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第五話・外交関係樹立


【西暦2040年 6月28日 昼前|フリト帝政国ロムルド州沿岸部 オール・シャンロス海軍基地 参謀会議室】


「我が国日本は、貴国より南東へ進んだ場所に位置する島国で、多民族から成る民主主義国家です。


現在の人口は1億700万人で、国内総生産は我が国の通貨である “円” では650兆となります。この世界とレートが同じかどうかはわかりませんが、我々の基準では金で例えると約5000万トンとなります。まぁこのあたりは、実際に視察団の方々に日本を見てもらう方が早いでしょう」


さっきからポンポンと出てくる数字の桁に対し、驚きを隠せない者も居ればその真偽を疑う者など、様々な反応だ。どちらかといえば後者の方が多いだろうか。


その後は基幹産業である精機類や工業に関する紹介であったり、先端技術に関する紹介が行われた。


「ご紹介できなかった分野等々ありますが、我が国にて実物をみてもらいたく、時間の都合もあり今回は簡単な紹介に留めてさせてもらいました」


技術力や基本的な国家概要を中心とした今回のプレゼンでは、軍事力に関する説明は大きく省かれた。


日本国は現在、既知の国家と物理的に関係が絶たれたことで武器輸入が不可能となり、また国内でライセンス生産が可能なものでも原材料の輸入が途絶え生産が困難となっている。


国防軍が使える武器弾薬というのは、現在保有しているものに限られるのだ。そのため日本国政府と国防省は、国防軍の継戦能力を知られたくないと考えている。


「いやぁ、貴国は素晴らしい国のようだ。視察団の派遣に関しては前向きな検討をお約束しましょう」


とは言っているものの、実はフリト帝政国の日本国視察団はこの会談より以前から人員の選定が始まっており、既に着々と準備が進められているというのはここだけの話だ。


「しかし、貴国を疑うわけではありませんが、一つお聞きしてもよろしいですか?」


プレゼンが一通り終わって質問の時間に入った時、ついに日本国側が恐れていた質問が飛びかかってくる。


「ここまでの力をもつ国が今まで、なぜ姿を見せなかったのか、何か理由がお有りですか?」


"日本国転移等一連の特異的不明事案(通称:日本特事)" は日本人にも受け入れられないという者も多く、政府職員ですら未だ信じられないと言う者も少なくない。そんなものを当事者ではない第三者に説明するのは至難だ。


「それが、まだ我々にも原因がわかっていないのですが、実を申しますと我が国は突如この惑星に国土ごと移動してきてしまったのです」


馬鹿げた話であるが、これ以外に説明のしようがない。鎖国していたなどという嘘で誤魔化しや時間稼ぎが効く段階ではもうないのだ。


フリト帝政国側の外交団も、この説明を聞いてあっけらかんとしている。事前に書簡にて簡単な説明は済ませていたとはいえ、改めて国家を代表する外交団の団長の口から、このような荒唐無稽な話が出て混乱しない方がおかしいのだ。


「なんども言いますが、貴国を疑っているわけではないのです。ですが、やはりそんな話を信じろと言われても…」


「我々も立場が逆であればそうなるでしょう。ですが我々もこれ以上に説明のしようがなく、困り果てているのです。もちろんこの説明で信じろというのも難しいでしょう…」


やはりフリト帝政国側の外交団も困り果てている。そこで森本 外交官は間髪を入れず、続け様に語りかける。


「なので我々は “そのための視察団派遣のお願いと、それに向けた今回の外交関係樹立の会談“ であると考えています」


やはり日本国の成り行きについての説明には納得はできていない様子だ。だがフリト帝政国は視察団の派遣に関しては表向きにも奥向きにも、前向きな考えを示しているのは事実だった。


「わかりました。あなたの話を信じましょう」


理解、と言って良いのかはわからないが少なくとも認めてはくれたようだ。


「では次に我が国、帝政国の説明をいたしましょう。事前に書簡にてご要望いただいた現在の国際情勢等に関しては、後ほど書類を配布いたしますのでそちらをご覧ください。ご質問などあればその都度お答えいたします」


そう話し自国の紹介を始めるのは勿論、フィードラー対日本国外交政策専任外交官だ。


「改めまして、我が国フリト帝政国はここ、アドレヌ大陸に位置する国で人口9000万人を有し、世襲性の皇帝陛下を中心に置いた立憲君主制を採っている国です。近年は国際貿易の要所として著しい経済発展を遂げ、現在国力軍備共に大陸を代表する大国へと成長しました。我が国は造船業や鉄鋼業などの重工業を基幹産業としており、国際貿易も盛んで我が国で生産された鉄鋼は現在世界で38%のシェアを誇っております」


ちなみに地球での粗鋼生産量は、鉄鋼業における世界シェア1位の中華人民共和国が約52.9%(※2022年初稿時)である。


「我が国は大陸でも一番の国土を有し、内地ではその広大な土地を活用した農業や軽工業によって食料自給率も69%という数字を出しております」


フリト帝政国では、著しい経済発展に伴い人口も増大し、それまでの生産体制では国内の食料需要を賄いきれなかったそうだ。国際情勢も不安定で輸入先を見つけられても継続して供給できる確証が得られなかった。


そのため、今まで経済発展による恩恵を全て基幹産業である重工業を中心に考えていた国政を一変し、農業や軽工業にも均等に力を入れ始めたそうだ。


他にも、フリト帝政国側からは文化や歴史、そして日本国側が省いた軍事といった幅広い分野の紹介が簡単に行われた。


「では最後に外交関係の樹立に関しては双方共に異論無しと言うことで構いませんね?」


この日、日本国はフリト帝政国と "日本フリト両国間における外交窓口の設置及び両国駐在連絡員の処遇に関する取り決め" へ双方合意の上で署名を行い、正式に外交関係の樹立がされた。


フリト帝政国では同日の午後6時に国営テレビにて、日本国は同日の午後9時から行われた内閣官房長官による緊急記者会見にてそれぞれ国民に周知されたのであった。

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