第28話 戯曲・ハートの騎士の冒険譚 第二幕
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(パンッと大きな手拍子が響き渡る)
コンコの町の由来というのは、周辺で取れるジャガイモの名前が起源だと言われております。
遥か昔、飢えに苦しんでいた民が地面を掘った時に見つけたジャガイモなんですがね。紫色の皮に覆われたそれはもう珍しい色をしていたのですよ。
それを炭で焼いてみたらあら不思議、とろけるほどの甘みが口いっぱいに広がり大層美味な味だったそうです。
神の恵みとも言える紫のジャガイモは民達の腹を満たし、その独特な甘さを気に入った者が紫のジャガイモの苗を植えて収穫することに成功。ロクスの国の名産となったのです。
そしてロクスでは紫色のことを『コンコー』と言うそうで。このことからこの町は『コンコージャガイモの町』となり、現在言われているコンコの町となったのです。
そこから何年か時が経ち。コンコの町は鉄の加工する術を身に付け、それを日々の生業としていました。
しかしかつては盛えていた町は今や見る影も無いようで、人通りの無い町並みはどこか不気味さを覚えてしまうのでございます。
そんな寂れた町を騎士と従者と女将の三人は歩いていたのでした。
(三人が両手に水の入った桶を持って歩いて来る)
「わざわざお手伝いいただきありがとうございます。おかげさまでいつもより多くの水を持ってこれました」
「女性を助けるのは騎士として当たり前のことですよ。それに私やテイラーにとって良い運動になります」
「うへぇ、宿屋ってこんなに沢山の水を使うのかよ。井戸から持ってくるのにも一苦労だぜ」
「いえ、これは宿屋だけで使うのではなくラフィースがお世話になっている鍛冶屋のお方に渡す物なのですよ。そのお方は足が不自由なので私が変わって汲んでいるのです。…………ポルトンさーん! 今日のお水を置いておきますからねー!」
(ラフィースは道の途中にある家の前に一つの桶を置いた)
「なるほど。貴方は人一倍この町のために尽力しているのですね」
「そんな、尽力なんて大袈裟です。ラフィースはただやれることをやっているだけです」
「それがすごいことなんだって! 俺達が旅の途中で出会ったロクでもない奴らよりずっと立派だよ! 町のみんなを苦しめてるバカ領主とかいうヤツに見てもらいたいよ」
「テイラー、そんな大声で人の悪口を言っては………………」
「ほお、バカ領主と聞こえたがわしの聞き間違いかなぁ?」
「聞き間違いではありませんわ。あの生意気な子供がお父様を侮辱したのですわ」
(下手側、マシャル達の歩く向こう側からレイチェスと軍服を着た男が現れる)
「町の長たるわしをバカとは。まったく人に対する敬意の無い子供だ。そんな子供の師の姿が見てみたいものだとは思わないかね、そこな騎士殿よ?」
「………………失礼、私は貴方のことを知らないのです。私はマシャル・ハートと言います。よろしければ貴方のお名前を教えていただきたい」
「マシャル・ハート………………彼の王国の者の名か。ふん、わしはコンコの町の領主、ヴァイデルハン・コンコだ。今日はそこの宿屋の女主人に用があって来たのだ。部外者であるハート殿は邪魔してくれるなよ?」
「………………」
「して、ラフィースよ。あの事について返事をまだ聞いてない。今日こそは色の良い返事を聞けるんだろうな。これはお前にとっても都合の良い提案なのだからな?」
「お断りします。何度言われてもラフィースの答えは同じです。もう諦めてください」
「この下女は…………! お父様の好意をぞんざいに扱うとは、生意気ですわよ! 貴方がしていいのはは首を縦に振って『はい』と言うことだけですわ!」
「よい、レイチェス、言葉を荒げて解決する問題でもない。だがわしの我慢にも限度がある。………………今夜だ。今夜迎えが来るまでに荷物を纏めておけ」
「そんな! いきなり過ぎます!」
「そもそもの話、お前の意見など知ったことでは無いのだ。だが寛容なわしはわざわざお前自身の意思として時間を作ってやったのだ。そしてその時間は当に過ぎている」
「そ、そんな…………なんて酷い…………!」
「現実を先延ばしにした結果だ。それでは今夜また会おう、さらばだ」
「オーホッホッホッ! さっさと決めておかないからこうなるのよ!」
(去り行く領主達の後ろでラフィースは崩れ落ちた。その様子を騎士は静かに、従者は怒りの形相で見守っていた)
「うう…………ぐすっ…………」
「大丈夫………………いえ、大丈夫ではないですよね。まずは立ちましょう」
「あの領主、本当に最悪なヤツだ! ラフィースさんをまるで物みたいに扱いやがって!」
「ぐすっ、いえ、あの領主相手にむしろ今まで持った方です。最悪殺されていたのですから」
「……………………」
この時代の悪徳領主による民の扱いは凄惨極まりないものでした。
偏った力を持つ領主はまさしく暴君そのもの。どのような無法も権力によって許されておりました。酷いものでは気まぐれに民を殺す者もいたとされているのです。
故にこのようなことも『仕方がない』と言えば仕方のないこと。命を取られないだけ儲けものとすら言われるほどでしょう。
