第26話 舞台裏のとわいらいと
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ロンド演劇祭はロンド家の領地である『エリア・キャン・ディーズ』全体を使用して執り行われる盛大な祭りです。
ダリアン中から名だたる劇団が集まり、様々な場所に設置された舞台の上で情熱と努力が込められた演劇を披露します。
そしてもしこの披露した劇が観覧した貴族や商人の目に留まれば、その劇団の後援者になり、自身の生活や今後の活動に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
それこそがこのロンド演劇祭がここまで大規模に開催される理由であり、演ずる者達が夢見る理由でもあるのです。
そのためでしょうか、道行く人達の中にはギラギラとした力強い眼差しを浮かべている方が多数見受けられました、まるで飢えた獣のような激しさを纏わせながら。
そして私達『劇団・黄昏の時間』は大劇場のある通りに設営された舞台の裏手からの様子に驚愕の色を浮かべていました。
「す、すごい観客の数………………まだ祭りは序盤も序盤だろ?」
「ふん、大方この女が演じる姿を観たくて集まったのだろうよ。ここまで多いのは予想外だが…………」
「ふふ〜ん。この人数を前に演技ができるんだね〜!」
私達の装いは『ハートの騎士の冒険譚』に合わせた衣装にしています。どれもベルリン様の伝で集めてくれた物です。
私は目が痛くなるような華美なドレス。ベルリン様は質素な麻の服。ラギアン様は革の胸当てに身軽な装い。
ヴォリス様はいつもの軍服です。まあ役に違和感が無いので問題ありません。
………………そして。
「レイさん。この格好で大丈夫かな? ハートの騎士っぽく見える?」
今回の主役であるブルース様はハートの騎士の装いである赤茶色のサーコートをバッチリと着こなしていました。
「ええ、問題ありませんよ。どこからどう見てもハートの騎士様そのものです」
「そうかな? ……………………うん、そうだね」
少し不安そうな表情を浮かべていたブルース様も私の言葉で大きな自信が付いてくれました。
そして忘れてはならない方がもう一人おります。
「最初の語り出しがここで…………あ、ここで抑揚を付ければ盛り上がりそうでござるな」
そうです。『語り』という物語において最も重要な絵の輪郭を描いてくれる存在。黄昏の家のマスター様です。
彼こそがまさしく物語を差配する存在と言っても過言ではないでしょう。そのためマスター様は舞台裏で待機している時でも今回の戯曲本の確認をしていました。
「マスター様、喉の調子はいかがですか?」
「うん、おおレイ殿か。拙者の喉はなんの問題もござらんよ。健勝そのものでござる」
「それは良かったです。この後の舞台、共に頑張りましょうね」
「ふむ、それは後で皆の前で言うべきでござるよ」
「それもそうですね」
さて、舞台の観客席は現在最高の盛り上がりを私達に届けています。『早く早く、見せてくれ!』と始まるのが待ち切れないと言う声や『ベルリン様ぁ!』と愛しの者の登場を渇望する声で溢れ返っていました。
そんな盛況極まれる観客の中に、私の眼にある一人の少女の姿が留まったのです。
「ソルちゃん…………?」
私をおねえちゃんと慕い、共に街を歩いた少女ソルちゃんが舞台の最前で眼を輝かせていたのです。その隣にはじいや様の姿もあります。
「………………自分勝手にやる理由が一つ増えましたね」
これは彼女のおねえちゃんとして、輝かしい演じる私の姿見せなければならなくなりました。
何せ以前に私はソルちゃんの前で軽率にも見るも無惨な拙い演技を披露してしまいました。そのリベンジを果たす機会が幸運にも訪れたのです。これは心が燃える展開でしょう?
「黄昏の時間の皆様、準備をお願いします」
そしてこの時が訪れました。
私達は円陣を組み、最後の打ち合わせへと洒落込みます。
「みんな、準備は良いかな?」
「お、おう! 俺は大丈夫だぜ」
「ふん、緊張せずに稽古の通りやるだけだ。………………思いっきりな」
「ヴォリス殿は強いでござるな、拙者は心の臓が震えっぱなしでござるよ」
「緊張するのは当然ですよ。僕も足が震えてますしね」
この大舞台を前に皆様は緊張を孕みながらも、どこか楽しそうな表情をしています。まるで雲に隠れていても爛々と照らす太陽のように。
「…………………皆様、今日の一幕を楽しみましょう!」
『おお!!』
私のこの言葉に私達の心の中には。ある言葉が刻まれました。
『みんなで楽しむ』。
そうです。確かに大勢の人の前で演じるのは心の負担が大きいでしょう。ですが芸術というのは楽しむもの。たとえ失敗したとしてもそれを楽しんだ先に素晴らしい芸術が出来上がるのですから。
「よ〜し、それじゃあ行こうか! 黄昏の時間、開演!」
そうしてベルリン様の号令で、私達はロンド演劇祭の大舞台へと躍り出るのでした。
勝手ながら更新頻度を遅らせてもらいます。
作品の更新を楽しみにしている皆様には誠に申し訳なく思います。




