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ダリアン幻奏楽譚〜弦と剣にてワルツを奏でる〜  作者: ジョン・ヤマト
第三章 道化は愉快な舞台を閑歩する
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第6話 貧民街の優雅な一幕

   ○○○

 お茶会も終わり時間も午後になりました。

 私はいつものように黄昏の家に向かうため、大通りを抜けて貧民街を歩いていました。


 アコースティックギターの音色を耳に、薄暗い通りを軽い足取りで歩いて行きます。

 周りには人影は無く、散乱したビンや紙くずがまるでバージンロードのように真っ直ぐと道を作っていました。


 そうして目的地まで後僅かというところで、ある光景が私の目に飛び込んで来ました。


「まったく、無茶はダメだよ。逃げれる時に逃げなきゃ」


「すまねえ、俺が見誤ったせいだ」


「アニキは悪くねぇ! オデの力が足りなかったせいなんだ!」


 それはベルリン様が二人の男性と何かお話ししている光景でした。

 山のように大柄な男性と妖精の様に小さな男性。二人の傷だらけの男性は小鳥のように落ち込んでいます。


「ベルリン様」

「え、レイちゃん、どうしてここに?」

「ベルリン様の姿が見えたので、気になって来てしまいました」


 私の登場にこの貧民街の空気が少しだけ朗らかになったように感じました。

 ベルリン様は現れた私に驚きながらも、すぐにいつもの調子に戻り事情を説明してくれるのでした。


「あ〜、この二人がね、今まで追い剥ぎで稼いでいたのに何を思ったのか働きたいって言ってさ〜、それで通りの奥にある酒場に無理矢理自分達を売り込もうとしたのよ。それで止めればいいのに無茶したらしくてね〜、たまたま通りかかった私が助けて命からがら逃げて来て今に至るのよ」


「アネゴには感謝しても仕切れません! 本当にありがとうございます!」

「アネゴォ!」

「姉御はやめて」


 心優しきベルリン様!

 つまり騒動に巻き込まれた彼らの命を救ったということなのですね。まさに救いの女神と言っても過言ではないのでしょう。


 そんなベルリン様の威光を見て、お二人も手を握りしめ、神に祈るようにして感謝を示しています。


 しかしお二人のことは気になります。こんな人気の無い貧民街で働くというのは一体どう言うことなのでしょう。

 このような場所に仕事があるとはとても思えません。


「お二人はどのようにして働きたいのです?」

「え? 確かアイツが言ってたのは俺達には治安の悪い場所で用心棒をするのが良いんじゃないか〜って…………」

「あ〜、見た目だけなら威圧感あるからね、君達」


 用心棒。つまりは警備の仕事でしょう。

 確かにベルリン様の言う通り、彼らの見た目は何かを守る警備に向いているとは思います。


 そしてこの貧民街などの治安の悪い場所でその仕事を探すというのも悪い選択肢では無いでしょう。


 現にお父様の保有する鉱山でも盗賊から鉱石を守る警備の仕事は大変重宝されているのをマリアンから教えられています。


「ですが、ここでそのような仕事を探すのは難しいと思います」

「え、そうなの?」

「ちびっ子、なんでだ?」

「もうこの場所には需要が無さそうに見えましたので」


 ダリアンには『曲がった草木を踏むことはできない』という言葉があります。

 これは『既に誰かの通った道を歩いても最初に草木を踏み締めた者にはなれない』という意味であり、商業的に言えば『既にその場所で儲けられた需要では儲けることはできない』という意味で使われることがあります。


 つまりこの貧民街で用心棒の仕事という草木(需要)は既に踏まれ切っており、彼らの踏める草木(需要)は存在しないと私は感じます。


「なのでここで用心棒の仕事を見つけるのは困難を極めるかと…………」


「そ、そんな! このままじゃ餓死にしちまうよ!?」

「アニキィ! オデ達は飢えても死ぬ時は一緒だぁ!」


 私の考えを聞いたお二人はお互いを抱き締めながら滝のように大粒の涙を流し合いました。


 大変お労しい光景です。自身に合った仕事を模索しようとしてもその需要はここには存在しないのですから。

 しかしこれもダリアンという国の過酷さの象徴なのでしょう。


「ここに用心棒の仕事が無いならさ〜」


 ですが忘れではいけません、この場にはベルリン様という存在が居ることを。彼女のその言葉によって数多の人達を救っているということを。


「貧民街以外の場所な仕事があるかもしれないってことじゃない?」

「え?」


「いやさ〜、無理してここにこだわる必要は無いでしょ〜。例えば、ロンド家の領地とか演劇祭が近いのもあって用心棒が欲しい人達とか多そうじゃない?」


「………………」

「………………」

「………………」


 眼から鱗とはこのことなのでしょう。

 お二人も一瞬、訳も分からずにベルリン様をじっと見つめています。

 ベルリン様の言葉は的を射ており、賭けてみる価値のある提案でした。そうなったらもう彼女の時間です。


「よ〜し、なら早速行ってみようか!」

「え、は、はい!」

「…………マジか?」

「アニキィ?」


 こうして私とベルリン様、そしてお二人の男性は、その場の思い付きという名の計画で歩き始めるのでした。


 果たしてそこには踏むことのできる草木はあるのか。

 そして私は一体どうなってしまうのか。

 ああ、今でも心の内がハラハラしてしまって顔が綻んでしまいそうです!

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【連載版】星空を見上げれば 滅びゆく世界で戦い続ける女の子達の物語です。 近代ファンタジーがお好きな方はぜひお読みください。
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