【半ぺん】同棲している彼女に料理を振る舞ったら、婚約破棄されました
今日の夜は何を食べよう。夜は何だかんだ冷え込むし、温かいものがいい。
頭の中でレシピを思い浮かべながら、籠に2人分の食材を放り込む。
やっぱり1人分より、2人分の方が食材に悩まなくて楽だ。スーパーにある食材というのは、1人分を料理するには多すぎる。
会計を済ませ、そそくさと家に帰る。身支度を整えたあと、俺はさっそくキッチンで鍋の準備を始めた。
俺――宇津木俊典には、結婚を間近に控えた恋人がいる。彼女の名前は出口朝子。もうすぐ、宇津木朝子になる予定だ。
本来俺は今日、料理当番じゃない。料理当番は朝子だった。だが彼女は残業で帰るのが遅くなるとのことで、俺が夕飯を作ることになったのだ。
朝子と付き合い始めたのは3年前。結婚を意識して、同棲を始めたのは半年前になる。
同棲したての頃は、互いの家の文化の違いに戸惑うことも少なくなかった。椅子をどこに置くだとか、風呂のお湯を洗濯に使うだの使わないのだとか、些細なことで口論になったこともある。
たが、俺達は乗り越えた。今では折り合いをつけて上手くやっている。これからもいろいろ問題は出てくるだろうが、何とかやっていけるだろう。
「ただいま~」
丁度料理を作り終わったタイミングで、朝子が帰ってきた。鍋ということもあって、彼女がシャワーを浴びる前に夕飯を食べることになった。
熱々の鍋をリビングに持っていき、2人で食卓を囲む。グツグツと煮える鍋は美味しそうだ。その湯気からは、食欲をそそる匂いが漂ってくる。
「…………」
なのに朝子の様子がおかしい。取り分けた具材に、口を付けようとしない。
彼女は今まで見たことのない表情をしていた。首をかしげ、鍋をじっと見つめている。
「どうした?」
「ねえ……もしかしてこの鍋、アレが入ってないの?」
「何が?」
「アレよ! アレ! 俊典はこの鍋になんの違和感もないの!?」
ん? なんのことだ?
この料理であれば、定番のものが一通り鍋に入っている。大根、白滝、卵、餅巾着、ちくわ、あと俺が好きな牛スジやロールキャベツも入れている。
それ以外に必要な具材なんてあっただろうか。パッとは思い付かない。
「アレじゃ分からないよ。何なのかハッキリ言ってくれ」
「ありえない! 今まで付き合った彼氏だって、みんなアレのことを忘れてなかったよ。どうして俊典はアレがないことに気付かないの!?」
「元カレのことは今関係ないだろ!」
「関係ある! 私ね、この鍋にアレを入れない人とは合わないの。絶対」
「はぁ?」
「ごめんなさい。もう俊典とは結婚できない。悪いけど、婚約破棄させてもらいます」
それから朝子は逃げるように家から出ていってしまった。
携帯に電話を掛けても出てくれず、彼女の両親に電話しても、慰謝料を払うから朝子と話すのは止めてほしいの一点張りだった。
アレと呼ばれたものは、彼女にとって相当大事なものだったらしい。俺との婚約を破棄するほどに。
一体、俺の作ったおでんに何が入ってなかったというんだ――。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
主人公の作ったおでんには一体何が入っていなかったのでしょうか?
答えは本作のタイトルにあります。