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第四話・艦隊来航


【西暦2040年 6月28日 朝|日本国より北西の洋上】


"日本国転移等一連の特異的不明事案(日本特事)"、先日の関係閣僚会議にてそう呼称された、この惑星への日本国の転移から1週間が過ぎた。ついに第五世界に対する公式的な接触が行われようとしている。


今回の外交使節団派遣は、国家運営もとい国家存亡に関わる重要案件として、その編成も慎重に且、余念なく行われている。


まず外交使節団の団長には、先日の緊急会談でも対応を任された外務省の森本 直樹 総合外交政策副局長だ。外務省総合外交政策局の副局長というのは、外務大臣を内閣総理大臣に置き換えて外務省を内閣で例えた場合、国務副大臣にあたる役職である。


外務省からはそんな森本氏を中心に、同省内部部局の経済局、国際協力局、国際法局、国際情報局より上陸する各1名と、艦に残る各1名を合わせた各2名の計7名が派遣されている。


他にも、傷病等が発生した場合に対応を行うため、生物災害対策防疫庁の内部部局、生物災害予防管理局。技術研究省の施設等機関である科学技術・学術政策研究所。農林水産省の内部部局である輸出・国際局。経済産業省の内部部局である貿易経済協力局に、国防省の施設等機関である国防戦略研究所などの関連省庁等からも人員が派遣されている。


改めて名簿を見てみれば、やはり今までに無いような大規模な編成に、日本政府の「どんな情報もとり漏らすまい」という強い意志が伝わってくる。


そんな外交使節団は移送に関しても大掛かりなものとなっていた。国防海軍の一桁護衛隊を基幹とした臨時編成の艦隊が宛てがわれているのだ。


・第1次外交使節団の移送における国防海軍編成艦隊(通称:1次外交艦隊)


→第三国防艦隊隷下、第3護衛隊

[あかぎ型原子力航空母艦2番艦−えちご/RNAC−02]

[ながら型ミサイル護衛艦7番艦−いすず/DDG−189]

[すずや型ミサイル巡洋艦4番艦−あずま/MCS−245]

[つくば型ミサイル巡洋艦6番艦−つくし/MCS−205]

[かみかぜ型ミサイル駆逐艦8番艦−はまかぜ/MD−341]

[さくら型ミサイル駆逐艦3番艦−かば/MD−345]

[まつ型ミサイル駆逐艦2番艦−たけ/MD−352]


→第二地方支援艦隊隷下、第8海防隊

[もがみ型多用途護衛艦8番艦−まべち/FFM−8]

[もがみ型多用途護衛艦16番艦−くしだ/FFM−16]

[もがみ型多用途護衛艦24番艦−おやべ/FFM−24]


→情報収集艦隊隷下、第二情報収集隊

[しょうなん型海洋観測艦1番艦−しょうなん/AGS−5106]


→輸送艦隊隷下、第1輸送隊所属

[ひがき型輸送艦3番艦−へさき/LST−4008]



今回の外交使節団の移送における国防海軍臨時編成艦隊は上記の通り、第三国防艦隊の隷下である第3護衛隊を基幹に、第二地方支援艦隊から一個海防隊であったり、国防海軍の司令部直属艦隊からも艦艇が参加した規模の大きい部隊だ。


だがしかし、一つ疑問が生じる。なぜ経済活動が停滞した現状況下で、このような艦隊をすぐに動かすことができたのかということだ。


日本には、初代天皇陛下である神武天皇の即位した年を元年とした独自の暦、神武天皇即位紀元、通称皇暦と言うものがある。今年は西暦では2040年であるが、これを皇暦に置き換えると2700年となる。


国防軍ではこれを記念して、100年前の皇暦2600年での大日本帝国軍と同様に、観兵式もとい観閲式をはじめ、観艦式や展示飛行など、各軍種で記念行事の実施を予定しており、そのための予算も確保していた。


しかしながらこの状況下で実施が叶うはずもなく、緊急措置として既に確保されたその予算は現状況下における国防軍の運用に回されることとなったのだ。


「艦長、約33マイル先にて国籍不明の水上艦艇を確認しました」


「UAVの映像です」


第3護衛隊の旗艦である "あかぎ型原子力航空母艦2番艦−えちご/RNAC−02" も勿論そうであるが、国防海軍の艦艇において旗艦となりうる大型艦艇の戦闘指揮所、CIC及びCDCには旗艦としての機能を果たすための様々な設備が備えられている。


