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第十一話・ロムア攻略作戦:レールガン

【西暦2042年 9月3日 未明‐‐‐ユト洋ナンバ湾 洋上】


[かみかぜ型ミサイル駆逐艦‐6番艦やまかぜ|MD‐339]


第2護衛隊から分離した一隻の駆逐艦は、艦隊行動によって制海権、制空権を獲得しつつある地域を夜の闇に紛れてテグラ軍港の方向へ針路をとっていた。


艦橋から見える6㎞先の海岸では、夜の闇に塗られたオレンジ色のコントラストがもうもうと上がる何本もの黒煙を照らしている。


「艦長、テグラ軍港沖6㎞地点です。」


操艦者である当直士官からそう告げられた艦長は、双眼鏡から目を離すと艦橋右手の赤いカバーをかけた椅子から立ち上がる。


艦長のすぐ後ろには、先ほどから艦長と同じように向こう岸のテグラ軍港を眺める二人の男が立っていた。彼らは普段海の上ではなく、国防省本庁舎に身を置く人間だ。


艦長は当直士官の報告に相槌した後、その二人に移動を促した。


「ではお二人とも、CICに移りましょうか」


二人の所属は形式上、後方に展開する第2護衛隊の旗艦で全体を指揮する護衛隊司令部だ。だがこれは一時的な移動で、本来は国防海軍参謀本部の運用部に籍がある。


今回の作戦でこの二名に与えられたのは、ミサイル巡洋艦やまかぜの攻撃を見るという任務だ。無論ただ見るだけではないが。


「じゃあ後は予定通りに頼む」


促されるまま艦橋出た護衛隊司令部要員の二人を追いかけるように、艦長も一言言い残して部屋を出る。


艦橋に残ったのは、最高位であるこの当直士官の他に3人しか残っていない。省力化の賜物だ。そんな3人を率いて、当直士官は任された仕事を全うする。


「両舷げんそーく」


両舷の推力を原速に落とすように指示を出す。艦橋にて速力を所管するのは、艦橋左手に立つ速力通信員だ。当直士官の発声を追うように、彼の復唱が響く。


速力が12㎞/hに向かって落ちつつある中、当直士官は次の指示を出す。


「おもーかーじ」


艦橋中央に立つ操舵員も命令を復唱すると、その手に握る舵輪を右に15°きる。


「おもーかーじ15度」


操舵員から右15°に達した報告が来ると、当直士官は舵角を戻す指示を出した。


「舵中央」


「面舵にあて。」


ミサイル護衛艦やまかぜはナンバ湾上で転針し、6㎞離れたテグラ軍港を左に見て、その海岸線と概ね平行する位置に着いた。

__________


「艦長入られます」


ミサイル護衛艦の戦闘指揮所は、既に作戦の準備を整えて艦長の一言を待っていた。白い背景にいくつもの液晶画面が浮かぶ、明るい部屋。一昔前の戦闘指揮所とは大違いだ。


厳粛な雰囲気に包まれた白い部屋の中央に置かれた席に、艦長は座る。一緒に戦闘指揮所へ入った二人は、先ほどと同じように艦長が座る席の後ろに立った。


「では始めます。」


二人にそう告げると、艦長は声を張り上げる。


「対水上戦闘よーい!」


艦長の指示を受けてアラームが鳴る中、着々と準備が進む。


「対水上戦闘、用意よし!」


「左対水上戦闘、330°、約4mile、軍港岸壁のレンツ戦艦。主砲、弾種APPI、1発。攻撃はじめ!」


照準には、停泊するレンツ海軍の戦艦が捉えられる。先ほど戦闘機が爆撃を行い、艦橋が破壊されたため、軍艦としての能力は喪失していることだろう。


「主砲、APPI弾1発、攻撃始め。」


使用武器と弾種、弾数を指定して攻撃を指示する。ここまでは国防海軍で統一された射撃号令だ。普通ならば次に来る号令は「主砲、打ち~方はじめ」である。


しかし、主砲を持つ戦闘艦艇87隻のうち、このミサイル駆逐艦やまかぜなどの特定の12隻でのみ、一つ確認の項目が追加される。


「1発、キャパシタ充電良し。主砲打ちー方はじめ」


主砲用のコンソールに繋がる、拳銃のような形のコントローラーの引き金が引かれた。


引かれた引き金の電気信号は瞬時に艦艇前部の主砲へ伝達される。


その電気信号によって、蓄電器から供給されたキャパシターバンク内の68MJという莫大な電力、その一部が、砲身へと一気に流れ込む。


二本の導電軌道に約12MJの電力が流れた。装填されていた127mm一体型非火薬弾体は、発生した強力な電磁力によって、銃口へと瞬時にはじき出される。その速さは、2200m/s以上。