しかし、だがしかしです。この場に在わす者は義と忠の騎士・マシャル・ハートでございます。
悲しむ女性を見て、彼の思うことはただ一つしかありません。
「一つだけ質問があります」
「なんでしょうか?」
「おそらくですが、あの領主の言うようにこの提案は貴方にとって良いものでしょう。なにせ貴族の伴侶です、今までとは比べ物にならないほどによい暮らしができるはずです。それでも貴方は今の暮らしを続けていきたいのですか?」
「………………はい」
「今のままの生活は辛いことの連続です。それでもですか?」
「はい。ラフィースは今の生活が一番幸せなのです」
「………………わかりました」
(騎士はラフィースへと跪いた)
「騎士マシャル・ハートはこの半日だけ貴女の騎士となり貴女を守りましょう」
「………………良いのですか?」
「もちろんです。貴女のその覚悟を、…………………………」
「??? どうしました?」
「…………ッ! あ、貴女のその覚悟を守りたいと思ったのですから」
文献によれば西の国の騎士の勲章式では王の前で守りたい存在を宣誓するという文化があるそうで。
言うのであれば騎士という存在の信念を示すと言うのでしょうか。その騎士の信念というのは『守る』というものが根幹にあるとされています。
国を守るという大きな信念もあれば、家族や友人を守るというささやかなものまで。騎士によって千差万別であります。
そしてハートの騎士が宣誓した守るべき存在。観客の皆様はご存知かもしれませんがここで敢えて言わせていただきましょう。
ハートの騎士は『夢を持つ者』を守ると宣誓されたのです。
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「やっぱ実際の舞台の上は無茶苦茶緊張するぜ…………、胸がバクバク言ってるよ」
「拙者も喋り続けて喉がイガイガするでござる…………。酒を飲む時に染み込みそうでござるよ…………」
「ふん、ボサっとするな。次のパートの内容の確認しておけ」
「次は確かレイちゃんとヴォリス君がメインのパートだったよね〜。二人とも頑張ってね〜」
盛況冷めやらぬ舞台裏。幕の間の暫しの休憩の時が訪れました。
ここまででも何十分間続けての演技はやはり心身ともに疲弊してしまうもの。そのために一旦の休憩が必要なのです。
そしてなにより次の一幕の準備をする必要もあります。背景の設営や台本の再確認、もちろん休憩だってその一環です。
「ブルース様」
「あの特徴。まさか…………」
しかし私には休憩の時間を押し除けてでも気になる疑問があったのです。
そのためにブルース様に話しかけたのですが、何か重大な考えごとをしているのか、彼に私の言葉は届いておりませんでした。
「ブルース様!」
「………………!? あ、ああレイさん。どうしたの?」
「先程から何を考えていたのですか? 舞台の上でもそのことに気を取られて一瞬言葉が飛んでおりましたが」
それは先程の幕の終盤。ハートの騎士が宿屋の女将へひと時の仕えを示すという大事なシーンのことでした。そのシーンでブルース様は一瞬だけ観客席の方へ気が向けられてしまっていたのです。
幸いすぐ様持ち直し事なきを得ましたが、真面目なブルース様がこのような事態になるのは珍しいと思い私は彼に問うたのでした。
「あ、ああ、実は知り合いの姿がチラッと見えてね。でもよく見えなかったんだ。貴族のような見た目をしているんだけど…………」
「貴族のような見た目? もしかして長くて立派な髭を生やしたお方ですか?」
「そ、そう! その人がどこに行ったのか気になってさ」
なるほど。確かに不意に知り合いの姿が見えて頭の中が真っ白になるのはよくあることです。もしこの場にお父様の姿が見えた時は私も同じ反応を示すでしょう。
そして幸運なことに私はブルース様の探し人が向かった先を私は知っています。あの目立つ姿に思わず目を引かれてしまっていたのです。
「あのお方でしたら観客席を掻き分けるように離れて観光商業区の方へ向かっておりましたね。挨拶をするなら舞台が終わった後の方がよろしいですね」
「………………」
しかしブルース様の探し人を教えたことは失敗でした。
なぜならその後にとんでもない苦労が私達へ見舞われることになるのですから。
「すみません! すぐ戻るので舞台の方よろしくお願いします!」
「え、ちょっとブルース様!」
なんということでしょう。ブルース様はサーコートを纏ったままに舞台裏をまるで野を駆ける獣のような激しい足取りで去ってしまったのです。
その背中はすぐさま遠くへと行ってしまい、気付いた頃には影も形も見えなくなっていました。
探し人に会うのはいいでしょう。しかしそのタイミングが最悪でした。
「お〜いレイちゃん、もうすぐ休憩も終わるよ〜」
「確か次は領主サイドがメインなんでしょ? 早く確認しとかないとミスしちゃうよ」
「ブルースはどうした、一緒じゃないのか?」
「あ、あの、皆様………………」
その後の私の続く言葉は、この舞台の上で一番大きな声を生み出すことになったのでした。
自分勝手なブルース様!
早く戻ってきてくださいよ!




