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隣の席の美少女転校生の家がダンジョンだった件~謎の世界ランカーが一家揃って隣に越してきました。美少女に懐かれて気付いたらつよつよアイドル探索者って……何で!?~  作者: 八月 猫
第3章 カレンダーズ本格始動

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幕間 阿須奈のターン2

 ドラゴンの周囲に6つの光の球が浮かび上がる。

 そこから次々と光速で放たれるレーザーのようなエネルギー弾。

 標的はたった1人の少女。

 ピンクのつなぎに身を包み、右手には自分の背丈ほどもある紅蓮の刀身の日本刀を構えた魔人が如き闘気を放つ黒髪の麗人。


 視認不可能な速度のレーザーを、長い髪を揺らしながら、まるでダンスを踊るかのようなステップで華麗に躱していくその姿は、殺伐としたこの空間におよそ相応しくない優雅さであった。


 ドラゴンの焦りはどんどんと増していく。

 阿須奈の強さが自分の常識の外にあるのは理解していた。しかし、今の攻撃を「受ける」でもなく、「耐える」でもなく、「躱し」ている状況がドラゴンの焦燥を掻き立てていた。

 阿須奈の動きは見えている。瞬間移動しているわけでもない。トントンとステップを踏みながら、ゆっくりと近づいてきているだけである。

 では何故当たらない?どうして自分の攻撃がかすりもしないのか?

 焦りは焦りを呼び、徐々にその照準が雑になっていく。


 更に恐ろしいのは、躱されたレーザーが後方で腕組をして見ているだけの大我に届いた時、その直前で光が屈折するかのように捻じ曲げられていることだった。

 阿須奈を倒すことが出来たとして、その後自分はあの男を相手にどのような最期を迎えることになるのか?そんな思いが脳裏を過っていた。


 少女との距離はすでに10メートルを切ろうかというところまできている。

 自分が宙にいるとはいえ、決して安全というわけではない。

 ドラゴンは花火大会のフィナーレかのように全力連射でレーザーを阿須奈に向けて放つ。

 再び土煙が舞い上がり、阿須奈の姿がその中に消えた。


 その攻撃すらも阿須奈には届いていないことが分かっていたドラゴンは、残る力の全てを振り絞るかのような勢いで更に上へと上昇を始めた。

 それは自身に与えられた使命を放棄した逃走。

 絶対的な使命であるはずのそれを、ドラゴンの恐怖が上回った。


 逃げる?どこへ?

 どこでもいい、とにかくここよりも遠くへ!!

 かの魔人たちの手の届かぬ遥か上空へ!!


 それは野生の本能だったのかもしれない。

 圧倒的な強者と対峙した時に起こる生存本能のようなものかもしれない。

 とにかくドラゴンは、このダンジョンの理を恐怖という力で克服したのだ。

 まあ、ドラゴンが野生にいるかどうかは別として。


 しかし、そうは問屋が卸さないというお話。

 ドラゴンの全身が信じられないような重さとなり、翼の起こす揚力を一瞬で上回った。

 その巨躯は飛ぶ勢いを失い、それまでの倍の速度で地面へと墜落していく。


 隕石が落ちたかのような衝撃音が室内に響き渡り、ドラゴンの体は大きく地面にめり込んでいた。


「逃げたら駄目じゃない」


 凛とした少女の声が、顔面のほとんどを地面に埋めていたドラゴンの耳に届いた。

 咄嗟に首を引き抜く。すでに身体にかかっていた重みは感じない。

 そんなドラゴンの目の前に少女は立っていた。

 薄っすらと笑みを浮かべた美しい顔。

 土煙の中から出てきたとはまるで思えない綺麗な身体。

 優雅に立つその姿は、とても戦闘中とは思えない。

 しかし、ドラゴンにはその持っている刀が、自分を死へと誘う死神の鎌の様に見えた。


 それは反射的な行動。

 ドラゴンは自分が意識することなく、起き上がると同時にその巨大な右前脚を阿須奈へと払った。

 近距離からの不意打ち。たとえ受けられたとしても、物量差で押し切れるはず。ましては躱されるようなことはない。

 そんなことを、自分が無意識に放った攻撃をスローモーションでも見るかのような錯覚を覚えながら見ていた。


 確実にその攻撃が阿須奈を捕らえた。

 ドラゴンがそう確信した瞬間――その右前脚は、足首?手首?の辺りから両断され、阿須奈の遥か後方へと飛んでいった。


 切断された個所から吹き出す鮮血。

 ドラゴンは咆哮のような悲鳴を上げる。

 その視界に微かに映る紅蓮の輝き。

 死神の鎌を肩に担ぐように少女はくるりと舞っていた。

 その口元には妖艶な笑みを浮かべて。


「ガアアァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 それは恐怖に心を塗りつぶされたドラゴンの最後の反抗。

 大きく開いた口で阿須奈を喰らおうとする、最期の抵抗。


 そして――ドラゴンの意識はそこで無くなった。


 宙を舞うドラゴンの頭部。

 斬られた首からは血を吹き流し、その巨躯はゆっくりと地に伏せた。



「まあ、戦闘技術としては合格点だな。最初から手を抜かずにバフをかけて戦ったのは偉いぞ」


「へへへ。でしょう」


「でもね、それならすぐに勝負を決めなさい。あんなに敵に攻撃をさせてたら、後ろの仲間が危ないだろう?」


「あ……。そうだった……ごめんなさい……」


「うん。今日は阿須奈がどれだけ戦えるのかを見ると伝えていたから、そういうつもりで戦ったんだとは思うけどね」


「ちょっと調子に乗っちゃった……」


「その反省が出来るなら問題ない。あとはその時の状況判断をしっかりとすること」


「はーい。あ、そうそうお父さん。これでしょ?」


 そう言って阿須奈は赤いドラゴンの鱗を大我へと手渡す。

 ドラゴンの死体がダンジョンに吸収された後に残されたドロップアイテム。


「おっと忘れるところだった。ご苦労様。これで今年の冬も快適な通勤が出来るぞ」


 大我は笑顔で阿須奈の頭を撫でる。


 あのドラゴンの落とすドロップアイテム『火龍の鱗』。

 その鱗に秘められたエネルギーは小型の火力発電所が1年稼働することが出来るだけの火力に相当する。

 だが、小鳥遊家では――


「この《《カイロ》》、毎日替えなくて良いから便利だよね」


「ああ、これ1つで冬中もつからね」


 ただの通勤用のカイロとして利用されていた。


「私と鏡花の分もいるから、また取りに来なくっちゃ」


「そうだね。今度からは阿須奈に頼んで取ってきてもらおうかな」


「任せといて!!あ、鈴ちゃんたちにもあげようっと!」



 ドラゴンの悪夢はこれからもしばらく続くことになりそうだった。




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