「パンッ!」


バリバリと空気を割くような、乾いた短い音を響かせる。質量5㎏弱の鉄塊は6km先のレンツ戦艦へ向かい飛翔した。

__________


【新生歴1948年 9月3日 未明‐‐‐レンツ帝国領ロムア テグラ軍港】


テグラ軍港の岸壁で出航の準備が進められていた戦艦パーバルは、ロンブルム級戦艦の2番艦で、主砲は46㎝の3連装砲を前部2基と後部1基の配置で計9門を備える。


装甲厚は最大の側面装甲で410mmを誇り、列強海軍の主力艦艇にふさわしい巨艦であった。


そんな戦艦パーバルは、テグラ軍港に停泊中、空爆に巻き込まれた。


マストや艦橋が完全に破壊され、砲塔や中央構造物付近の対空砲、対空指揮所にも看過できぬ被害を受けていた。


「前部主砲塔周辺の火災は消火完了しました!」


「救護所足りないから、歩けるやつ陸に降ろせ」


「対空戦闘の継続は困難です。以降は救‐‐‐」


艦橋が崩壊した戦艦パーバルでは、生存が確認された艦の上層部が電機室に集まっていた。


電機室とは、レーダにソーナー、通信や主砲の弾道計算を所管する部署である。普段ならば限られた人間しか入ることの許されず、厳粛な空気に包まれた明かりの落とされた薄暗い部屋である。


しかし今の電機室には完全に明かりがともされ、怒号が飛びかい、様々な人間が入り乱れる、全く戦闘時とは思えない状況であった。


「今のところ浸水は無いですが、もう指揮系統がめちゃくちゃで、うまく情報が上がってきません」


「あんとき艦橋にいたのは誰だ?」


「当直士官、航海長、副艦長、それから艦長の副官以下18名です。」


戦艦パーバルで第二位の地位にある人間と、航海部門のトップ、そして艦長の補佐役など、重要な役職がほとんど艦橋への爆撃で安否がとれていない。


「テグラ司令部は?」


「司令部も爆撃の影響が甚大で、、、」


騒がしい電機室の一角で、艦長は自分の頭から制帽を掴みとって無造作に頭をかきむしる。


「くっそ」


「艦長!」


電機室の扉から、あわただしく動き回る隊員たちをかき分けて向かってくる人間がいた。


「艦長、艦橋からです。ベイン航海長、マイク当直士官、御遺体を確認しました。戦死です。ジェイク副艦長は第一砲塔にいました。火傷を負って、食堂の救護所で手当を受けています」


テグラ軍港への空爆を受けて、対空戦闘を指示したが、艦にも攻撃がおよんだ。今は救護とダメージコントロールで戦闘どころではない。


「とにかく艦を持たせろ、最低限人員を残して対空戦闘を継続。後は全員救護に回れ。出航は取りやめだ!」


ガンッ!


直後、一瞬の強い振動と共に一発の短かな衝撃音が耳に入る。


「攻撃か?!」


どこへ報告を求めても、発煙や炎上を確認していないという。3分経っても特に異常は確認できない。


「不発弾を受けたのかもしれん。警戒を厳にして‐‐‐」


艦長の言葉を遮ったのは先ほどと同じ衝撃音。今度は続けて三回。


ガンッ!ガンッ!、


バンッッッッッ!!!!!


「なんなんだ!」


やはり攻撃だ。そう確信した時だった。


「艦長!機関室の右舷側で爆発です!」


砲撃と、その言葉がよぎる。三発の連続攻撃で、きっと最後の一発が装甲を貫いたのだろう。


「どこから撃たれた!発炎くらい見えただろ!」


「機関室で火災発生!」


「っ!」

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