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蛍光灯

作者: 倉崎 町羽

我が家の和室には古い蛍光灯がある。


四角い半透明の傘がついて、真ん中からスイッチの紐が下に伸びている。

今では、貝殻のように天井にへばりついたリモコン操作の物が主流だから、そろそろ骨董の域に入りそうなものだ。

昭和の名残といわれるのも近いかもしれない。


別に、古いものが好きというんじゃない。

古いものの価値など全然分らない。

ただこの蛍光灯は、まだまだ活躍してほしい。

この蛍光灯の紐の下には、小さな世界がある。


子供が小さかったころ、よくこの紐を掴もうと飛びついていた。

いつの日かその紐に触れるようになった。

満面の笑顔が、部屋中に溶け込んでいった。


ある時、つかみ損ねた紐が蛍光灯の傘の上に乗ってしまった。

「取って。」とせがむ子供に応えてあげた。


その子も、もう24才になる。


でも、この蛍光灯を見ると小さな子供が帰ってくる。

そして、確かにそこにいる。

笑い声や、ぬくもりも感じることができる。

もしかしたら、これも現実かもしれない。


人間は、情報の90%以上を目から得ているという。

実体がなければ、無いものとしか思えなくなってしまったようだ。


でも本当は記憶の中で存在し、そして本当にその記憶の中で今を生きていると思う。


大事なものが、壊れたり無くしたりしたら悲しくなる。

元に戻らない感情が、滲み出てくる。

それは、心から消えてしまったときに、深い悲しみに覆いつくされないためのクッションなのかもしれない。


記憶の中にいる限り、存在し続けている。

忘れない限り。


今も、蛍光灯の紐に手を伸ばす子供がいる。

無邪気に、無心に。


私も、手を伸ばしてみた。。

吸い込まれそうな、この大空に。


もしかすると

あの子供は、私なのかもしれない。



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