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日本国の指針〜第五世界との接触  作者: 虎石双葉_こせきふたば
第五章・戦争の序章

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第十六話・食料・エネルギー安全保障政策に関する関係閣僚会議

【新生歴1948年 9月8日 夜|レンツ帝国ヨルド諸島 ヨルド海軍基地】


本国とは+6時間の時差がある、ナマール海のレンツ海外領土。ナマール海における活動拠点であると同時に、アドレヌ大陸やユト大陸に続く航路の中継地でもある。


そんなレンツ帝国の重要拠点であるヨルド諸島には、レンツ帝国の海軍基地があった。


ヨルド海軍基地とその周辺に居並ぶのは、海上軍事機構の花形である戦艦や航空母艦は勿論、駆逐艦、巡洋艦、航空巡洋艦など全46隻だ。ヨルド海軍基地の泊地容量である最大96隻の48%にあたる。


そして、それら艦艇の約半数が、たった今西を目指して抜錨している。


出航する艦艇を麾下とする艦隊とは、新編されたばかりの新設部隊、レンツ帝国海軍ナマール海艦隊である。


「艦隊司令、入られます!」


ナマール海艦隊の旗艦である、ロンブルム級戦艦のネームシップ、1番艦のロンブルム。その艦橋では、出航の準備完了を告げる報告が着々と集積していく。


「進んでるな?」


「はい、問題ありません。予定より早いくらいです」


麾下とする中で、今回の任務で従える第68巡洋戦隊、第69巡洋戦隊、第19駆逐戦隊、第27駆逐戦隊らは、残りの基幹部隊の出港を待って沖で待機中だ。


「では我々も出よう。」

__________


【西暦2042年 9月13日 夕方|日本国旧首都圏政府直轄開発地政令指定特別区域 首相官邸】


「食料と、エネルギーの安定供給。これは早急に解決すべき最も重要な課題です。フリト帝政国一国のみに頼る現状は安全保障上の重大な懸念であり、いち早くこれを脱却する必要があります。フリト帝政国との連携強化はもとより、すでに国交を樹立したペントゴールやマカルメニアをはじめ、より広範な外交交渉を行い、食料とエネルギーの分野における安定化を目指す政策パッケージを議論するものであります。」


首相官邸北棟2階にある多目的会議室で、関係閣僚会議が開催されていた。


集まった閣僚は以下の通りだ。


・石橋 内閣総理大

・内堀 内閣官房長官

・赤城 外務大臣

・大蔵 財務大臣

・陣野 厚生労働大臣

・高橋 農林水産大臣

・山下 経済産業大臣

・朝比奈 国防大臣


5分程前から始まった関係閣僚会議は題して、「食料・エネルギー安全保障政策に関する関係閣僚会議」である。


「では報道陣の皆様はご退出ください」


食料とエネルギーの両分野における現状の自給率やフリト帝政国との貿易について話した冒頭公開が終わり、ようやく本題が始まった。


「では改めて、えぇフリト帝政国から通達のあった、約168万件、全317項目の物品の貿易停止に関しての議論を行います。」


閣僚らの顔は暗い。ようやく活路を見出した国家運営に、戦争という火の粉が降りかかる最中の輸入停止は、彼らを絶望の只中へ追いやった。


以前から経済状況の悪化と情勢の混迷を理由に、日本とレンツの紛争への介入に断りを入れてきたフリト帝政国だが、ここに来てついに大部分での支援停止を通知した。


山下 経済産業大臣は言う。


「はい、今年四月末からの約4か月間で、フリトより我が国が輸入した全品目の総量は約1億4,857万トンに上ります。まずこのうちの64%、9,510万トンにあたるエネルギー分野についてです。


我が国の輸入におけるエネルギー関連品目は日本特事直前の2039年で年間4億3000万トンであります。これは単純計算で1か月3,584万トン、4か月間で1億4,300万トンとなりますので、この時点ですでに例年の33.5%が供給できていない事になります。---」


しかも、輸入ができていた品目とは、大分類での原油と石炭のみだ。天然ガスについては一切の輸入が行えていなかった。


これに最も打撃を受けたのが一般家庭だった。


2039年と比較すると、一般的な家庭でのガス料金は、3人家族で1ヶ月11,640円から28,990円と急激に上昇している。政府が管理する備蓄が尽きようとしている来年度初めに向け、現在も上昇中である。


