第十二話・後甲板右舷
少し時間を戻す。
「第二艦橋の負傷者搬出、完了しました!」
中央構造物の後部。構造物と第三砲塔の間に位置する、対空指揮所だったもの。その付近には負傷者が集められ、臨時の救護所となっている。
私は当直官として、対空指揮官への引継に向けた出航前の作業を指揮していた。それが今や救護の指揮だ。
「よしっ、とりあえず歩けるやつで負傷者を食堂に運ぶ。外は危険だから早く中の救護所に移すぞ」
今は戦闘中だ。いくら敵影が去ったといっても戦闘中、甲板の負傷者を並べておくわけにはいかない。
艦橋が攻撃を受けて崩壊、火災さえなければ甲板に連れ出す必要も無かったというのに。
「一体どういう攻撃だっ」
未知の攻撃にいら立ちが募り、不安がそれを増長させる。
しかし悪態をついても現状は変わらない。自分が出した指示だ、自分が率先して負傷者を搬送しよう。報告に来た直属の部下に呼びかけ、二人がかりで一人を運ぶ。
「おいそっち、足の方もて。」
横たわっているのは、顔を真っ赤に染め祈るように目をつむる男だ。右腕に酷い火傷を負っている。無事な左腕は、押さえた腹部と一緒に空気に呼吸に合わせてはげしく上下する。
この男の事はよく知らないが、平均体重で考えれば75㎏前後だろう。
「行くぞ3、2、1」
なるべく揺れないように持ち上げた、その瞬間。
バンッッッッ!!!!!
まるで目の前に雷でも落ちたような爆音が、押しつぶされそうな爆風が、体を襲う。
一瞬意識を奪われた。気づけば頬が血に濡れた木甲板に密着していた。甲高いモスキート音が邪魔をして、周囲の音が頭に入ってこない。
何が起きた。自分は何をしていたのか、、、
そうだ、撃たれたんだ。
朦朧としながら、停滞する思考を無理やり回す。少しずつ五感が機能を取り戻していく。
痺れる腕に力を入れて、立ち上がりあたりを見渡してみれば、少し離れたところに人が何人も倒れている。
さっきみんなで連れ出した負傷者ではない。倒れてるのはその「みんな」の方だった。
「おい大丈夫か、、、」
少しずつ頭が回るようになってきた。
状況からして砲撃だろう。徹甲弾か、
「当直官、大丈夫ですか?」
「あぁ、まだ頭が痛いが、」
とりあえず動けるものがいて助かった。
「二射目が来る。急いで全員を左舷に移すぞ」
状況を確認しようと、指示を出しながら周囲を見回していた。ある程度回復した脳は、さっきは認識出来なかったものを見つける。
何人かが倒れ込んでいる場所の近く、甲板の縁が大きく内側に凹んでいた。猛烈な衝撃が襲ったのだろう。甲板の縁どころか、手すりや付近の木甲板が粉砕されているではないか。
「大丈夫か?」
甲板の縁で、手すりを掴んで立ち上がろうとする乗員に近寄った時だった。
男が立ち上がるのを助ける束の間、縁が歪む甲板の直下、その舷側に視線を落とす。
「41センチだぞ、、、」
そこには目測で20cm以上も深く凹んだクレータが形成されていた。よく見れば小さなひびまで入っている。
「急げ、逃げるぞ」
あと一発でも撃たれれば貫通される。41センチの装甲を一発で20㎝も凹ませる砲撃など、一体どれほどの口径なのか。