"原子力航空母艦えちご" の艦長をはじめ、第1次外交艦隊の幕僚連が囲んでいるこの机も、その設備の一つだった。


"中央机" と呼ばれるこの設備は、天板がタッチ操作が可能なディスプレイとなっており、自艦を中心としたデジタル地図や映像の表示ができるのだ。


今はこの艦隊を中心としたデジタル地図に重ねて、先行している無人航空機によるLive映像がなどが表示されている。


「ここ拡大しろ」


その映像を見た米山 和雄 第1次外交艦隊司令長官が指差したのはマストの先端部分だ。指示通りに拡大された映像には、掲げられている旗が先ほどよりも鮮明に写っている。


「これは……やはりフリト帝政国籍のものですね。これが国旗に、下のものが軍旗でしょう」


「先日来航してきた巡洋艦と、同型艦かと思われます」


「よし、この機以外の艦載機を全て戻せ。目視圏に入ったら無線を入れろ」


「はい」

__________


【新生暦1946年 6月28日 朝|フリト帝政国より南東40km地点 洋上】


フリト帝政国の海岸から南東に40km進んだ地点、領海境界線上には先日出航した訓練艦隊から別命により分離した一隻の巡洋艦、"アミナク級巡洋艦9番艦フレチャーク" が巡航していた。


彼らが探しているのは、1週間ほど前から軍と政府の上層部を騒がせている日本という新たな国家、その外交使節団である。


「艦長、見えました」


艦橋で双眼鏡を覗く艦長たちが目にしているのは、統率された陣を取りこちらへ向かってくる、今までに見たことのないデザインの船だ。事前情報の通りならば、日本という国の船なのであろう。


「にほっ、いえ国籍不明船舶より無線を受信しました」


「なんて言っている」


「こちらは日本海軍、現在フリト帝政国への外交団を移送中である。と」


「そうか、時間ちょうどだったな。返信を、我が国へようこそ、と。これより日本艦隊を連れ帰還する、シャンロスにも伝えろ」


その後、来国を歓迎する一文とともに、案内役である旨を伝え、オール・シャンロス海軍基地へと進路を取った。

__________


【新生暦1946年 6月28日 昼前|フリト帝政国ロムルド州沿岸部 オール・シャンロス海軍基地 第4番桟橋】


「あの空母、大きいな。セリトリムのものと同じくらいか」


フリト帝政国の東部沿岸部に位置する、国内はもとより世界でも類を見ないほどの大規模な海軍基地、オール・シャンロス海軍基地。その埠頭から、沖合に浮かぶ日本の艦を眺めるのはこの基地の司令官、トーマス・フォン・ベーヴァン海軍少将だ。


「どこかの列強の御古かと思っていましたが、あんなデザインの艦艇は見たことがないです」


彼の横に立つ男もまた、この基地の首脳部に籍を置く者。この基地でベーヴァン 司令官の補佐役、参謀長を務める海軍大佐のダニエル・へーニングだ。


「にしても今日はお客さんが多いですね」


「今日は、外務省は当たり前か。他にも技術省やら通商省やら、軍務省の中央憲兵軍までいる」


「にしても、今までこんなに近くにいて全く関わり合いがなかったなんて、信じられません。やはり列強の工作ではないのでしょうか」


「いくら列強といえどこの規模の欺瞞はなかなか考えられん。それこそセリトリムでさえ不可能だ」


そんなことを話していると、後ろから下士官が予定の時間を告げにくる。


「司令、そろそろ日本の外交団が来られます」


「そうか。もう戻ると、フィードラーさんに伝えてくれ」


「わかりました」


二人は下士官が戻っていくのを確認すると、再び海の方に視線を向けて口を開く。


「戦争になれば、仲間は多いほうがいい。報告通りならば、日本の位置は要所となる。必ずこちら側に引き入れなければならん」


現在のフリト帝政国は、大陸内外に対立国をいくつか抱えている。日本の軍事力がフリト帝政国の以下でも以上でも関係なく、位置という重要な観点から敵に回してはいけないのだ。


「だが日本との接触は皇国の反発が必至だ。南西の警戒を厳にしろ。私はこの後軍務省に飛ぶ、コローゲル将軍に呼ばれてるからな。留守の間よろしく頼むぞ」


へーニング 参謀長が返事を返すと、ベーヴァン 司令官は離れたところに待っていた下士官たちの元へと戻り、用意されていた軍用車に乗り込むと外交官らが待つ基地内の滑走路へと向かった。