電力に関しては、国府田 前政権で原子力発電所の再稼働を強行に推し進めたため、ガス程の上昇には至っていない。


「---品目別に見ますと、原油についても2039年同期間の半分程度の供給量にとどまっています。---」


2039年の年間約1億8,000万トン、4か月で約6,000万トンに対して、この4か月間の輸入量は3,350万トンである。そしてこの7割が、精油の際に重油やアスファルトを生み出す重質原油に対して、軽油やガソリンの精製に有利な軽質原油であった。


良い点と言えば、国民生活に直接的な影響を与えるガソリンや軽油を、より多く精製できるという部分で、国民感情に好印象を与えたことだろうか。


「---しかし、最も問題なのが希少鉱物類、特にレアアースです。この世界ではまだレアアースの重要性が低く、商業用として本格的な採掘に着手している国がありません。レアメタルに関しても、我が国へ大規模に輸出できるほどの余剰を持つ国は無いと考えられます。」


スマートフォンにPC、家電や自動車、人工衛星に至るまで、ありとあらゆる電子機器に無くてはならないのが半導体だ。そして、現代の高性能な電子機器に要される半導体には、レアアースが必須となる。


この世界の技術力は、地球史での1940年末期に相当する。地球で商業化に向けたレアアースの本格的な採掘がはじまったのは、1950年から1960年にかけてだ。


地球でレアアースの世界シェア1位を占めていた中華人民共和国ですら、商業用の本格的な採掘がはじまったのは、鉱脈が発見されてから半世紀経った1980年代に入ってからである。


日本国内にもレアアース鉱床は存在するが、


「以前から申し上げています通り、我が国での採掘は不可能となりました。各国の商業化を待って、まだ需要の少ない黎明期の内に投資する方が現実的です。」


日本のそれでは、今まで採掘コストに利益が見合わないとして、研究目的での採掘しかされてこなかった。それが一変、日本特事で入手手段がそこ以外に無く、利益を度外視しての商業化に向けて本格的に動き出したその矢先である。


「沖ノ鳥島の開発拠点が残っていればね、、、」


石橋 内閣総理大臣は、閣僚全員の考えを代弁する。


最も輸入量が多いエネルギー分野でこの状況だ。事態の深刻さを十分に実感させられるが、まだ食糧と工業用原材料という大きな項目が2つも残っている。


食糧の方は、前述のエネルギー関連以上に重点を置いているため、官民合わせてカロリーベース10か月分にもなる備蓄が存在する。その6割以上は麦類であるが、それでもつなぎとしては十分だ。


問題は工業用原材料だった。燃料ですら満足に手に入らない中で、原材料など十分に確保できるはずがなかった。


その後も輸入品についての報告は続いた。


「フリト帝政国からの輸入は今年11月から段階的に停止し、来年4月に原油を除くほとんどの品目が停止します。現在、ペンゴとセリトリム、マカルメニアなどと調整を進めていますが、最も早いと思われるペンゴでも早くて1年はかかると予想されます。」


ペント・ゴール帝国やマカルメニア民主国とは、すでに国交を樹立しているが、最も近い距離にあるセリトリム聖悠連合皇国とは公的な交流はまだ行われていない。


「セリトリムとの国交樹立は来年中を目指し調整中です。」


とはいってもそう難しいものではない。


セリトリム政府とは、非公式ながら何度も接触を果たしてる。あとは議会で日本との国交樹立を議決してもらうだけだ。


政府に対する印象付けは、非常に良いものを与えられている。


「現在の状況であれば、ペントゴール帝国との貿易も来年度中に始められると考えられます。」


ロムアの存在とは、東進航路に多大な影響を与えるものだった。


そしてそのロムアは今、日本の攻撃でレンツ帝国の軍隊が壊滅したことで、陸ではフリト帝政国が、海ではセリトリム聖悠連合皇国がその影響力を掌握した。


効率は悪いものの、あとは貿易船を護衛船団方式で護衛すれば、この海域での安全を完全に保証できる体制が整ったのだ。


「しかし、これによってレンツからの強い反発が予想されます。」


これまでの日本とレンツの戦いは、ミサイル巡洋艦かすがを自沈した沖ノ鳥島沖海戦だけであった。


この時点では、局地的な小規模の戦闘で圧倒的な勝利を重ね、レンツ帝国側の全体の損害が、勝利を目指さなければならないものになる直前に、最良のタイミングで講和を提案するというものであった。


