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第四話・環礁島沖海戦の後(おまけマップ付き)

【新生歴1948年 8月25日 昼前‐‐‐レンツ帝国帝都パルメッツ 大統領官邸】


30年前の大陸戦争を経て、ガランティルス大陸の西部地域で覇権を握るに至った列強国。レンツ帝国。


その大統領官邸で話されているのは、ナマール海における軍事活動に関してである。


「‐‐‐我が方の被害は巡洋艦1隻に駆逐艦2隻。対する日本側の被害は、巡洋艦クラスの軍艦が1隻です。」


軍事大臣に促された参謀長は、居心地の悪さを感じながらも報告を続ける。


「敗因は?」


少しの沈黙の後、開かれた口からは低い声で一言。


「えぇ、、情報が錯綜しているのですが、まず恐らく魚雷攻撃かと考えられます。」


日本の環礁島沖合で発生した日本海軍との戦闘は、戦艦エッシュと民間船舶が帰港しただけであった。


彼らの報告では、放棄された日本艦が魚雷によって轟沈した後に、ロケット弾が多数飛来したとのことであった。


それ以降がなかなか信じられないものなのだが、曰くそのロケット弾は一発も外れることなく我が方へ襲い掛かり、それは一発で駆逐艦を沈める威力だったそうだ。


ヨルド海軍基地からの報告ではこの報告も踏まえて、魚雷攻撃を欺瞞、特にフリト海軍潜水艦の関与を覆い隠す目的である可能性大。との結論がなされた。


「現場は魚雷攻撃である可能性が高いと判断しています。‐‐‐」


参謀長はこれを前置きとして、さらに続ける。


「‐‐‐ですが、一つ気になる点があります。」


そう言うと、参謀長は何枚も重ねてステープラ止めされた書類を手渡す。


どうやら海軍の報告書の写しらしい。


「それはちょうど一年前、ユト洋でロムアからロブロセンまでの航路を哨戒していた潜水艦による報告です。」


大統領は参謀長からの報告を耳に入れながら、自分でも書類に目を走らせる。


「昨年、ちょうどアドレヌでフリトとエルトラードが戦争していた時期です。ユト洋を中心に哨戒に就いていた潜水艦とフリゲート艦が、国籍不明の水上艦艇を発見しました。後日聞き取りを元に描いたイラストは別紙に、‐‐‐」


大統領は何枚か紙をめくって、その別紙を探す。


描かれた軍艦は見たことのないシルエットで、艦の大きさにしては武装が極度に少ない。大砲も小口径で、本当に軍艦なのかと疑いたくなるほどだ。


「‐‐‐この潜水艦の報告によると、その艦は突然爆発したかと思えば、その発光はどんどん空に向かって上昇し、アドレヌ大陸に向かっていったとのことです。ロケット弾の可能性があると、このような報告を受けていました。」


それで?大統領の感情を占めるものが怒りから好奇心へと変わりつつあり、参謀長は少し肩の荷が降りた気分だった。


「その後、潜水艦からの報告を受けたフリゲート1隻が所属と航行目的を確認するために向かいましたが無線に応答は無く、その艦は瞬時に時速50kmまで加速して振り切られたとのことでした。」


ロケット弾を艦上で運用し、瞬時に50km/hまで加速する。見た目はのっぺりとして武装は少ない。そして、


「この時に確認された艦番号は3桁。艦首側から7、1、2でした。712か217かはわかりませんが、この艦番号と船体の特徴に合致する艦艇を日本の環礁島で確認しています。」


続けて差し出された写真は、まさにその特徴通りであった。夜間に目視したものを聞き取って描かれたイラストよりも、晴れた昼前に撮影されたその写真は鮮明にその容姿を示している。


「艦番号が同じか。」


「拿捕に向けて撮影された写真です。この直後、魚雷によって沈むのですが、」


日本の艦上でのロケット弾運用に信憑性が持てる。つまり、環礁島沖合での海戦でも信憑性を疑われた報告が真実味を帯びてきたわけだ。


「つまり日本は海軍の主兵装にロケット弾を採用していると考えられます。だとすれば、このような小口径の砲一門だけという軍艦の特徴にも納得が行きます。」


しかし新たに疑問が浮上する。というより以前からの疑問が再浮上しただけであるが、


「しかしだとすればわかりませんね。なぜ新興国があのような力を持ってるのですか、フリトが今回の件で非介入を示したことも理解出来ません。」


今回フリト帝政国はレンツ帝国に対して、ベリモー座礁からは始まった日本の環礁島での一連の緊張に非介入を表明していた。


これがフリト帝政国の衛星国であるという説が揺らいだのであるが、他に有力な説を提唱できずに戦争状態へ突入した。


「とにかく、ユトとの航路上の安全を確保しなければいけません。」


日本を攻撃したのも本来これが目的だ。


「ナマール海の哨戒は継続するとして、兵站線は東進航路に分散させるべきです。」


ユト大陸のロブロセン内戦は、東側がロブロセン王国で、西側を反体制派が実効支配している。


つまり東進航路でユト大陸に向かうと、反体制派が実効支配する側にたどり着く。加えて、その場所には他列強国の植民地もあり、ロブロセン王国へ向かうには大回りが要される。


そのため距離が近く、比較的安全であるナマール海を渡る航路は重要であった。


「空母艦隊を派遣しましょう。幸い大まかな位置はわかっています。このままナマール海の不安を放置してはおけません。」


今後ユト大陸での活動を続けるのであれば、不安要素を残しておくわけにはいかない。戦争状態にある以上、ユトを守るためには先手を打つ必要がある。


↓ガランティルス大陸、大陸西部地域

挿絵(By みてみん)

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[良い点] 一気読みしました。面白いです
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