見えない糸
いやー
娘が23になりましたよー
そっちはどう?
まだご子息大学生?やったやんなー
府立大やったっけー
将来楽しみやねー
こっちのご令嬢は大変やで
新卒会社入ったばかり
いつもピリピリしてる
顔みて話しかけないでー
やて
お口クチャいやて
悪態ばかりついてきよる
嫌になるで
そう言われる度
糸ようじね
あの
細っそい見えない糸で
歯を磨いてるねん
あっそうそう
見えない糸で思い出してんけどや
こんな話していい?
高校のとき
俺の帰り
待ってた
女が
いてや
ほな
ちょっと
散歩しよかーってなってんけど
歩きながら日が暮れてくの2人で
歩いてん
彼女(長田)可愛いよねー
とか
俺も
自分の彼もなかなかええやん!
スポーツマンやし
俺みたいなタばコまみれの帰宅部より全然かっこええで!
って俺が
横断歩道でバイクがすごいスピードで左折してきた時かなー
その子にいってん
今でも覚えてるわ
学校から川西池田へ歩いててん
サ店は高いし公園さがしててん
そしたらその子が
俺の手をとってん
揺れながら俺の手をにぎってん
で
俺はどうしたん?
聞いてん
なんもないよー
ってその子
笑ってた
でその子のスピード
俺の手をひっぱるスピードで2人は歩いてん
公園が見えてきたころには
かなり外は薄く暮れて来ててん
ペンチに座りいろいろ話をした
彼が嫉妬深くこまってるとか
彼女(長田)はかわいくていいよねー
とか何度も何度も言ってくる
その度俺は
いや
自分かて可愛いよ
って繰り返しあほみたいに
オウムの真似して答えた
あー
今頃その子もシワコちゃんやね
長田もシワコやし
俺もエロシワオやな
でその時のエロ少年は何の思い入れも
タイミングもなく
お祈りの所作のようにその子に
キスしようとしてん
何か見えない糸と言うか力と言うか
日はもう暮れてたし
キスぐらいええやんっておもってん
なのに
その子は
えー
えー
って
逃げた
俺は
わかった
って
呟いて
ベンチから離れた
で
その子と
川西池田までなんか話ながら歩いた
もう外は暗くなっていて
駅舎だけボッカリ滲んでた
もう何を話をしたかは思い出せない
キスしようとして
エー
えー
ってその子の下向いた顔だけ
今も思い出す
あー
時を飛び越えてあの時の俺に会いたい
さすれば
あの時の俺に金を少しばかり分け与えて
サ店に行けと言いたい
どんな女にも
気さくな気前のいい男でいろよと
いってやりたい
エー
えーって
うつむいたその子の顔は
永遠に俺の中
美化されてく
次の日も次の週も隣のクラスやったし
その子とは
もうあの時のエー
えーの
夕暮れから何も話してないから
もっと美化されてく
なぜその子と話さなくなったのかはわからないねん
おかしい?
いやそんなもんやない?
肝心なところが誰かて
削がれてくもんやで
だからおもしろいんやで
無関心なったり
ねじれたり
からまわったり
ほら何か見えない糸に誰かて…