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第五話・前編:テリゼ=ノールメル社会主義共和国(おまけマップ付き)

【新生歴1948年 8月26日 朝‐‐‐テリゼ=ノールメル社会主義共和国首都モラコフ マレクリム宮殿 元老院本院】


エルテリーゼ大公国時代の初めに、皇帝の居城として建設された宮殿がある。中心に聳えるマレクリム本宮殿と、それを囲むように元老院本院や国立文書館、国立宝物庫、教会に聖堂など、数多くの建物が並ぶ。


現在ではテリゼ=ノールメル社会主義共和国の全テリゼ=ノールメル執政委員会が使用している。


そんなマレクリム宮殿の一角、旧元老院が使用していた元老院本院で開催されている国権の最高機関があった。全テリゼ=ノールメル大会だ。


国内の地域や集団から選出された代表者600人が集まって開催されている。


中心の円壇を囲む円状の座席は、外縁に向かって序所に高くなる。闘技場のような構造を持つ建物だ。


『‐‐‐テリゼ共産党を全ノールメル共産党に改し、ノールメル中央執政委員会はこれが指導するものとします。また各国との立ち位置について、これも中央執政員会に対するものと同じく指導監督という役割を負います。同時にこれらを中央執政員会へ委任するといった‐‐‐』


11度目となる全テリゼ=ノールメル大会。今回の会議で目玉となる承認事項は、新たな憲法で置かれるテリゼ共産党の立場についてだ。


今後設置されるノールメル中央執政委員会、その人民委員長の指名や、この委員会への指導監督といった役割を負う組織として憲法に明記するか否か。


今はまだ草案段階だが、この新たな憲法が施行されれば、現在のテリゼ=ノールメル執政委員会は解体されて、ノールメル中央執政委員会が新たに設置される事となる。しかしテリゼ共産党の立場についてはまだ議論がなされていなかった。


『投票の結果、モーロフ執政委員長の案を承認するものとします。』


その後も、テリゼ=ノールメル社会主義共和国から提出する憲法の草案や、自国の経済政策について、様々な承認が行われた。


閉会します。議長の一言で皆が席を立ち建物を後にする中、中心の円壇に座る執政委員会のメンバーらは居残って言葉を交わしていた。


「同志委員長、結局ノーサバーションの4国は間に合いませんでしたね。」


「50年までに諸邦憲法をつくって、4国も編入するさ。それよりもレンツ帝国の事だ。」


この6年間の内戦によって外的な政策を一切取れずにいた旧エルテリーゼ大公国の諸国にとって、現状では国際情勢において遅れを取っている。


「レンツ帝国がある国と戦争に入った。」


曰く、フリト帝政国の衛星国でありアドレヌ大陸東の島を領土としているそうだ。話し合いの目的は介入するか否か。


「前政権がアシュニスィ海峡係争でレンツを非難した。これで少しばかり関係に傷が付いたが、気にする必要のないレベルだ。」


アシュニスィ海峡係争でエルテリーゼ大公国はレンツ帝国を非難したものの、表明した意思の強弱で言えば他列強国に比べると懸念する程度のものだった。


それに革命によって政権のみならず国家体制が変わった今、国際社会ではエルテリーゼ大公国を継承する別の国という見方が主流である。


「レンツに寄るかペンゴに寄るか。同志書記長も決めかねている。」


「同志書記長はなんと言っているのでしょうか?」


「我らが同志書記長は国内の経済と情勢の安定化を最優先とする。との方針を出した。」


国内の安定化。これが達成されるのであればレンツ帝国だろうがペント・ゴール帝国だろうが進んで手を取る。どちらが信用出来るかという話だ。


「下手に手を打つよりも、静観するほうが良いのでは?」


「だがあまり後手に回るのも避けたい。」


ナカルメニア、ユト。他大陸では失ったものが数多くある。


「セリトリムの市場経済は不正会計で株価が暴落し始めている。ペンゴはその波をもろに受けるだろう。フリトも戦争の負債で身動きは取れない。レンツが負ける要素はありませんよ。」


ダビッド・モーロフ 執政委員会委員長は鼻で笑う。


「経済を利己的で腐敗的なブルジョアジーに任せるからそうなるのだ。」


「そう経たない内にレンツの経済にも、その混乱が波及するでしょう。今はどっちつかずの静観が最善手だと思います。」


レンツ帝国はこの30年間で、大陸戦争での覇権獲得を足がかりに列強国へ成長した。


エルテリーゼ大公国の衰退とタール・ニ・バエア帝国の崩壊、そしてレンツ帝国とフリト帝政国の台頭が、伝統的な列強国の支配を討ち新たな国際秩序が形成されたのだ。


そんな秩序が今や軋む音を立てて傾き始めた。


恐らく近いうちに旧列強国のエルテリーゼ大公国を継承する国家として、列強国の位置にたつだろうが、そんな国際情勢の中でどの位置に立つべきか。


「同志委員長、そろそろお時間です。」


「あぁ、行こう。」

__________


【新生歴1948年 8月26日 昼過ぎ‐‐‐テリゼ=ノールメル社会主義共和国首都モラコフ マルサザーレム国立歌劇場】


マレクリム宮殿と同じくエルテリーゼ大公国時代、その中ごろに公王令で建設された劇場は豪華絢爛の一言に尽きるが、マレクリム宮殿とはまったく違う様式だ。


エルテリーゼ大公国は古くから様々な国の上流階級文化が混ざり合う事で、様式は多様な側面を持つ。


エルテリーゼ大公国時代の中期に建設された、このマルサザーレム国立歌劇場は白を基調として壁画や木材石材の彫刻で飾られている。金や宝石の装飾を多用する他の時代とは違った種類の豪華である。


収容人数700名のメインホールをほとんど埋め尽くす人々が集まった目的は、歌劇やオーケストラの鑑賞ではない。


照明と共に舞台に吊り下げられているのが大道具や音響反射板ではなく、国旗であるという事が示す通り、テリゼ共産党が主催する政治会議である。


しかし、通例となった国旗掲揚は普段とは違い、自国以外のものが多くある。その数は7流れ。


全て別々の国の国旗であるが、赤地という点が統一感を醸し出していた。


『初めに、テリゼ共産党書記長、同志グレゴリー・イグナトフより開会のご挨拶です。』


↓ガランティルス大陸、大陸北部地域

挿絵(By みてみん)

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