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第十八話:後編・小笠原沖海戦‐3

【西暦2042年 9月13日 夕方|西太平洋上 小笠原諸島より北北東400km地点】


第一国防艦隊に、対艦戦闘用意が令される。


「全艦、対水上戦闘用意」


「対水上戦闘よーい!」


“正規航空母艦すずか”より発せられた号令は、他4隻にも伝わり、艦隊全体が水上目標に対する攻撃への準備を始めた。

__________


「対水上戦闘用意」


旗艦である ”正規航空母艦すずか” からの指示を受け、”ミサイル巡洋艦すずや” の戦闘指揮所では、対水上戦闘が始まろうとしていた。


「対水上戦闘、用意よし!」


すぐに返された準備完了の報告を受け、艦長は続ける。


「対水上戦闘、FC指示の目標。49SSM、発射弾数1発、攻撃はじめ」


「49SSM一発、発射用意よし!」


「49SSM、攻撃はじめ。」


艦長から攻撃行為の許可が降りても、砲雷長は続く号令を出さずにいた。視線は自身の腕時計に落ちている。


FC、つまり艦隊指揮所からは、1736時に全艦一斉の射撃が指示されていた。あと50秒だ。


各艦1発づつ、計4発の射撃でレーダー上の4隻を狙う。


通常、目標に対して発射弾数が同数とはありえない事であるが、今回は誘導弾の発射を極力抑えて且つ、敵航空母艦の発着艦能力を一時的でも奪う事が目的だった。


レーダーで正確に捕捉ができず、航空機による探知もできないという、満足に誘導弾が打てぬこの状況下では、そもそも攻撃に踏み切るべきではない。


しかし小笠原諸島への関心をそらし、地上への被害を防ぐことを最優先とした判断であった。


「発射はじめ!」


砲雷長の力強い発声が戦闘指揮所に響くと、攻撃要員が復唱して、発射ボタンが押される。


「49SSM発射はじめ!」


49式艦対艦誘導弾が1発、”ミサイル巡洋艦かすが”から飛び出す。同時に、”正規航空母艦すずか” を囲む他3隻からも、1発づつ誘導弾が飛び出した。


4発の矢は、慣性誘導で目標地点へと向かう。

__________


【新生歴1948年 9月13日 夕方|西ナマール海上】


「レイモンにぶつからないよう気をつけろよ」


荒れた海の上、波に揺られる艦は上下左右に激しく揺れている。甲板には雨が打ち付け、救助活動は困難を極めた。


「落ちたのはこの辺だな」


レンツ帝国海軍ナマール海艦隊の本隊は、輪形陣で日本国を目指し南進していた。そんな時、輪形陣の中心で空母の甲板から一機の艦載機が脱落したのだ。


「しかし、この天候でよく残りの三機は着艦しましたね。」


「これで発艦までしようとしてたんだからな。凄まじいよ、」


陣の右後方を守備位置としていた巡洋艦プエリスは、駆逐艦レイモンと共に脱落した艦載機の乗員救助に当たっている。


「もっと左の方照らして探せ」


「はい」


艦長の一言で、艦に設置されたサーチライトは左前方に集まる。厳密には、まだ救助活動ではなく捜索活動であるが。


「こりゃ時間かかりそうだな。」


艦長が長期戦を覚悟してぼそりとつぶやいた。


「レイモンより発行信号!」


「『我、艦載機と思われる漂流物を視認。ライトで指示する。確認されたい』」


駆逐艦レイモンは、サーチライトで巡洋艦プエリスから40メートルほど離れた場所を集中的に照らしていた。


「漂流物視認」


だがまだ艦載機かどうかはわからない。


「両舷微速、ゆっくり近づけ。近くにいるかもしれん。轢き殺さないように気をつけろ」


「はい」


海は荒れていて漂流物は常に動いており、波が上下して見え隠れを繰り返している。残骸よりも小さな乗員1名はもっと発見しづらかった。


「艦長、レイモンは漂流物に接近して機体を確認するそうです。」


「じゃあ俺たちは辺りを重点的に探すか」


駆逐艦レイモンと巡洋艦プエリスは、漂流物を挟んで90メートルまで近づいていた。


↓ナマール海艦隊本隊 輪形陣の図

挿絵(By みてみん)


↓救助活動に伴う隊形変更

挿絵(By みてみん)

