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Coffee Brake  作者: ハンス
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Ladies&Gentleman プロローグ

野球ものを書いてみました。

 透き通った青空が、生まれ変わった地球を見下ろす。

 2502年4月7日。

 21世紀まで汚染によって地球は回復不可能と言われるまで荒んでいたが、人類の英知と努力のおかげで汚染は完全に失くなり、異常にまで浄化されていた。

 「ふぁ…よく寝た。」

 今年高校1年生となる原野夏紀はらのなつきはゆっくりとベットから体を起こす。どの時代でも学生は朝が苦手のようだ。

 「―――なつきぃ~起きなさぁ~いっ!!」

 「起きたよっ!!」

 母が映る空中に現れたパネルに夏紀は言い返した。

 また、いつの時代も息子は母親から起こされることも変わらない。

 「今日から高校生か。やっぱり変わらないかな…、って当たり前か。カーテン、開けて。」

 カーテンが独りでに勢いよく開くと、朝日が部屋の中へと飛び込んだ。夏紀はうぅんっ…と背伸びをしながらその朝日を全身に浴びた。

 「でもまっ、新しいチームに入るんだ。きっといいことがあるよ。」

 すらっと背が高く、野球青年らしく短い髪に、小顔でまるで子犬のような笑顔をすると夏紀は急いで制服へと着替えだした。

 2249年。ついに人間は自らの遺伝子を操作コーディネートした。しかし安全性が完璧に確認されていたが、世界中で行われていた遺伝子操作ゲノム・コーディネートは第三世代になって弊害が見つかった。

 それは『男の幼児が10人のうち1人しか生まれない』というものだった。

 もちろん世界中でその弊害を解明し克服しようと努めたが、250年経った今でさえも見つかっていない。なので今学校の生徒比率が男子学生1人に対して、女子学生が10人というのはもはや常識となっている。

 この男子の極小化に伴って最も痛手をうけたのは、やはり【野球】だった。公式では女性禁制だったこのスポーツも始めは体制を変えなかったが、野球の視聴率低迷によりついに2401年に女性の参加を許可した。

 そして今。野球選手のうち9割以上が女性となり、野球も女性がやるスポーツであると認知されつつある。

 「今日から部活に参加していいから、グローブも入れて…っと。」

 文字の完全情報化が進み、昔では考えられないほど軽くなった通学鞄を持って、身支度を済ませた夏紀は一階へと駆け降りる。

 「母さん、雪菜さん、おはよう。」

 「ああ、おはよう。」

 「おはようございます♪」

 昔ながらの木材を多用した新築の家のリビングに入ると、コーヒーを飲んでいるいつも無表情の母の明美といそいそと朝食の準備をしているアンドロイド・メイドの雪菜がいた。

 「…父さんは?」

 「昨日飲み会に行ったまま夢の世界で楽しんでるよ。」

 「…ぁあ、酔い潰れたんだ。」

 母の回りくどい話に夏紀は苦笑した。

 「夏紀くん、今日はオムレツだけどいいよね?」

 「うんっ、お願いします。」

 「はぁ~い♪」

 メイド服の雪菜は夏紀の朝食を作るべく、またキッチンへと戻っていった。

 アンドロイドが実用化されてから早くも約350年が経った。かなり高度になったAIに伴い約150年前に人権が認められ、今ではこのように日常の光景となっている。社会では専門職が少ない今では特に重宝されており、男性人口が減った今ではアンドロイドと結婚するのも珍しくはない。

 「あんた、高校でも野球をするんだよね?」

 「うん、そのつもり。」

 夏紀はコップにオレンジジュースを注ぎ飲み、体に潤いを行き渡らせる。

 「あんた…分かってるだろうね?」

 「もちろん、だから今日は外野手用のグローブも持っていくよ。」

 「へぇ…外野もできるのかい?」

 「母さん、僕はどのポジションはある程度できるよ。外野も結構楽しいしね。」

 「そうかい、なら安心したよ。怪我人は出したくないしね。」

 「アハハっ!!…まぁ、『やりたくない』と言えば嘘になるけどね。」

 「あんたは生粋のだからね…、あたしも気持ちは分かるよ。何、相方ができるまでの辛抱じゃないか。待ちな。」

 「うん、楽しみに待つよ。」

 会話が一区切りしたところで雪菜は夏紀の前に皿を置いた。

 「―――はい、できましたよ♪」

 見事な湯気と出来立ての香りがたつ雪菜のオムレツは夏紀の好物である。

 「ありがとうっ!!いっただっきます♪」

 「はい♪」

 見ているこちらが気持ちよくなる夏紀の食いっぷりを雪菜はニコニコしていた。

 「雪菜。」

 「はい、なんですか?」

 「今日は首脳と少し話があるからスーツを出しておいてくれ。どれにするかは任せる。」

 「承知しました。」

 夏紀は最後にコーヒー牛乳を一気飲みし、食事を終えた。

 「ごちそうさまっ!!美味しかったよ、雪菜さん。」

 「はい、お粗末さまでした。」

 夏紀は慌ただしく鞄を持ち、玄関へと走った。

 「なっ、夏紀くんっ!!お弁当っ!!」

 雪菜は風呂敷に包んだお弁当を渡す。本来風呂敷は要らないのだが、やはりあるのが弁当だというのは変わらないようだ。

 「あっ、うんっ!!ありがとうっ!!」

 夏紀はショルダーバックの底に弁当を置き、靴紐がないスニーカーに足を入れると、自動的に靴が夏紀の足に合わせ閉じた。

 「安全装置セフティーがついてるからって油断するんじゃないよ。」

 「分かってるよ、あっちにいたときはずっとバイクで通学してたんだ。母さんは今日遅いの?」

 「いんや、今日は控え。ちょっとやってきたら帰るよ。」

 「そっか。雪菜さん、帰るときはメールするから。」

 「うん、お願いね。」

 「それじゃ、行ってきますっ!!」


 夏紀は玄関から飛び出した。


 今日からもっと楽しい日々が待っているんだ―――。


 夏紀は躍動した。


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