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Coffee Brake  作者: ハンス
3/5

試作小説【CANARIA 0】

 目を開くと、そこには鬱蒼と繁る森林が広がっていた。


 「…えっ?」


  カサ…


 私は落ち葉を払いのけながら、身を起こす。落ち葉の量から見て、私は相当寝ていたようだと分かる。服はモスグリーンを基調とした【神流学院高等学校かんながくいん】のセーラー服だ。…おかしい。私はお気に入りの花柄のパジャマを着て、フカフカのベットに寝ていたはず。なのに森の中で寝るというトレジャーなことはしないはずだ。


  ―――ギャギャっ!!


 「キャアっ!!」

 私は咄嗟に頭を抱える。名も知らない鳥が森を翔けていった。以前祖父母が農家である男友達から、誰もいない森はどんなお化け屋敷より遥かに怖いと聞いた覚えがある。その言葉の意味がありありと分かる。

 かなり。怖い。

 私は身を震わせながら、腰下まである自慢の長い黒髪を整え、ゆっくりと。ゆっくりと立ち上がった。そして誰かいないか、必死な思いで見渡した。


 「誰か…誰かいないのっ!?」


 若干裏返った私の声は虚しく森に響いた。見渡すかぎり拡がる平坦な森の遠くには、薄く白みがかっていた。


  カサ…カサ…


 私は心臓をバクバクと鳴らしながら、近くにあった木にもたれかかった。そして身をまるくする。想像して欲しい。何も知らない女子高生の自分が、突然右も左も分からない状況になったときの気持ちを。

 誰でもいい。とにかく知人、できれば友達と逢いたい。

 じっと。してられない。

 私は怯える自分を叱咤し、歯を食いしばりながら顔を上げる。そして改めて見渡した森の中は、変わらず幻想的な静けさと厳かな空気がながれている。

 「…あっ、携帯っ!!」

 私は一縷の望みをかけポケットの中を荒く探す。すると望んでいた感触が指先に当たった。

 「ラッキーっ!!」そうして携帯を開く。

 …が。

 「圏外…マジで…」

 私は腰を抜かし、お尻からペタンと座り込んだ。

 …でもまって。私が契約している携帯の会社は、電波の通りにかなり売りにしているから、少し歩けば繋がるかもしれない。

 「よし…天音あまね、行くわよ。」

 と、私は自分に言い聞かせ、再度立ち上がる。心臓も今さっきほどは暴れていない。段々落ち着いてきた。

 …大丈夫。何とかなるわ。

 私はとりあえず、その男友達【澤村さわむら 曉人あきと】が言っていたことを思い出す。曉人は中学時代、同じ吹奏楽部のパート別練習の休憩中に話題として、たまに山について話してくれた。


 ◆◇


 「山歩きに必要なのは、やっぱり杖だな。」

 「杖?」

 「ああ。山って案外滑り易いし、草が結構邪魔だしな。かなり役に立つ。」

 「なぁんだ、猪とかと戦うのかと思った。」

 「…あんなぁ喜多きだ、猪に襲われて死んだやつとかいんだぞ?」

 「いや、ミツルって結構強いじゃん。」

 「さすがの俺でも逃げるわっ!!」

 「「「ハハハっ!!」」」


 ◇◆


 「棒…ないかな…」

 私は周囲の足元を見る。すると適度に長く太い棒を見つけた。

 「…よし、とにかく下ろう。多分そっちの方がいい。」

 私は拾った棒を一振りすると、それを杖のように扱い獣道を下った。獣道は幅が1メートルもないが、女子高生ながら小柄な私には十分だった。地面は湿っており、かなり滑りやすかった。だけど、棒があったおかげで転ばすにいられた。


  ガサ…ガサガサ…


 「誰っ!?!?!?」

 私は体を小さく丸めながら、揺れた草むらの方を見た。

 こんなところで変な男と出くわした最悪だ。私は以前変質者に襲われたことがあるから、尚一層緊張する。あのときは曉人がいたから助かったけど、今はどうすることをできない。


  ゴフゥ…ゴフゥ…


 「ご…ふぅ…?」

 すると出てきたのは―――

 「―――イノシシっ!?!?!?!?!?」

 大人何人分にもなろう異常に大きいイノシシだった。

 っていうか、イノシシってこんなに大きいのっ!?

 焦げ茶色のイノシシは鼻から荒く水色の息を吐き、全身で呼吸をしていた。

 『…あんなぁ喜多きだ、猪に襲われて死んだやつとかいんだぞ?』

 『さすがの俺でも逃げるわっ!!』

 あっ、曉人が逃げるんなら…私は…


  ブンっ!!


 「キャアアァァァァァァァァァァァァァっ!!!!!!!!!!!!!やめてっ!!来ないでぇっ!!」

 私は棒を投げ付け、必死になって逃げ出した。


  ―――ガサガサガサガサっ!!!!!


  ドドっドドっドドっ―――


 スカートだけど関係ないっ!!


  ドドっドドっドドっ―――


 しっ死にたくないっ!!!!!!!!!!!!!

 私は必死になって逃げ続ける。元々運動はかなり得意だったけど、自分ながら驚異的な速さで走り続ける。

 私ってこんなに速かったっけっ!?!?

