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第十九話・小笠原沖海戦-4

【新生歴1948年 9月13日 夕方|西ナマール海上】


「ロンブルムより入電。『ロケット弾による攻撃を受けり。方位、我が方より10°から22°。距離不明。』」


ナマール海艦隊分隊は、別動隊として分離した戦艦2隻、航空母艦2隻、巡洋艦1隻、駆逐艦4隻からなる9隻の艦隊だった。


「近くにいる。対空対水上警戒を厳に、」


これまで日本からは、認知圏外からの誘導ロケット弾による攻撃を繰り返し受け、一方的な被害を被っていた。


そこで艦隊を二分し、索敵範囲を広げようとしたのが今回の考えであった。


日本のロケット弾の性能を計りかねていたが、今回の本隊による攻撃で航空母艦を標的としなかったことから、万能では無いのだろう。撃てる弾数もそう多くはないはずだ。


「サンミュールの艦載機を上げて全力で探す。」


通常、索敵における艦載機の同時展開は全体の20%前後だ。


「サンミュールから22機、ダラップから19機を上げます。」


航空母艦サンミュールからは、偵察機を10機に戦闘機を12機。


航空母艦ダラップからは、偵察機を12機、戦闘機を4機、攻撃機を3機。


これはサンミュールとダラップを合わせた、艦載機数186機のうち41機だ。


「本隊を襲ったロケット弾は真方位で10°から15°の北から飛来したとのことですから‐--」


航海長が指をさすのは、これまでの事象がチャコペンで書き込まれた海図だった。


挿絵(By みてみん)


間をとって真方位12.5°と仮定する。本隊とこの別動隊の相対位置から考えて、あと230km程でロケット弾が飛翔した軸線上に到達すると考えられる。


「しかし、日本のロケット弾は目標に誘導しての精密攻撃が可能です。発射点から目標地点まで直進したとも限りません」


このように艦長の副官が言った通り、日本のロケット弾は目標に向けて誘導が可能なのだ。であれば発射点から直進せずに目標へ向かうよう設定することも可能かもしれない。


「だとすれば我々にはどうすることもできん。直進してきたと信じて軸線上を探す他無い。」

__________


【西暦2042年 9月13日 夜|西太平洋上 小笠原諸島より北北東390km地点】


第一国防艦隊は西に転針し、左舷の200㎞先に展開するレンツ艦隊を注視していた。


そんな時、


「対空目標探知、1-8-0度、120マイル(222km)、機数3、向かってくる」


真後ろから向かってくる対空目標を探知した。レーダ上で3つは、規則正しい相対位置を維持してまっすぐ移動している。


「レンツの艦載機か?なぜこんなところにいるんだ?」


「まさか別動隊でしょうか、」


“正規航空母艦すずか”のCDCに動揺が広がる。


「司令、当隊の位置の特定を企図しているものと思われます。」


第一国防艦隊の艦隊司令長官はすぐに指示を出した。


「直ちに撃墜しろ。」


「新たな対空目標、2-1-0度、118マイル(216km)、機数2、当隊左舷を通過する。」


同時に新しい対空目標群が確認され、それぞれ直進する対空目標の2個群を捉えた。こうなればできることがある。


「発艦地点を推定しろ」


航空母艦から複数機が発艦し、各機がそれぞれ異なる方向へ直線的に飛行する放射状索敵であれば、航空母艦の大まかな位置は特定できる。


2個群の対空目標の針路を地図上で半直線に起こせば、その交差点が発艦地点、つまり航空母艦の位置だ。航空母艦単独での行動はあり得ないので、それは必然的に別動隊となる。

__________


“正規航空母艦すずか”にて、艦隊司令が指示を出している間にも、補足した対空目標に対する攻撃は進んでいた。


「発射はじめ!」


「発射!」


“ミサイル巡洋艦にっしん”の前甲板に計48セルある、MK.57 VLS/噴進弾垂直発射システム。これが5本の火柱を噴き上げた。


発射された誘導弾、SM-6 1Bは煙を吐きながら垂直に上昇すると、2つと3つに分かれ、艦後方に飛翔していった。


レーダー上に表示される5つのアイコンは、他のどのアイコンよりも高速で移動し、吸い込まれるようにunknownへ直進する。


「インターセプト5秒前、4、3、2、1。ロストコンタクト」


目標群αとβに到達したSM-6 1Bが計5発は、目標群と共にレーダー上での反応を失った。しかしレーダに反応しなくなっただけで、これを撃墜と断定することはできない。


「引き続き対空警戒を厳に」

__________


【新生歴1948年 9月13日 夜|西ナマール海上】


艦載機を上げて本格的な海域での索敵を開始してすぐ、予想していたことが起きる。


「艦長!哨戒に上がった隊が通信をロストしました!」


「絶対に日本だ!どこだ?」


「目の前です!当隊より30マイル(56km)前方です!」


56㎞という、目と鼻の先。航空母艦サンミュールの艦長は確信する。日本の艦だと。


「発艦だ、即時待機中の艦載機全機発艦だ!」

__________


どこまでも飲み込まれてしまいそうな、漆黒に染まる夜の海の上。厚い雲が遮って、月明かりすらも届かない深青の空間を飛ぶ航空機がいた。


那覇空軍基地を発った、国防空軍西南方面航空団第一飛行群第602飛行隊の ”E-4早期警戒管制機” だ。


運用分類上では「早期警戒管制機、誘導制御機」と二つの肩書を持つこの機は、全長8メートルを超える大型のドローンを2機連れて小笠原諸島へと向かっていた。


『水上目標探知。340度、310マイル(574km)。数1から3。』


『国海か?』


『IFF応答、デコードします。えぇ、、、[JPN / JMDF(日本国国防海軍), LNAC‐61 (正規航空母艦)| SUZUKA(すずか), COMBAT(武器使用中)]です。』


