じがした。

 前に進む足が徐々に重く感じるのは、多分恐怖で体がすくんでいるからだ。

 寒さすら感じているのに、額から汗が流れ落ちる。

 通路が途切れ、開けた場所に到着した。

 これまでに何度も見た場所――ボスのいる部屋。


 ジャイアントキラーマウスを倒したのだから、このフロアのボスはいないはず。

 しかし、ここに来た経緯や、おそらくは最深部と思われる場所からスタートしたことなど、今までに入ったことのあるダンジョンとは明らかに様相が違っているんだから、ボス部屋が2つあったとしても何らおかしくない。

 それくらい異質なダンジョンなんだから。

 でもね……今まで見た魔物の中でも、ダントツにヤバい奴がここにいる必要はなくない?


 フロアの中心であぐらをかくように座っている魔物。

 全身が黄色の体毛に覆われ、真紅の胸当てをしている魔物。

 立ち上がっても2メートルほどくらいしかないと思われるが、離れた場所からも感じる威圧感は、今すぐにでも逃げ出したいくらいの恐怖を感じさせられる。


「……あれもこの階のボスなの?」


「りんお姉ちゃん……」


「鏡花ちゃん。言いたいことは分かるけど、《《絶対に口に出しちゃ》》駄目よ」


 全身《《黄色い体毛》》の、《《真紅の胸当て》》をした、《《熊の魔物》》。


 さっきまで怯えていた鏡花ちゃんが目をキラキラさせながら、今にも駆け出して行きそうな雰囲気になっているので、私は握っていた手を強く握って引き留めながら釘を刺した。

 あ、蜂蜜舐めたくなってきた。


 魔物はゆっくりとした動作で立ち上がりこちらを睨むように見る。


「お前たちがこの世界の冒険者か?」


「魔物が喋った!?」


 あろうことか、その魔物は日本語で話しかけてきた。

 いや、喋りそうだけども。


「魔物――というわけじゃないぜ。いや、今は似たようなもんかもしれねーけどな。子供が2人、その後ろに大人が2人か。だが、気配からして戦えるのは子供の方みたいだな。しかし……なんだその軽装は?この世界の冒険者はそんな恰好でダンジョンに入ってくるもんなのか?」


 熊の魔物はそんなよく分からないことを言う。

 冒険者?この世界?

 しかし言葉を話せるということは、会話することが出来るという事。

 もしかしたら話し合いが出来るかもしれない。

 私はそう考えて、意を決して話しかけた。


「……私たちはここに迷い込んだ者です。ここを通してもらえますか?」


「良いぜ」


 熊の返事は思いの外あっさりとしたもので、その言葉を聞いた瞬間、私はほっとした。


「俺を倒すことが出来たら通って良いぜ」


 そしてすぐにその期待は裏切られた。


「……私たちに戦う意思はありません。ただ外に出たいだけなんです!」


「ああ、そうだろうな。奥から来たことからもそれは分かるぜ。俺としても子供と戦うとかやりたかないんだけどよ、ここに俺を呼んだ奴の指示がどうしても優先されちまうらしくてよ。この先に進みたいなら、俺を倒すしか方法が無いみたいだぜ」


「そんな……」


「まあお前たちは運が悪かったってことだな。このダンジョンは生まれたばかりで、まだ最下層まで完成されちゃあいない。俺は本来ならその最深部のボスになる為に呼ばれて、完成までここで待ってただけなんだ。まさか、その奥に迷い込んでくる奴がいるなんて、作った奴でも計算外なことだろうぜ」


 さっきから聞き逃せないような話を勝手に話してくれる熊。

 ここに呼んだ奴?ここを作った奴?

 どういうこと?ダンジョンは誰かの意思で作られているっていうの?ここだけじゃなく、世界中のダンジョンが……。


「あなたを呼んだのは、このダンジョンを作ったのは誰なんですか?」


 それが分かれば、世界を震撼させるような大ニュースだ。


「誰かは言えねえな。正確には、言えないようにされてんだけどな。まあ、知ったところで、俺を倒さねえ限りは誰にも伝えることは出来ねえから意味ねえと思うが」


 熊はそう言いながら腕をぐるぐる回したり屈伸したりと、明らかに戦闘前の準備体操を始めている。


「よし!俺の方はいつでも良いぜ!俺はこの空間から出ることは出来ねえみてえだから、戦わねえ奴はそこから入らねえ方が安全だぜ!」


 少し話しただけだけど、この熊が本当は優しさのある熊だということが伝わってくる。

 その誰かに従うようにされていなければ、きっとすんなりとここを通してくれたんじゃないかと思う。

 イヤリングでも落とさない限り、後から追いかけてくることはないでしょうね。


「……行ってきます。鏡花ちゃんはここで2人と一緒にいてね」


 握っていた手を離して、しゃがんで鏡花ちゃんの目を見ながらそう言った。

 鏡花ちゃんはその目を地面に逸らして何かを耐えるように肩を震わせ、そして――


「りんお姉ちゃんだけ熊さんと遊ぶのズルい!」


 いや、そっちかい!!




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