第七話・衝突
【西暦2042年 8月20日 朝−−−日本国旧首都圏政府直轄開発地 政令指定特別区域 首相官邸地階 第二会議室】
「なにがあったの?」
部屋に入ると早々、石橋 内閣総理大臣は問う。答えたのは朝比奈 国防大臣だった。
「沖ノ鳥島で国防軍の巡洋艦とレンツの海軍艦艇が正面衝突しました。」
「被害は?」
今度は朝比奈 国防大臣の隣にいる矢賀 国防総軍統合参謀総長が言う。
「我が方の巡洋艦が1隻大破しています。」
そんな会話の最中、国防省本庁舎を経由した現場の映像が表示される。
画面の中央に捉えられているのは、国防海軍のミサイル巡洋艦だ。
艦首から左舷側の前甲板が形を変えていた。左舷前方、乾舷の部分にある艦首から中部に向かって伸びるその衝突跡は、前甲板に収まらず中央構造物がある部分にまで伸びており、押し除けられたように潰れ擦れペシャンコに削り取られている。
「航行不能です。主砲の弾薬が誘爆しなかったのが奇跡ですね」
現代艦が民間船舶と衝突するという事故は少なからず存在する。ほとんどの場合は小回りの効かない大型の商船が相手である。
この場合、相手の民間船舶の船体はその大きさに比例して乾舷も長く、伴って船首の高さが艦艇の上甲板より上になることになる。
すると衝突跡は艦艇の乾舷より上、中央構造物にその被害が及ぶことがほとんどだ。多くの人はこういった事案の写真では、イージスシステムの目であるSPYレーダーが設置された、艦橋下部の壁面がレーダー諸共抉れているものを見ることが多いだろう。
しかし今回衝突したのは比較的小型の艦艇であった。
するとどうか。
その乾舷が短いと言うことはつまり、艦首が喫水から低い位置にあることを意味する。これが衝突した場合、その被害は上甲板やその上にある構造物ではなく、もっと低い位置の船体、喫水線から上甲板までの間を指す乾舷に刻まれることになる。
そして今更であるが、
「想定する彼我の攻撃手段がミサイルである現代艦は、これを当たらずに迎撃するという思想ですので、大砲を受けながら撃つという昔の軍艦のような装甲はありません。」
と矢賀 国防総軍統合参謀総長が続けた通りで、衝突すれば通常、前述のような民間船舶が相手であっても今回のような被害が出るものだ。
加えて今回衝突したのは、地球史での昔の軍艦に相当する大艦巨砲主義に則った設計思想の艦艇だ。逆に相手の被害は国防海軍巡洋艦の大破に対して小破程度だろうか。
「人命救助は?」
「衝突後直ちに、実施しています。」
ミサイル巡洋艦の大破という目前の事案に対する緊張感が部屋を満たす中、頭を抱えた赤城 外務大臣の一言で話題の主体がミサイル巡洋艦から変化する。
「もう交渉は無理だ。」
レンツ帝国が求めるところとは、本国から自身の勢力圏に至るまでの航路上とその勢力圏における不安要素を払拭することだと考えられている。
今の状況は、フリト帝政国との関係も含めて日本国を敵性と判断するレンツ帝国にとっては、今後の対応の強硬化を進める結果となったことだろう。
この状況で外交窓口を設置することはもはや不可能であり、レンツ帝国との外交交渉に臨むことは困難となった。
お久しぶりです。[虎石_こせき]です。
帰国しました。日本ってすごい、と再認識しました。
あまり自由な時間はなかったのですが、楽しくないわけではなかったです。いつ日本特事が起きるかわかりませんし、皆さんも行けるうちに行きましょう。




