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第二十三話・小笠原沖海戦-8(小笠原沖海戦完結)

【新生歴1948年 9月13日 夜|西ナマール海上】


本隊の“航空母艦コルフォースェア”を発った、艦載機群80機。


彼らは日本艦隊からの探知を避けるため、280㎞/hで悪天候下の洋上を低空飛行する。


すでに壊滅状態にある、“空母ダラップ”と“空母サンミュール”の航空隊を代償として手にした日本艦隊の位置まで、あと100kmだ。


「隊長!前方上空にロケット弾多数!」


しかし、上空のそれらは進路を変えることなく通り過ぎていく。


「クッソ、どうして奴ら、こうも遠くを狙えるんだ!」


隊長は悪態を付くが、決して本体に戻ろうとはしない。


今できることは、日本艦隊に一矢報いる事。味方が攻撃されていようとも、このチャンスを逃すわけにはいかない。


「みんな、本隊はきっと大丈夫だ。別動隊の仇はとるぞ!」


無線で激励するが、彼自身もわかっていた。自分たちを悠々と飛び越えていった数発のロケット弾だけで、数分後に甚大な被害が出るであろうことは。


しかし、振り返ることはしない。ただ前を見据えて、ひたすら飛び続ける。

__________


【西暦2042年 9月13日 夜|西太平洋上 小笠原諸島より北北東390km地点】


“あかいし型正規航空母艦2番艦-すずか|LNAC-61”には状況が逐次報告され、情報は蓄積していく。


これまでに探知した水上目標は25、対空目標は176。このうち、東に展開していた9の水上目標は、対水上戦闘によって国防空軍の“DS−01警戒偵察機”が全滅したことを確認している。対空目標は、すでに100近くを撃墜している。


しかし、残存数が50まで減った時、南の艦隊から新たな対空目標が確認された。


「SSMインターセプト60秒前!」


南の水上目標群に対する誘導弾も到達寸前、残るは対空目標だけだ。おそらく南の水上目標から出現した対空目標も、総数は80前後と見積もられる。


この時点で残存目標は対空目標がおよそ120。空対空誘導弾の残数は130以上ある。


だが、


「さすがにこれ以上は使えない。SAM残弾が130をきったら、近接防空に移行する。」


「了解しました。」


機密事項であるが、日本特事時点で国防軍に残された艦載用の対空誘導弾は、各艦に搭載されているものを除いた、陸上予備が約13,126発だ。


多いように感じるだろうが、現在の水上戦闘艦艇は全部で87隻。誘導弾垂直発射システムの搭載セル数は、各艦種16セル~104セルと幅が広いが、平均で約56セル。通常、搭載する艦対空誘導弾は全体の七割程度を充てるのが基本的な運用なので、一隻あたり平均して約40発の艦隊空誘導弾を搭載していることになる。


つまり87隻の水上艦艇が、使い切った対空誘導弾を再装填できる回数は、単純計算で一隻当たり約3.7回。4回にも満たないのだ。搭載しているものを含めて5回弱。今回のような戦闘が続けば、間違いなく足りない。


備蓄数が運用での必要数の3~5倍とは、有事を見据えた平時及びグレーゾーン事態下の軍隊としては一般的な指標だ。しかし、有事の際には戦時経済による軍需増産がなされるため、開戦初期~中期の即応体制を支え維持することを目的とした備蓄数が、前述の3~5倍という数である。


それに対して現状は全く違う。新たな生産が困難な現状では、従来の想定にある「有事での戦時経済による軍需増産」は、食料・エネルギーすらも逼迫している状況ではなおさら、あてにならない。今ある全てで最後までやり遂げなければならないのだ。


「すずかより各艦に達する。これより近接防空に移行する。現時点をもって誘導弾による攻撃を止め、以降は主砲及びCIWSで対処する。」

__________


“ミサイル駆逐艦はるかぜ”は、これまでに19発のSM₋61Bを発射していた。そんな中、誘導弾から主砲での攻撃へと移行する。


「SM-61B攻撃止め、主砲攻撃はじめ!」


FCからの指示が更新されたのだ。誘導弾の発射を止めて、目標の近接を50㎞まで許してから3分間の主砲による近接防空を開始するという指示だった。


CIC指示での艦隊防衛とは、各艦のCIC同士がネットワークを通じて情報を共有し、最も脅威度の高い目標に対して、最も即応性のある艦が迎撃に当たる。


しかし、これは個別の目標に対する即応迎撃を最優先とした戦術レベルの指揮統制に基づく処理である。そのため今回のように発射弾数比率の均一化などといった弾薬管理等の、詳細な条件付けを考慮するには不十分だ。