ここでの損害とは、艦艇などといった物理的なものだけでなく、国際社会での影響力や面子も含む。


だが、土壇場で状況が激変してしまった。


「しかし、ロムアを落とさなければペンゴとの貿易は実現しなかった。仕方ない事よ、」


貿易停止が通知されたフリト帝政国との貿易から、ペント・ゴール帝国やセリトリム聖悠連合皇国との貿易へシフトするには、ロムアを攻略するほかなかったのだ。


「総理、ヨルドへの攻撃はどうするつもりですか?」


石橋 内閣総理大臣に代わって、赤城 外務大臣が口を開いた。


「ペンゴからの要請でも、こればかりはできません。これ以上レンツを大きく刺激しては、早期講和は実現できませんよ」


現状、日本はまだ沖ノ鳥島海戦でのミサイル巡洋艦と艦載ヘリコプター、沖ノ鳥島の施設以外に損害は出ていない。


対してレンツ帝国は、海軍の艦艇が5隻以上と、陸軍基地や海軍基地を失っている。


この世界の技術力は地球史での1950年手前だ。現実を見ず強硬な手段で理想を実現しようという感情的な傾向が上意にあって、止めるものがいないまま簡単に下達される組織体制が地球のそれと同じように存在していることを考慮すべきだ。


地球史上では、ある島国が50倍の国力差のある大陸国に対して、それが明らかであったにもかかわらず戦争を行ったことがあるくらいなのだから。


それが軍事国家であり、不幸なことに相手方はこちらをフリト帝政国の属国と思っている節があるならなおさらである。


「ペント・ゴール帝国への技術輸出は、フリト帝政国にしたものと同じもので良いでしょう。必要があれば、段階的に解禁していきます。」


今回の関係閣僚会議で決めたい項目は、ペント・ゴール帝国の要請であるヨルド諸島への直接攻撃を行うか、ペント・ゴール帝国への技術輸出はどの程度のものにするかという2点であった。


「では、ヨルドへの攻撃は行わない事、ペンゴへの技術輸出はフリト帝政国に対するものと同じ項目を段階的に、ということでよろしいですね?」


内堀 内閣官房長官が締めくくる。


関係閣僚会議とは、あくまで決議事項を確認し方針を示すものだ。ここでの決定が効力を持つわけではないので、閣議のような厳格なものではない。


「では今月中の閣議決定に向けて具体的な輸出品目の選定を行います。」

__________


【西暦2042年 9月13日 夕方|日本国栃木県 国防省本庁舎地下2階 統合司令室】


国防軍の総本山、栃木県八千代町の国防省本庁舎。その地階は慌ただしい。


地下2階に広がる、巨大なオペレーションルームは、電話の着信音、紙をめくる音、指示を出す声、様々な音が入り乱れ騒然としている。平時とは大違いだ。


「官邸には?」


部屋の少し高い位置にある、高官用の席へ着くや否や、挨拶もなしに質問を飛ばす。彼はこの部屋の責任者、首相官邸で国防大臣と共に内閣総理大臣を補佐するため不在な、国防総軍統合参謀総長に代わって実際に現場での指揮を行う役職、統合司令室長だ。


「斗座真室長、お疲れ様です。すでに連絡しました。」


答えたのは早期警戒・即応体制構築部の兎岡 弘 部長だった。


「で艦隊の場所は?」


「小笠原諸島の北東230㎞で、時速37キロで西進する艦隊です。戦艦級が少なくとも3隻、20隻から25隻と推定される艦隊です。硫黄島の哨戒機がキャッチしました。」


「今太平洋側に展開する即応できる部隊はいるか?」


「”すずか”がいます。まだ訓練中ですが、最後の工程として艦隊行動中です。今月20日から10日間の任務の後で”かが”に艦隊を引き継ぐ予定でした。」


[あかいし型正規航空母艦2番艦-すずか|LNAC-61]


9月末までの最初の訓練を経た後、今年の10月半ばに実戦配備が予定されていた。


しかもこれ幸いか、現在訓練の最終工程である艦隊運用の訓練のため、正規航空母艦すずかのもとには第一国防艦隊の所属艦艇が集まっている。


10日間の任務兼訓練を終える頃に合流する軽航空母艦かがに艦隊を引き継いで、補給のため横須賀へ帰港する予定であった。


「第一国防艦隊か、」


お久しぶりです。[虎石_こせき]です。


今まで何度か名前だけ出てていた「9月まで訓練中の空母」です。

単なる「日本艦隊TUEEEE」にはしませんよ?


ー次話、ep.90の投稿は2024/10/31/00:00を予定

ーX(Twitter)[ @koseki_2019 ]

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― 新着の感想 ―
>地球史上では、ある島国が10倍の国力差のある大陸国に対して、それが明らかであったにもかかわらず戦争を行ったことがあるくらいなのだから。 どうでもいいかもしれませんが、より正確に言うと、50倍ですね…
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