※黒=戦艦。赤=空母。青=巡洋艦。紫=駆逐艦。


__________


「艦隊司令、このままでは危険です。転針して嵐を抜けましょう」


艦隊の中心、戦艦ロンブルムの艦橋では艦隊の頭脳たちが頭を抱えていた。このまま陸地と思しき地点を目指すのか、嵐を抜けるために転針するか。


「救助活動はレイモンとプエリスに任せて東に向かうべきです。分離した別動隊と合流して、東進の後、嵐を抜けてから西に向かいましょう。」


本来であれば救助活動は艦載機が脱落した航空母艦コルフォースェアが行うべきだ。しかし、この天候では内火艇は降ろせないし、小回りの利かない巨艦では接触の危険があった。


「一旦針路を変えるか。」


本来、船舶において嵐の中を行くというのは自殺行為だ。これは海上軍事機構の艦艇であっても同じ事である。特別の理由が無い限り、嵐に対しては入る前に避けるというのが船乗りとしての常識だ。


「次の定時連絡で別動隊に転針と合流の旨を伝える。ここはフリトの勢力圏内だからな、東進するなら合流した方がいい。」


この海域に接する沿岸とは、アドレヌ大陸の東海岸だ。ここには世界一の規模を誇るフリト帝政国の海軍基地、オールシャンロスがある。


と艦長が指示した時だった。


「艦長、プエリスが乗員を発見したそうです!」


「本当か!」


一同は安堵に表情をほころばせる。


「どこにいた?」


「機体の残骸から100メートルほど東で、浮いているのを発見したそうです。現在、救助に向かっているとのことです」


駆逐艦レイモンが漂流物に接近し、艦載機であることを確認したが、コックピットに人はいなかった。巡洋艦プエリスは同時に、機体の残骸と駆逐艦レイモンを左舷にして、周辺を捜索していたそうだ。


そんな時、巡洋艦プエリスが右舷側十数メートルで新たな漂流物を発見した。目を凝らせば乗員だったというわけだ。


「終わったら、東に向かう。残りの上空待機も着艦させなきゃいかん」


緊張感がほぐれたのもつかの間、恐れていた報告が叫ばれる。


「本艦110°の空、発光を確認!ロケット弾です!!!」


きっと日本の誘導式ロケット弾攻撃だ。艦隊司令の切り替えは早かった。


「迎撃しろ!!!」


外に視線を向ければ、対空砲が動くよりも前に、雨雲の中から4つの光が落ちてくる。


隕石を思わせるそれらは、見た限り4つ。


迎撃など間に合うはずもなく、戦艦バルファロムに、駆逐艦レイモンに、巡洋艦プエリスに落ちる。


海も空も艦も灰色一色の世界に、オレンジ色の花が咲いた。


「司令、伏せてください!!!」


その矢は座乗する戦艦ロンブルムにも刺さる。


艦が激しく振動し、鉄がきしみ、窓がガタガタと音を立てる。

__________


第一国防艦隊が発射した4つの49式艦対艦誘導弾は、慣性誘導で事前に設定された地点に到達し、誘導方式が切り替わる。


シーカー部のアクティブレーダーが捉えた目標群には、ひときわ大きな4つの反応があった。事前にインプットされた目標α、β、γ、δだ。


4発はそれぞれ目標を定めようとする。しかし突然、γが二つに分裂した。


眼中の目標は5つ。


4発中の2発は、分裂したγ-1とγ-2をロックする。


ちょっと無理やりな感じになってしまいましたが、「スタンドオフ攻撃で無双」よりは面白いかなぁと思います。


*読んでいてわかりにくいと思ったので解説

1.脱落した艦載機救助のため陣形を乱す。この過程で救助にあたる駆逐艦と巡洋艦が接近。

2.第一国海は、レーダー上で接近していた巡洋艦駆逐艦を一隻と誤認し、これを含む(空母又は戦艦と思しき)大型艦艇4隻にミサイル攻撃。

3.救助を終えて駆逐艦と巡洋艦が離れる。

4.ミサイル4発のうち、2発は戦艦に当たるが、目標4が分裂したため、空母を狙った1発が対応しようと目標4-2へ、元々目標4を狙っていたミサイルは目標4-1へ。

5.大型艦艇4隻と判断された5隻のうち、空母だけが無傷で残る。


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