これを可能とするのがFC指示である。


旗艦となりうる大型艦艇のCICやCDCに置かれたシステムであり、各艦のCICの上位に位置して一元的にそれらを監理する。


戦闘中の目標に対する火力の分配を最適化し、各艦のCICの処理に直接介入して指示を調整することで、無駄な消耗や目標への重複を防ぐ。


展開火力の最適化やリソースの調整によって無駄を排除し、艦隊全体の継戦能力の向上を目指して最大限に活用するものだ。


「主砲、APPI弾、秒間8秒に設定。攻撃始め。」


前甲板の“艦載127mm単装速射電磁加速砲”は電力を蓄え、甲高いモスキート音を放っている。


「キャパシタ充電良し。主砲撃ちー方はじめ」


導電軌道に12MJの電力が放出される。


127mm一体型非火薬弾体は、電磁加速によって初速2,200m/s以上の速さで、砲身の淡い発光に見送られながら空の彼方へとはじき出される。


砲身は創作物のように常に光を帯びているわけではなく、薬莢も出ない。発砲を示すのは、一瞬の閃光と乾いた射撃音だけだ。


その地味な攻撃に相反し、威力は絶大である。


「トラックナンバー4001から4027、撃墜」


約4分の間に8秒の間隔で打ち出された32発で、27機を撃墜した。


この砲のドラムには、29発を即応弾として装填可能だ。これは、4.8秒という最速の秒間で射撃した場合、29発で冷却が必要となることに合わせたものだ。


そして秒間を二倍の8秒に設定すれば最大で30~36発を射撃可能である。ドラムには射撃中にも常時、自動装填システムから予備弾が給弾されている。


自動装填システムへの予備弾の給弾は人力であるが、射撃秒間を最速の4.8秒ではなく8秒に設定しているならば、特にヒューマンエラーも心配する必要はない。


「目標群さらに近接する、距離14マイル!」


目標が26kmまで接近したところで、3分間の射撃を経た“ミサイル駆逐艦はるかぜ”は砲身の冷却に入った。あと10分強は射撃が不可能だ。


しかし、臆することはない。


およそ80ある対空目標が、主砲がレールガンではない他艦の主砲有効射程である約25kmに達するまでに、27機を1艦で撃墜したのだ。近接する目標群の残敵およそ50機は、他4隻に任せればいい。


「主砲冷却入ります!」


「目標群、にっしん、あかつき、すずや3艦の主砲有効射程に進入。攻撃始まります。」


「よし、主砲うち方止め。」


「主砲うちー方止め。」


“ミサイル駆逐艦はるかぜ”は艦隊防空における役目を全うし、自艦防衛に移行して攻撃に備える。


残る対空目標は、南からまっすぐ近接する目標群のおよそ50機及び、母艦撃沈によって遊軍化した、付近空域を漂う18機。約70機。

__________


「主砲うちー方はじめ」


「主砲、うちー方はじめ!」


“ミサイル駆逐艦あかつき”は、自艦の主砲有効射程に進入した敵航空戦力に対する、近接防空を開始する。


一分間に5発、他艦合わせて20発が発射されている。


「トラックナンバー4050から4068撃墜!」


撃墜数はおおむね一分間に15~16機。次々と脅威が排除されていく。射撃開始から3分足らずで、目標は17機に減っていた。


「目標群さらに近接、6マイル!」


「シースパロー、CIWS、攻撃はじめ!」


目前の目標に対しては、FCからの指示ではなくその艦のCIC指示が優先される。“ミサイル駆逐艦あかつき”が発射したESSM3発は、眼前の5機に突進した。


「目標サーバイブ!!!!!」


あと2機。


「CIWSで落とせ!」


「トラックナンバー4077撃墜!!!」


あと1機

__________


【新生歴1948年 9月13日 夜|西ナマール海上】


何機が落とされたのか、見当もつかない。60か70か、いいやもっとだろうか。混線した無線から聞こえるのは断末魔だけだ。


『落ちる!落ちッ』


『ジョーンズ付かれてるぞ!』


『隊長ぉぉぉぉ!!!』


操縦桿を握る手が力む。


なぜこうなったのか。レンツ帝国は列強国だ、帝国海軍は列強軍だ。それをフリトの衛星国ごときに、なぜ味方がこうもやすやすと一方的に嬲り殺されていくのか。


『隊長!雷撃隊は全滅です!あぁ!』


すぐ左右にいた僚機も、たった今ロケット弾で爆散した。


今度は自分の番か、どうせ死ぬなら一泡吹かせてやる。


「クッソぉぉぉ!絶対に!絶対に沈める!!!」


4マイル、


3マイル、


爆弾は落とさない。離脱行動は取らない。


ただまっすぐに、敵艦を見据える。


「我らが帝国に!!!帝国海軍に!栄こ-----」

___________


【西暦2042年 9月13日 夜|西太平洋上 小笠原諸島より北北東390km地点】


「一機突っ込んでくる!!!」


「総員衝撃に備え!!!!!!!!!」


トラックナンバー4078は、“ミサイル駆逐艦あかつき”の後甲板、艦尾に吸い込まれるように落ちていった。


衝撃は艦を歪め、抉り、燃やす。上下左右に激しく揺られた艦は、乗員を無遠慮に振る。


しばらくして衝撃が収まると、艦は再起不能なまでの損傷を受けていた。


「後部上甲板火災発生!」


「舵故障!応急操舵配置つけ!」


これまでに無いほどの混乱がもたらされている。


「特攻だとっ!バカな事を!!!」


艦長はそうつぶやくや否や、振り絞った拳を肘掛に落とす。


艦の損傷、部下の負傷は勿論であるが、彼は敵に対して猛烈な憎悪と哀れみを抱いた。100年前の日本が、人間という種が犯した、生命への冒涜を思う。


どうも、お久しぶりです。[虎石双葉_こせきふたば]です。


前回の投稿で、複数のコメントをいただきました。本当に感謝です。


コメントはすべて返信するようにしています。ちょっと時間経ってからになってしまうかもしれませんが、、、(ごめんなさい)


いつも読んでくださってありがとうございますm(_ _"m)

これからも投稿していきたいと思いますのでよろしくお願いします!


次話投稿予定は追ってお知らせします


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― 新着の感想 ―
Close-in weapon system、なのでSIWSではなくてCIWSではないかなと。 漫画ジパングでもそうでしたが残弾気にして全力迎撃を怠って結果特攻なりの大損害を被るというのは見てて歯がゆ…
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