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第八話・ロムア攻略作戦:テグラ軍港攻撃

【新生歴1948年 9月3日 未明‐‐‐レンツ帝国領ロムア テグラ軍港】


「依然、応答ありません。」


レンツ帝国の植民地、ロムア。ユト洋のアデル湾沿岸に位置するテグラ軍港には不穏な空気が立ち込める。


「2隻が連絡を絶ったのは、ちょうどエルトラードの領海付近だな?」


事は一時間程前。初めに異変が確認されたのはテグラ軍港の艦隊司令部通信室で、とあるフリゲート艦がタイムスケジュールにあるはずの定時連絡を行わなかった。


不審に思った司令部は、そのフリゲート艦が担当するものとは隣の海域で哨戒活動に当たる駆逐艦に捜索を指示した。


しかし、今度はその駆逐艦とも連絡が取れなくなる。


「准将、もしや日本ではないでしょうか、」


「その可能性はある。だとすれば例のロケット弾を使ってくるやもしれん。」


自身の副官と会話していた時だった。


窓の外に広がる闇夜に不自然な星がいくつか浮かぶ。星かとも思ったが、その発光は左右上下に動き、どんどんと近づいてくる。それに光色が星のそれではない。宇宙からの反射光ではなく、火の色だった。


「あれはっ!」


飛来したそのロケット弾は、一切の躊躇も無く地面に突進する。薄暗い軍港は一帯が瞬く間にオレンジ色の光で照らされた。


滑走路や構造物。停泊する軍艦にもその被害は及ぶ。


わずかな地響きが攻撃の実感を体に刻む。


「情報は!」


突然の攻撃で混乱しているらしい。指揮系統は混濁し正確な情報が上がってこない。自分で確認しようと窓に目をやる。


ここテグラ軍港司令部別棟2階から見える建物、テグラ軍港司令部、倉庫群に対空砲陣地は、既に火中だ。


「被害は!司令部は無事か?!」


帰ってくる答えは同じ。分からない。


「とにかく現状把握だ!停泊中の艦艇は全艦に準備待機を指示しろ!」


男は叫ぶ。彼の所管業務は、通信司令部で司令官を補佐する准将職だ。だがそんなラルフ准将には当然、出航を命じられるほどの権限は無い。せいぜい上からの出航準備の命令に備えた、準備待機命令だ。


「守備隊は?!」


「状況の確認が出来てません。各隊指揮官付を呼んでいますが、、、」


待っても待っても情報は上がってこず、情報が錯そうしている。各司令部、そして部隊の指揮官ともまともに情報連絡が取れない。


守備隊の一部を司令部の人命救助に向かわせようと思ったが、連絡が取れないのであれば致し方あるまい。


「トーマス、俺の伝令だ!司令部行って状況確認!救助活動はしなくていいからその後すぐに各守備隊回って現状報告!これ持ってけ」


ラルフ准将に肩掛けの携帯無線機を押し付けられたのは大尉のトーマス。ラルフ准将の直属の部下の一人だ。


この状況で、現場情報は重要であるが、ラルフ 准将自身がこの場を離れるわけには行かないし、副官を派遣するにはリスクが大きすぎる。


「了解!司令部向かいます!」


彼が通信司令部の通信室を飛び出した時、ようやく不気味なサイレンがなり始める。


「チッ、遅い!」


誰に対してでもなく怒りをぶつける。

__________


通信司令部がある司令部別棟から100m程離れた場所。鉄塔やアンテナが建ち並ぶ区画だ。


その中で一層の存在感を示す巨大なパラボラアンテナの足元には、薄く広く、コンクリートの立方体が地面から50cmほど突き出ている。まるで野外舞台だ。


それは半地下のレーダー室の天井だった。


「どうして察知できなかったんだ!」


「地上観測では南東から飛来したと連絡があったのですが、レーダには写りませんでした」


「馬鹿を言え!それに南東だと?!エルトラードが撃ってきたとでも言うのか!」


焦りからか、意味の無い問答が繰り広げられる。


頭の中が突然の状況で思考回路は麻痺しかけていた。しかし直後入った報告は、彼の脳内で他の全てを押しのける。


「航空機探知!」


「識別は?!」


「不明です!」


すぐに対空砲陣地へ報告と、警報の発令を。と脳内に浮かんだ直後、自らの失態に気が付き、言い訳でもするかのように怒鳴るように指示する。


「警報を鳴らせ!」


最初のロケット弾攻撃でやるべきことであった。


『レーダより本部!』


レーダー室の中尉階級の男が、対空砲を運用する第25高射中隊に呼びかける。


『‐‐‐9守備より本部宛、当隊の集結は‐‐‐パーバルより艦隊司令、本艦現在対空戦闘を‐‐‐らチャンネル変えろ‐‐‐14守備より本部‐‐‐』


だめだ、回線がパンクしていてまともな無線交話ができない。まるで各司令部の無線が機能していないかのようだ。

__________


整えられた芝生の中を通るコンクリートの道。道幅は人一人分だ。そこを5kgの無線機を担いで走るトーマス大尉は、軍港司令部に向かっていた。


右を見れば、えぐれた地面の上に雑然と転がる高射砲たち。左を見れば燃え落ちる倉庫群。時折分隊単位で走り回る守備隊とすれ違ったりもする。


『14守備より本部‐‐‐パーバルより艦隊司令繰り返す艦隊司令‐‐‐29中隊より本部!‐‐‐』


相変わらず無線は錯綜している。


あっという間に軍港司令部へ到着した。攻撃を受けてから20分程経っただろうか。徐々に無線も秩序だった交話を取り戻し始めている。


無線を取って司令部の現状を報告しようとした時だった。


「本部伝令より本部。司令部の状況、‐‐‐」


司令部の目の前はすぐに岸壁で、テグラ駐留艦隊唯一の戦艦、パーバルが停泊している。そのパーバルが連続して大爆発を起こした。


黒煙が立ち上り、オレンジ色の光に包まれる。その衝撃は水面どころか岸壁をも揺らし、一部が破壊された司令部の瓦礫や窓ガラスが音を立てた。


顔に熱を感じるほどの爆発を目の当たりにし、ひるんで声が出なかった。耳の奥では、ずんと鈍い痛みを感じる。


放心し、天に吸い込まれていく黒煙をたどるように空を見上げた時、トーマス大尉は低空で侵入する高速の航空機を目にした。


「あっ、本部伝令より本部。‐‐‐」

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