 多分【火事場の馬鹿力】ってやつかもしれないけど、今はこのイノシシから何とか逃げることができている。

 「誰かっ……誰かぁっ!!助けてぇっ!!!!!!!」


 「―――テンちゃんっ!!伏せてっ!!!!」


 その時、目の前から視界を埋める程の大きな茶色の馬が、私の頭上を飛び越えた。


  ドテっ


 「キャアァっ!!」

 私は呆気になり、足がもつれて倒れた。


  ―――バキュユンっ


  バチバチバチっ!!!!


  グオォォォォォォォォっ!!!


 どうすることもできず、私は頭を両手で抱え伏せ、後ろでは『何かが放たれる音』『多分放電した音』『イノシシの悲鳴っぽい声』が聞こえた。


  ―――バキュユンっバキュユンっ


  バチバチバチバチバチバチっ!!!!


  ガアァァァァァァァァっ!!!!


 「ノーヴィア、決めなさいっ!!」

 「ぉおよっ!!」

 私を呼んでくれた女の声に応えて、野太い声が聞こえた。


  ブゥンブゥンっ!!!!


  ドスっ…


  ブシャァァァっ!!!!


  オ゛オ゛ォォォォォォっ!!!!!!!!


 「ウォっシャアァっ!!久々の大物だぜっ!!!!」

 「やったかっ!?!?」

 「アユミ、ノーヴィア、凄いですっ!!」

 私の後ろには数人の男女の声が聞こえる。どうやらイノシシは倒されたらしい。

 「―――テンちゃんっ!!テンちゃんだよねっ!?大丈夫っ!?!?!?」

 「テン…ちゃん…?」

 私は恐る恐る顔を声の方へと向けた。


 そこには見知った顔があった。


 「あゆみ…ちゃん…?」

 「そうよ【喜多鮎美きだあゆみ】よっ!!テンちゃん、怪我はないっ!?」

 「ない…けど…」

 小顔に艶やかな短い黒髪。大きなくりっとした目。いつもニッコリと笑みを浮かべていた小さな唇。間違いない、あゆみちゃんだ。

 だけど…

 「けど?」

 「その格好…なに?」

 土に汚れているが白のローブに身を包み、両腕は露出しているがガードを着け、背中には弓を背負っている。


 まるでRPGに出てくる弓を使う女性キャラのような服装だ。


 「……ああ…これは…ね…」

 「―――おいアユミ、【エスペリウス族】の友達は大丈夫だったか?」

 「ええノーヴィア。怪我はないみたいだけど、転んだみたいね。」

 「そいつはよかった。」

 あゆみちゃんの後ろから身長が2メートルくらいの筋骨隆々の大男が、大きな斧を担いで近づき、腰を下ろして私に大きな顔を近づけた。茶色がかった赤い髪がかなり適当だけど、かなり男らしい。


 あれ…この人なんで…


 「にしても、よく【ジャフリー】から逃げ続けられたな。【エスペリウス族】はこんなに身体能力があるのか?」

 「さぁね、ブルガー。」

 ブルガーと呼ばれた男は、ノーヴィアさんとまではいかないがかなりの高身長で、片手には真っ赤な水晶が付いた杖を持ち、私に近づき私の顔を見た。金髪でなかなかのイケメンだ。


 あれ…この人も…


 「アユミ、大丈夫なら動くです。ここらへんは【ザムナー】の本拠地の近くです、襲われたら大変です。」

 「分かってるわ、エレナ。」

 エレナと呼ばれた若い女は私くらい背が低くて、真っ白の髪のしたで鳶色の目をくりくりとしていてかなり可愛い。


 え…この人も…


 「【ジャフリー】は?」

 「もう紐に括りつけた、後は離れるだけだ。」とブルガーさんが言った。

 「さすがに早いわね。なら早いとこ村に戻りましょう。」

 「あのさ…あゆみちゃん…」

 「どうかした、テンちゃん。立てないの?」

 「いや、何とか立てるんだけど…」

 「ならどうしたの?」


 私は先ほどから気になっていたことを言った。


 「この人たちには…何で【耳】とかを付けてるの?」


 ノーヴィアさんには、【牛】の耳と角と尻尾。

 ブルガーさんには、【猫】の耳と尻尾。

 エレナさんには、【兎】の耳と尻尾。


 三人の耳と尻尾は機械では考えられないほどの自然な動きをするが、『コスプレ』で付けているとしか思えない。


 「…あのね、テンちゃん。三人の【耳】とか【尻尾】とかは生えてるの。」


 「えっ…【人間】―――」

 「【人間】じゃないの。ノーヴィアは【ヴァイルシャ族】、ブルガーは【アオリス族】、エレナは【ラヒシュタイン族】なの。」

 「人間じゃ…ない…?」

 「―――ほら、触ってみろ。」

 ブルガーさんは無理矢理私の手を取り、自分の【耳】に触らせた。


 「温かい…血が…通ってる…」


 間違いなく耳は温かく、生気を感じられた。


 「…テンちゃん。実はね、私たち…」


 あゆみちゃんは、真顔で有り得ないことを言った。


 「【異世界に飛ばされた】の…私たち…」



 私の意識はそこで途切れた。



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