__________


【新生暦1946年 6月28日 昼前|フリト帝政国ロムルド州沿岸部 オール・シャンロス海軍基地 ロムルド=オール・シャンロス海軍航空基地】


オール・シャンロス海軍基地の敷地内にある、ロムルド=オール・シャンロス海軍航空基地は、その名の通りオール・シャンロス海軍基地司令部によって運用される軍事空港だ。正式名称は長いため、一般的にはロムルド空港と呼ばれている。


「司令、お疲れ様です。ただいま日本艦隊より外交使節が乗った回転翼機が発艦したとのことです。現在ロムルド管制が誘導を行っています」


「そうか、わかった。フィードラーさんは?」


「あちらにおります」


滑走路の傍に停車した軍用車から降り、下士官から現状の報告を受けたベーヴァン司令官は、そのまま足を止めることなくフィードラー外交官の元へと向かう。


「フィードラーさん、すみませんね、部下と話していまして」


「いえいえ少将閣下、お気になさらず。ところで彼の国の艦はどうでしたか?是非専門家の意見をお聞きしたいです」


「そうですね、見たかぎりだと先進的な技術を持っていると感じました」


「やはりそうですか。私も先日彼の国へ上陸した時、先進的な街を見ました。彼の国がただの新興国家だと考えるのは危険かもしれませんね」


フリト帝政国の政府や外務省では現在、日本なる国は一応新興国家という扱いになってはいるものの不確定要素が多く、その外交政策は慎重にならざるを得なかった。


「我が国の現状は理解しています故、少将閣下の出番ができないように頑張りますよ」


「軍人が暇な世界ですか、いつか来てくれれば嬉しいですね」


そんなことを話していると、連続して風を切るような音が遠くから聞こえてくる。


「あれは二発のセスナか?」


彼らの前に現れたのは大きなプロペラが二枚、正面に向かって回っている航空機だ。その回転翼機と称される機の形状は、彼らの知るそれとはかけ離れたものであり、どちらかというと小型のプロペラ固定翼機と思えた。


「回転翼ではなく固定翼じゃないですか。プロペラと機体とのバランスが悪いように思ますが…」


そんなことを考えていると次の瞬間、その機体は今までに見たことのない挙動を見せた。


「?!プロペラの向きが…」


「回転翼機になりましたよ!」


固定翼機だと思われていた機体の、それまで正面を向いていた大きな二枚のプロペラは、驚くべきことにゆっくりと向きを変えて真上を向く。するとそれまで固定翼機であったその機体は、回転翼機にしかできない滞空という動作をとり、徐々に高度を下げて滑走路に垂直着陸したのだ。


「やはりただの新興国家だと侮っていては足元を掬われかねませんね」


薄々は勘づいてはいたが、日本国は弱小国家とは言えないだろう。事実としてフリト帝政国海軍の最新鋭戦略爆撃機とその護衛機計3機を撃墜しているのだから。


そして今、目の前に現れた航空機によってその予想は確信に変わった。日本国は少なくとも航空分野においてはフリト帝政国と同等かそれ以上の技術力を有しているといえる。


「気を引き締めて行きましょう」


しばらくしてローターの回転が止まり、プロペラが完全に静止したところで後部ドアが開く。中から十数人が降りてこちらに向かってくる。


「初めまして、ではないですね。外務省のフィードラーです」


「お久しぶりですフィードラーさん。日本国外務省の森本です、またお会いできて嬉しいです」


日本国側の外交使節団7名と護衛の2名を迎えるのは、フィードラー対日本国外交政策専任外交官とその部下2名、そしてこの基地の司令官であるベーヴァン少将だ。


双方の責任者が軽い社交辞令を済ませると、一同は基地内に用意されている会談の場へと向かった。


「改めまして、日本国より来ました、外交官の森本です」


「対日本国外交政策専任外交官を拝命しております、フィードラーです。よろしくお願いします」


「では早速で申し訳ないですが、この会談は “国交樹立に向けた情報交換及び双方国視察団の派遣に伴う外交関係樹立の調印” という認識で違いないですか?」


その後、外交会談のために急装されたこの参謀会議室では、森本 外交官による日本国に関するプレゼンテーションが始まった。

先日この作品の総合ポイントが100を超え、現在はなんと130です。皆さん読んでくださりありがとうございます。誤字報告にも感謝しております、今後ともよろしくおねがいします。

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