『第一国防艦隊だ。すぐに無線で知らせろ、たぶん軍艦の水上レーダーじゃギリ探知圏外だ。この天気だしな』

__________


【西暦2042年 9月13日 夜|西太平洋上 小笠原諸島より北北東390km地点】


“正規航空母艦すずか”のCDC。艦隊司令以下第一国防艦隊司令部の参謀たちは、レンツ艦隊の動向について話し合っていた。


「先頃にっしんが攻撃した対空目標、αとβが直進していたと仮定して、進路を半直線に直した場合、レンツ艦隊の別動隊は当隊の後方、250㎞から260㎞ほどです。」


「近いな。」


「にっしんがV-batを上げましたが、あまり頼りにはなりませんね」


V‐batとは、垂直離離着陸型の無人機だ。武装は無く、観測装置もカメラ程度しか備えていない。


「501を上げるか」


艦隊司令が、第501戦闘飛行隊F−35Bステルス戦闘機9機の発艦を考える。すると、また新しい対空目標を探知する。


「対空目標探知、3-1-5度、機数3、IFF応答。国防空軍のAWACSです。」


「E₋4警戒機より入電。『こちら国防空軍のE-4早期警戒機、オメガ3。小笠原沖北東227マイル(420km)地点を西進中の第一国防艦隊へ。当機は小笠原沖北西146マイル(270km)地点を高度32,000で北東に向け飛行中です。』」


「こちら第一国防艦隊すずか。貴機の位置を確認した。」


概ね400㎞離れた位置で、互いを発見する第一国防艦隊とE‐4早期警戒機であったが、状況は芳しくない。


「『所属不明の水上目標を2個群探知した。そのうち一つを貴艦の後方135マイル(250km)で発見している。空母を含む水上艦艇部隊と推定。航空機と思われる飛翔目標も発見している。レンツ海軍のものと思われる。』」


想定はしていたが、やはり250㎞とかなり近い位置まで近づかれてしまっていた。


しかし、探知できればこちらのものだ。


「当隊後方を占位するレンツ艦隊に対し、敵の航空機展開能力の喪失を目的としたミサイル戦を実施する。艦隊、対水上戦闘用意!」

__________


“正規航空母艦すずか”の艦隊統合指揮システムが“ミサイル巡洋艦すずや”に発射を割り振ったのは、1発の49式艦対艦誘導弾だった。


「E-4が敵艦隊を発見した。これよりE-4からの情報に基づき、敵航空母艦の撃沈を企図した対水上戦闘を実施する。対水上戦闘用意。」


「対水上戦闘用意よし!」


「対水上戦闘、FC指示の目標。発射弾数、49SSM2発。攻撃はじめ!」


「49SSM、発射弾数2発。発射用意よし!」


「発射!」


「打てー!」


艦内に鳴り響くアラームを後目に、墳進弾垂直発射システムから2本の矢が飛び出す。厚い雲の中へ躊躇なく突き進んだ4発は、程なくして目視圏外を離脱した。


自艦、そして他艦のレーダ情報に加え、“E-4早期警戒管制機”からの情報が統合されたレーダ画面には、飛び出した2発と他2艦が撃ち出した2発、計4発がしっかりと表示されている。


4発は第一国防艦隊のレーダでは探知できない135nm(250km)先の目標へまっすぐ飛翔する。


「インターセプト600秒」


亜音速で飛翔する誘導弾は、250㎞先の目標に到達するまでに約10分を要する。上空から発見した、航空母艦の可能性のある大きなレーダー波は4つ。各艦1発~2発ずつを打ち、弾着の報告を待つ。


緊張感で満ちる艦隊は、波一つ立たない水面のように、静かにその時を待っていた。しかし、その水面に突如石が投げ込まれた。特段に大きな石が。


『オメガ3よりすずか、レンツ艦隊と目される水上目標より多数の対空目標を検出。航空戦力の可能性大きい。数20から30、尚も増勢。』


直後、レーダ画面にも大量の対空目標が表示される。組織だったその動きが、偽像でないことを示していた。

__________


敵大編隊の発見は、第一国防艦隊に“ミサイル温存”という考えを捨てさせるに十分だった。


「打ち尽くしても構わん、一機も近づけるな!対空戦闘用意!」


「司令、対空目標148、空母2隻分の規模です、、、」


第一国防艦隊の墳進弾垂直(V)発射(L)システム(S)は、合計でちょうど300セルある。一隻で104セルと、搭載弾数が特に多い“つくば型”と“すずや型”がいたのが幸いだが、当然ながらすべてに対空誘導弾が収められているわけではない。


現代艦は対潜、対空、対水上、対弾道弾と多岐にわたる事態への対処を想定している。対空に最もリソースを割くのは、どの艦種でも同じであるが、それでも全体の6割前後にとどまる。


この時、第一国防艦隊は全300セルの7割に及ぶ、中・長距離を合わせた計222発の対空誘導弾を有していた。このうち、すでに5発を使用している。

大変にお久しぶりです。[虎石_こせき]です。


次話も近いうちに投稿します。

もうちょっと待ってね、

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